08話 ゴーストと新スキル
「ギルはどうだった? ダリオ」
「どうだったも何も、5階の主を倒しちゃいましたよ。坊ちゃん。
しかも相手はゴースト」
「本当か? ・・・霊体を斬れる程とはな」
「ブラウも居ましたが、ゴーストは一人でやってましたね。
魔法にも動じてませんでしたし、10歳で出来る事じゃあ無いです」
「そうか。あの子は、一人でも大丈夫そうか?」
「この2日、坊ちゃんを見ていて思ったんですが、坊ちゃんには下手に制約をかけずに、自由にやらせた方がいい気がします」
「どうしてそう思う?」
「勘ですかね」
「勘か」
「ええ、あんな10歳いませんからね。下手に干渉すると、道が狭まるんじゃないかと。
それに、何か考えがあるみたいで」
「お前もそう思うなら、そうだな、そうしよう。
あの子は、家を出ると、公言しているようなものだしな」
「一応、ミコー村の領兵と協力すれば、目は届きますしね」
「そうだな」
ミコー村から帰った次の日、5階の階層主だったゴーストを復活させた。
E級の魔石は、今のマナ量でも、六割は持っていかれた。
自分に使うか迷ったけど、今後の事を考えると、やはり数が欲しかった。このゴーストは火属性魔法を使えるし、耐久力も結構ある。
素の攻撃は通さないし、闘気は必要以上にマナを使わなければ、霊体の体にはダメージが通らない。魔力を纏える相手は限られる。
・・・これだけ聞くと、なんか、かなり強そうに聞こえるな。
相手が同格なら、霊体はかなり厄介な性質だと思う。
プラスして、ゴーストは屋敷でも目立たないしな。
ゴーストは霊体、物質を貫通するから、どこでも待機場所に出来る。
ゴーストの能力確認中、ゴーストの放った言葉が。
(アタシ…ヒョウイ、スル)
なんと、このゴーストは女性型だったようだ。顔は見えないし、声も籠っていたしで、戦闘中は気付かなかった。
いや、女か男かが問題じゃない。このゴーストは憑依できると言う。
試しに、俺に憑依して貰うと。
おお!! 身体が勝手に動くぞ! 意識はあるのに不思議な感じだ。
浮けはしないんだな・・・当たり前か。
ただ、あまり強い能力じゃない。
俺が許容しなければ、憑依は弾かれるし、基本的に格下にしか通用しないようだ。
面白い能力に変わりないし、憑依をしていれば、外にも気兼ねなく出て行けるのはいい事だ。
外に出る時は、ブラウの中に入っていて貰うか。
ゴーストの名前は、女型で、火魔法を使うという事で、燐火に決定した。
(リンカ…ワカッタ)
(ブラウとも仲良くな! ブラウも頼んだぞ)
(はいっす! よろしくっす! 姉さん)
(ウン…)
大丈夫そうだな。いいコンビかも。
ここ3日、ブラウと燐火には悪いが、マナ量を増やすために、復活させた魔石は自分に使っている。E級の魔石を使うのに、消費が大きすぎたからだ。
おかげで大分強くなった気がするし、ダンジョンでガス欠にもならなそうだ。
F級の魔石を復活させるのも簡単になったし、これならD級も余裕な気がするな。
配下を増やすなら、先ずは、マナを増やして行くのが効率がいいよな。
一旦、俺のマナ量を上げて、使える魔石も増えれば、配下の強化も捗る事になる。
うん。このサイクルを基本にしようか。
F級魔石のストックは、父上から貰った分も、ダンジョンで手に入れた分も、使い切ってしまった。五十個近くあったんだけどな。
どうせ売っても高が知れてるから、今後手に入れても、配下の強化に使って行こう。
さあ、お預けしていた魔石を使ってみよう。
ミミックの魔石だ!
コイツには得体のしれない期待感を感じている。
何故だか、魔石を見ているとソワソワしてしまう。
何だろうかこれは?
俺は、魔石にいつものように魔力を注いで復活させ、マナを吸収する。
魔石は、想像通りE級だったようだ。体感で分かる。
《スキル『小さな宝箱』を獲得しました》
神の声が聞こえたぞ! 俺の想像通りなら、このスキルは良さそうだ!
俺は早速、『小さな宝箱』を使ってみた。
魔力が吸われたが、少量で済んだ、
ズズ・・・
目の前の空間に、一直線の亀裂が入ったかと思うと、縦横50センチ程だろうか、黒い空間が口を開いた。
あの時のミミックが、大口を開けたように上下に開いている。
(うわーお!? これってもしかしてアレか!!?)
いや、落ち着け俺、まずは試してみよう。
これ、手を入れても大丈夫か? えーと、何か無いかな? 魔石でいいか。
俺は、黒い空間に向けて、魔石をポイっと、投げ入れてみた。
変化は無い。ちょっと怖いけど、俺は空間に手を入れてみた。
ふんふん、成程ね、何となく分かったぞ。
手を入れても、魔石を掴む事は出来なかったが、魔石を意識するとスッと手の中に収まってきた。
出し入れは自由、と。
次は空間を開いたまま、ブラウにも、物の出し入れが可能か実験してみた所、物を入れることは可能だったが、出すことは不可能な一方通行だった。
大きさや、中の時間がどうなっているかは、手を入れた時に分かった。
大きさは1メートル四方の立方体のイメージで、時間が流れているのかが分からないほどゆっくりな次元のようだ。
かなり使えるな!
発動時に、魔力を少し消費するだけで済む。最高の保管庫を手にいたぞ!
取り敢えず、魔石を全部入れといて、と。
後は、食料やら戦利品を入れよう。
必要な物は、随時出てくるだろうし。
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「2人共、大分様になってきたじゃないか」
「当然です父上! 俺は剣の稽古を欠かして無いしな!」
「それなら、俺も欠かしてないんだよなぁ」
「お? なら俺とやるかギル? 格の違いってのを教えてやるよ」
「うげっ。めんどくさいよ、俺は」
「フッ、やってみるといい。2人共」
マジかい父上。
しょうがない、ルールはいつもので。
闘気有り、突きは禁止で、決め手の一撃は寸止めね。オーケー。
「よし。いいな? 始め!!」
「ウリャアッ!」
リチャードが、性格に似合わず、綺麗な型の上段からの振り下ろしで掛かって来る。
でも、正直、負ける要素が無い。闘気の差がありすぎる。
カァン!! という木剣と木剣がぶつかる、甲高い音が響く。
「うっ!」
木剣を一度合わせただけだが、リチャードは、闘気の差に気付いて動揺している。
俺はすぐさま、リチャードの足を踏みつける。
リチャードの足を固定し、その場から動けないようにしてから、木剣を狙って剣をぶつける。
リチャードにとって、意外な事が連続で起きたせいで、剣を簡単に手離してしまった。
「そこまでだ。よくやったなギル。
リチャードは油断と、動揺を突かれたな」
「はい…父上」
「・・・心・技・体が大事なのだよリチャード君」
「しんぎ、たい?」
「そう! シンは心、精神力の強さだ、さっき父上が言ってたやつだな。
ギは技、剣術で言う流派の技や経験、スキルの練度。
タイは体、自分の肉体や闘気の強さで、この三つのバランスが大事だって事なのだよ」
リチャードが落ち込んでいるので、テキトー武道論を教えてみる。
「なるほどな! 俺は特に心を磨けってことか!」
根が素直なリチャードは、真に受けたようだ。俺に負けたことも忘れて、どこかに走って行ってしまった。
でも嘘じゃない。きっと役に立つはずだ。
「心技体とは面白いな」
「ただの思いつきですよ、父上」
「私が諭そうと思っていたんだがな。先を越されてしまったな」
やはりこの茶番は、リチャードの為だったようだ。遅かれ速かれ分かる事なら、早い方がいいもんな。