06話 ミコー村ダンジョン
冒険者ギルドの食堂で、ネビルさんと別れ、俺は、ダンジョンに向かう事にした。
ダンジョンは、街から出て北西のミコー村にある。
ミコー村は、ダンジョン街になっていて、冒険者の多くは、あっちがメインの戦場になっている。
10年前にあそこが、アジノ家に奪われていたら、ウチの領地は、今より苦しかったんだろうな。
因みに、俺が住んでいるこの町の名は、領都アージェント、俺が会ったことのない、今は亡き祖父の名が、町の名前になったらしい。領地の南側に位置していて、周りは平原で農耕地になっている。
領内には大きな河も流れていて、土地は豊かなのだ。
「馬で20分か~。近いような、遠いような」
「何ぶつぶつ言ってんですか! しっかり捕まっといて下さいよ!」
ダダッ! ダダッ!
ダリオと俺を載せて、街道を疾走する馬、いや魔馬。
確かセドという、馬より速く、大人しい性格の種族。
俺も欲しい・・・。
こいつは、通常の馬車なら1時間掛かる所を、15分で走るし、体力もある。
今はブラウがいるから、スピードを落として、走って貰っている。20分くらいかな。
ブラウは、後ろを追いかけて来ている。マナが増えたから、大丈夫そうだ。
鞍は魔道具の一つで、揺れと風を軽減してくれる優れものだ。
昔、馬がいる! と思って近づいたら、こっちを見たセドが明らかに魔物だったので、相当ビビったのを覚えてる。実際には大人しくて賢い魔馬だった訳だが・・・。
「めっちゃ速いなー。もう着いた。
この馬って、どこに生息してるか分かる?」
「こいつは、西部の高原にいるんですよ。
それをルキシュ家って所が、繁殖させてて、ウチは2頭、そこから買ったんですよ」
「ふーん、権益ってやつ?」
「ええまあ、でも正当な値段ですよ。
北の連中と違って、西の貴族はまともなのが多いんですよ」
ダリオは、北の貴族に厳しいな。もっと言ってやれ。
「でも、坊ちゃんなら、何とかなるかも知れませんよ?」
「何で?」
「ここにも出るんですよ、あの馬」
ダリオの言いたいことが解った。
ダンジョンに生息地は関係ないもんな。出るか出ないか、それだけだ。
「それに、馬にこだわる必要も無いでしょう。坊ちゃんは?」
「・・・それは確かに」
「取り敢えず、行きましょう。ダンジョンには領兵と冒険者なら、簡単に入れます」
ブラウももう少し大きければ、乗れそうだよな、安定し無さそうだけど・・・。
(疲れてないか? ブラウ)
(大丈夫っす! 休憩もしたし、朝の魔石が効いたっすねぇ)
(効くってお前・・なら、このままダンジョンに行くぞ)
(はいっす!)
なんかミコー村は活気あるよな。冒険者も多いし、それを相手にする商売人の懐が大分潤ってそうだ。
宿屋が多いな、次いで食堂かな? 当たり前だが、ギルドの支部もある。
ダンジョンは、村の中央にある。
昔、話を聞いた時は、ダンジョンが町中にあって大丈夫なのかと、心配になった。
日本の漫画では、スタンピードがよく起こるのを見てたから。
父上に話したら、面白い発想だって言われてしまった。
氾濫が起きるとしたら、西の大森林や、洞窟といった、魔障が溜まる所だと云う。
ダンジョンの外見はシンプルな神殿だ。
地球にあるようなデカい建物じゃない。家三軒分くらいの大きさで、その周りに店が囲むように並んでいる。
「そういえば、ダリオも一緒に入るの?」
「そりゃあ当然でしょう。まだ家も出ていない、10歳の坊ちゃんを一人で行かせたら、アイシャ様に俺が殺されちまいますよ」
「考えすぎでしょ! 俺、一応冒険者なんだけど」
「オホン! さっきのは冗談ですがね、せめて、今日ぐらいはお供しますよ」
「おっけー! じゃあ頼むよ」
神殿の中には、初めて入るな。
まだ朝だからか、冒険者が結構いる。待ち合わせをしている者、準備を整えている者、休憩している者、怪我をした者迄いるな。
外観がシンプルなら、中身もシンプル。
水晶のオーブが載った台座が、10台並んでいるだけだ。
観察していると、4人一組の冒険者の内、1人がオーブに手を翳す。するとオーブが反応し、4人の足元の床石が、淡く光り出した。
次の瞬間、彼等は消えていた。
(おお!! ワープしたぞ! 初めて見た!!)
ダンジョンに侵入したんだ。俺も行くぞ!
「じゃあ二人とも、準備はいい? 行くよ!」
(やるっす!)
「いや、一旦、食料買って行きましょうよ。坊ちゃん」
ガクッ。 確かに忘れてた・・・。
村で準備を整え、気を取り直してオーブに触れる。
この光、何だか気持ちいいな。
と、思っていたら、俺達はダンジョンの中に転移していた。
これを経験出来ただけでも、今日来た甲斐があるかも。
流石は、神の造ったダンジョン。
正確には、その眷属だけど。
「洞窟か・・・。」
「5階までは、洞窟が続きますよ」
「暗くなくて助かるな」
「ダンジョンだけですよ。さっ、進みましょう」
洞窟の幅は4,5メートルはありそう。でも、『突進』は封印だな。
ボアのスキルを見る限り、広い所で練習しないとヤバい事になりそうだ。
最初の曲がり角に魔物が溜まってるようだ。アレってカエルか?
人型だ、2体いる。
「ゲギャギャ!! ゲギャ!」
俺達に気付いて一直線に向かってくる。けど遅い、闘気を使えば。
ズシャッ!
瞬殺だ。
F級で、数が少なければ余裕だな。もう1体は、ブラウが嚙み殺していた。
牙から毒も出してるし、明らかにオーバーキルだ。
でも、スキルも進化するって言うしな。
無駄ではないか・・・。
ボシュウゥーー。
蛙の兵士は、魔石だけを残して、身体が空気中に霧散していった。
「お見事! 坊ちゃんのインチキスキルのお陰か、下級なら余裕ですね。
でも、どんな時でも気は抜かないように」
「了解、今の蛙って何て言うの?」
「あれは、フロッグマンって亜人型ですね、その戦士です。
亜人型とは言っても、地上でも人間の敵ですよ」
「成程ね、正確には亜人では無いって事か」
「そう言う事です」
マナは朝、魔石に使ったけど、ほぼ回復してきたな。
1つ使っとくか、
俺は、蛙戦士の魔石に魔力を注ぎ込んだ。
マナが順調に増えてるから、消費は三割に減ったな。
《スキル『舌伸撃』は獲得不可能です》
お? あいつ、スキル持ってたのか。
獲得出来なかったのは残念・・・でも無いな。
むしろ、出来なくてラッキーだ!
ボアの時は、獲得するかどうか選べたけど、不可能な場合は強制終了っと。
『魔石復活』の仕様を、何かにメモっときたいな。