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03話 西の大森林

 私はマルセロン男爵領の領主、レオン・マルセロン。

 現在、私は大森林の浅層を間引きする為、雇った冒険者4名と従士5名、それから、末の息子ギルバートを連れて、西の大森林に向かっていた。  

 馬車の中では、ギルが本を読んでいて、その足元では、魔狼のブラウが寛いでいる。


 昨日のことだ。ギルの部屋を訪れた私は驚いた。

 息子が、何やら話があると言うから、部屋の中に入ると、目の前に魔狼が現れたのだ。だが、魔狼は大人しく、伏せて此方の様子を窺っていた。剣は佩いていないが、拳を握る。するとギルが、アイツは大丈夫、自分の配下だから。と言うではないか。

 この屋敷の中に、魔物が居る筈もないが、私は戸惑った。

 詳しく話を聞くと、ギルのスキルは、魔石のエネルギーを再生するものではなく、魔石から、魔物自体を復活させるというものだった。しかも、念話で話が出来るようで、魔狼は息子の指示を聞いて、私の周りを一周して鳴く、という芸を見せた。これだけ賢ければ、人に危害は加えないだろう。正直、羨ましい能力だ。

 ギルのスキルは、『魔物使役』という事にしておけば、当分は問題ないだろう。

 ギルが最後に、魔物の配下を増やして、一大勢力を築く。と不穏な事を言っていたが、流石に冗談だろう。

 この子は、今より小さい頃から、頭が良かった。稀に見る天才と言ってもいいが、少しばかり難がある。

 幼い頃から、スキルや魔法に興味を持ち、レベルという言葉には、特に強い反応を示していた。その興奮を静める為に、10歳になれば全てが叶うぞ。と話してやると、更に興奮していたのを思い出した。

 ・・・本当に大丈夫だろうか?




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 昨日、復活したブラウは、特に変哲もない魔狼だ。たぶん、たぶんって言うのは他の魔狼を知らないからだな。 

 Fランクの魔石だったから、魔物としては底辺に位置する筈だ。もしかしたら、今日の狩りでは、活躍を期待出来ないかもしれない。

 でも、今日は父上達がいるからな、止めをさせれば経験値を少しくらいは稼げるだろう。

 俺のスキルには、魔力が必要だ。昨日の体感だと、F級の魔石を一つ復活させるだけで、限界が来る。レベル上げは必須だな。

 レベルが上がると、マナの総量が増える。

 初めてレベルが存在すると知った時は、レベルがあるという事実に、物凄く興奮したんだけど、なんか違くね? ってなった。

 前世のゲームの様に、攻撃力とか守備力とかは無くて、マナが増えるだけだったからだ。

 ただそれは、話を聞くと納得した。増えたマナをうまく使って戦うのがこの世界の常識のようだ。マナを魔力に変換して、放出したり、マナを闘気に変えて、身体機能を上げる事も出来る。

 昔、父上の、ソードマスターとしての闘気を見せてもらった。

 ちびった。比喩じゃなく本当に。

 

「ギル坊ちゃん、もう着きますよ。準備はいいですか?」

「うん、剣しか持って来てないしね」


 馬の上から、ダリオが馬車の窓越しに話し掛けてくる。

 外を見ると、もう間近に大きな森が迫って来ていた。

 大きな木が乱立していて、自分達が小さくなったような錯覚に陥ってしまう。


(ふぉおーー!! でっけー!)


 前世の記憶でも、森は身近にあったけど、この森はスケールが違う。

 大森林の全容はどうなってるんだろう? 確か、西の王国まで続いてるって話だけど、距離が分からない。

 今日は、浅層で間引きするって話だ。

 俺は、父上とダリオの3人で行動する。後は、冒険者と従士で分かれて、それぞれの持ち場を回るようだ。


(冒険者かー、かっこいいよな)


 ちらっと話したけど、C級のベテランで、最近はウチの領地を基点に動いているようだ。俺も家を出たら成りたい職業だ。

 神様が運営してるからな、信用度が段違いだ。



「坊ちゃん、その狼、戦えるんですよね?」

「うん、ブラウも俺と一緒に戦うよ」

「まあ、ほどほどで」


 邪魔はしないように、気を付けなきゃな。


 俺達が森に入ってすぐの事だ。森に多く生息するゴブリンを発見した。

 10歳の俺と変わらない身長だ。130~140cmくらいの緑の肌の小鬼、


「丁度いい。ギル、やってみろ」

「(アレ? 俺だけで? まあいいけど) はい!」

(ブラウ、やるぞ!)

(待ってたっすよ、旦那!)


 ゴブリンは2体。俺は、集中して闘気を練る。父上の闘気と比べると、蟻みたいなもんだ。でも、意味はある。相手がゴブリンならば。


(ブラウ、奇襲して攪乱してくれ!) 


 ブラウが、音も立てずに回り込んで、ゴブリンの側面から飛び掛かる。全く気付いていなかったゴブリンは、慌てて逃げようとするが、間に合わなかった。ゴブリンの首に、ブラウががぶりと噛みついて、体重をかけて離さないようにしている。

 ブラウやるじゃん!

 俺も既に走り出している。襲われた仲間を助けようと、棍棒を振り回してブラウに襲い掛かるが、俺が剣を差し込んで棍棒を止める。驚愕した目で俺を見るゴブリン。その隙を見逃さず、剣を返して首を刎ね、止めを刺した。

(ナイスだブラウ! 良い動きだったぞ)

(ゴブリン如き楽勝っす)


「良くやったなギル、ブラウもな。大丈夫か?」

「はい! 問題ないです父上」


 俺の精神衛生を心配してくれているんだろう。

 俺が、ただの10歳なら、もっと精神的に疲労していただろうけど、弱肉強食の世界に転生して早10年、魔物との実戦こそ初めてだったが、剣の稽古は勿論、魔物にも見慣れている。

 一度死んでるからか、普通の人間と死生観が違う。

 それに、俺は前世9歳、今世10歳で、少しは大人になったつもりだ。生物を殺すという事に躊躇いは無い。

 一番の大きな要因は、ウチの領内の雰囲気かもしれない。

 普段は見ない空気を、時折、感じる事があった。危機感だ。10年前の件で、領民は父上を責めなかった。解っていたからだ。北の貴族から疎まれていた事を。最初から敵だらけだった事を。領民達は知っていた。だから責めなかったし、ここから離れる事もしなかった。

 その思いを父上を始め、マルセロン家に仕える人間は、皆背負っている。

 俺も何とか力になりたいと思う。

 領地は、セネリオ兄さんが継ぐけど、俺だって手助けは出来るし、冒険者として、領民を助ける事も出来る。

 だから、心配ない。この空気が、俺を人知れず強くしてくれたと思う。


「そうか、ならいい。ここからは、ギルに止め役を任せる。いいな?」

「はい! 父上、任せてください!」



 ここからは、ダリオの見せ場だった。

 どうやっているのか、簡単に敵を見つけては、此方に誘い出すのだ。何かのスキルか、それともそういう技術なのか、俺には判別がつかなかった。

 この森は、当然ゴブリンだけじゃない、図体がデカく、突進が凶悪なラッシュボア、ブラウと同じ、群れで行動する魔狼(ウルフ)、ゴブリンと敵対しているコボルト族、木の上に潜み、頭上から襲ってくるジャイアントスパイダー、噛まれれば、厄介な毒を持つヴァイパー等、浅層でも様々な魔物を見る事になった。

 F~E等級の魔物だが、父上とダリオにかかれば、狩りの獲物でしかない。

 一撃で深手を負わせ、俺に止めを回してくれる。勿論、全てではないが、

 全部で何体狩ったんだろうか?

 40体はいったと思うが。

 都度、魔石も取り出しているし、流石に疲れて来た。

 俺のレベルは、2は上がったはずだ。

 途中、身体がジワリと熱くなる事があった。

 アレが噂に聞く、レベルアップってやつだな。確かにマナが増えた感覚があった。


「そろそろ引き上げよう。別動隊も集まる頃合いだ」

(ナイスタイミング、父上)


 どうやら魔石と、ボアの死骸だけを持って帰るようだ。

 あのデカいボアを、軽々と持ち上げている。流石ソードマスター、ダリオも担いでるけど。

 ブラウは、途中でボアを1体食べていた。丸ごとじゃないが、魔物の成長には必須なようだ。


「父上、ラッシュボアの魔石、貰ってもいいですか?」

「ああ、いいぞ。試すのか?」

「はい。もう一つの方法を」


 ダリオは、今から何が始まるのかと期待顔だ。そう期待されても困る。失敗するかもしれないのに、集中して、俺はスキルを発動する。


"魔石復活"


 昨日と同じ現象が起きる。

 やっぱり、新品状態じゃないと発動しないんだな、昨日の夜にも試したけど、くすんだ魔石はダメだった。

 魔石は、魔力を吸収して強い光を宿した。

 成功だな。

 俺は魔石を拾い上げ、強く握りしめた。


(頼むぞ、吸収!)


 手の中の魔石が、淡く光って、 ブワッ、 と風が起きる。

 マナの放出が始まり、俺の身体に入り込んでくる。

 身体が、レベルアップした時みたいに熱い。

 

  カシャンッ!


 マナの風が収まると、魔石が全ての力を使い果たしたのか、手の平の中で色を失って割れてしまった。


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