02話 ハズレか否か
「おかえりなさい御当主、ギル坊ちゃん」
「おかえりなさいませ」
「ただいまー」
「それで、どうだったんです?」
緩い挨拶と共に俺の判定結果を聞いてきたのは、従士の一人で、名前はダリオ。もう一人は使用人のビスカ。
ダリオは、基本的に緩い。何時もは緩いくせに、ウチの北側にある隣領、アジノ家をいつかぶっ潰す! と公言している恐れ知らずな男だ。
ウチの従士達は、大体こんな感じだけど、一番はやっぱり、このダリオだろうな。
俺も、話を聞いてからは、アジノ家は嫌いだ。
だから、もっと言ってやれと思ってる。
「それが微妙だったんだよねぇ。後で試したいんだ。
魔石ってあるよね? 等級は低くていいからさ」
「そりゃ、ありますよ。ビスカちゃん、用意して貰っていいかい?」
「はい! 承りました」
「なら、昼食の後にすればいい、今日は剣の稽古も休みにするか」
「ありがとうございます。父上」
今日の昼食は、パンと野菜メインのスープ、それと、レイジゴートというヤギ型の魔獣の肉が出てきた。今日も旨そうだ。
ウチは、10年前にアジノ家に領地が奪われたから、耕作地も当然減った事になる。だから、野菜が出るだけ有り難い話だ。
俺、この世界に結構順応してるよな?
領地は小さいし、周りは敵だらけっぽいけど、毎日、楽しく過ごせてる。
「ギル、話は聞いたけど気にする事ないからね! 魔法ならマーリがいるわ。帰って来たら頼んでみましょう!」
「あ、はは、全然気にしてないよ母上」
「なあギル、お前のスキル、どんなだったんだよ?」
「ん? あー、俺のは、そうだなー、魔石を再利用できるやつ、かな?」
「なんだそりゃ、そんなの魔力があれば、誰でも出来るだろ? 平民より役に立たねーな。剣の稽古が足りなかったんじゃねーのか? 」
(やっぱそうだよなぁ。だから、言いたくなかったんだけど・・・)
「まあ、はしたないわよ! リチャード!」
「うっ! ご、ごめんなさい」
次男君は、悪い奴じゃない。俺より口が悪くて、ちょっと、正直過ぎるだけだ。偶にこうしてムカつく事もあるけど。林兄弟みたいな奴だ。
でも、こいつのお陰で、俺の言葉遣いも見逃されてる節があるんだよな。
因みに、俺の二つ上の兄だ。父上と同じく、深い赤い髪色をしている。
母上に頭が上がらないのは、相変わらずだな。
俺が、この世界で最初に見た人は、母上だった。
俺と同じ金髪で、31歳。かなりの美人さんだと思う。
元は第二夫人で、今は正妻になったらしい。俺にも、他の兄弟達にも、分け隔てなく優しい人だ。
第一夫人は、次男のリチャードを産んで間もなく、亡くなったようだ。
父上と母上は、赤ん坊の時から一緒だったので、しっかりと親という認識がある。
前世の両親同様に、家族の情は湧くものらしい。この2人が、クズ貴族じゃなかったのは幸運だ。物語ではよくある話だからな。
俺は、ご馳走様と言って席を立つ。足早に自分の部屋に戻る。
本当に使えないスキルかもしれないけど、やっぱり期待はしちゃうよな。
部屋に入ると、俺の机に籠が用意されていた。ビスカが保管庫から、集めて来てくれたのだろう。籠には六個の丸い魔石が入っていた。色はそれぞれ違って、一つの大きさは直径4cm程、屋敷の照明魔道具に使われるもので、低ランクのものしかない。
一つ手に取って、じっくり見てみる。既に使用済みのようで、色がくすんでる。
じゃあやってみるか・・・。
ふうー。
「魔石復活!」
(あら?)
スキルを意識したが、魔石は、うんともすんとも言わない。
結構、気合を入れたのに恥ずかしいじゃねーか!
だが、おかしい。
(魔石復活! 復活! 起きろ! おーいマセキ!)
他にも試してみたけど、全然ダメだ。使う意志さえあれば、発動するって聞いてるんだけど・・・。
一応、念じる度魔力は吸われてはいた。でも、それって誰でも出来る事じゃないか。
やっぱハズレかよ! せっかく転生したってのに・・・・・・いや、一応全部試してみるか。
落ち込むのは、それからでも遅くない筈だ。
結局、五つの魔石が失敗に終わった。ラスト一つだ。
お? これは新品じゃないか?
くすみもなく、綺麗な青色をしている。
魔石を手に取った時、俺は確信した。
こいつは、イケるぞ。
「魔石復活!」
魔石が、俺の手から離れて スウッ、 と宙に浮き、身体からごっそりと、魔力が吸われていくのが分かる。いや、目で見えている。魔力の風が魔石を中心に、渦を巻きながら吸い込まれていく。
マナがほとんど吸われちゃったんだけど。体感だが、七割は持っていかれたぞ。
風が収まると、魔石は床に落ちてしまった。
あれ? 何も起きない? こんなにすごい演出があって?
いやいやそんな筈は、と、魔石を拾い上げてみると。
(む? 解るぞ)
この魔石には、異なる使い道があるみたいだ。選べるのは一つだけか・・どっちも試したいけど、今回はこっちだ。俺は魔石に念じた。すると、魔石に強い光が宿り、さっきの魔力の風が、球状の形を作り出す。やんわりとした風だ。風が収まって、目の前に現れたのは・・・。
「ウオン!」
「おお!!! 魔獣か!? 狼じゃないか! かっこいいな!」
目の前に現れたのは、一匹の狼の魔獣だった。
青みがかった毛色で、普通の魔狼なんだろうか?。
「お前、嚙まないよな?」
(噛みつきゃしませんよ、旦那ぁ)
「うほわ!? しゃべった!?」
(旦那のお陰っすね、近くにいると話せるみたいっす)
マジか!!
実際には、グルグル言ってるだけなんだけど、こうして狼の声が、頭に直接響いてくる。
うおお!! すげぇー! 何か想像と違って、剽軽者っぽいけど、全然いい! 許す!
(何を喜んでるのか分かりませんけど、大丈夫っすか、旦那?)
「ああ、悪いな、お前名前は?」
(あっしに名なんて無いっすよ、旦那が付けてくれっす)
「(一人称あっしなのか・・・俺にそう聞こえてるだけかもな)まあいいや、じゃあブラウでいいか?」
(喜んで!)
ブラウに不満は無いらしい。尻尾も振ってるし、ホントに気に入ってるみたいだ。
前世のゲームでもよく使った名前だ。青のドイツ語読みなんだけど、ネットで調べて名付けしていたのが懐かしい。
というか、このスキル。実は凄いんじゃないか?
まだ、よく分かっていないけど、ハズレって事はないだろう。俺的には神スキルに感じる。さっきまで疑ってて悪かった。
ブラウを見ていると、前世のとあるゲームを思い出した。
ワールドモンスターズ。そう、ワルモンだ。悪者じゃない、死ぬほどやったなー。あれはモンスターを捕まえて、好みの型に育成して、戦うだけのゲームだったけど、単純だったからこそ面白かった。モンスターは、2000種類を超えていたし。
転生前に、新作が出るのを心待ちにしていたのが懐かしい。
突然、ブラウが扉の方を見て警戒を始めた。
俺は、落ち着けと言って、ブラウの警戒を解いてやった。どうやら、人が近付いて来たのに、気付いたようだ。
(父上か? ブラウの事はどうしようか?)
扉を叩く音がしたので、父上には話しておくかと、決断する。扉を開けて、先ずは、廊下に出て用件を聞く。
「ギル、ちょっといいか? スキルは試してみたのか?」
「はい、用件はソレですか?」
「? いや、もう一つあってな。明日、冒険者とウチの従士を連れて、西の森へ狩りに行こうと思ってな。お前も、そろそろどうだ?」
(マジか! 行くに決まってるじゃん!)
「絶対行きます!!」
「そ、そうか。なら伝えておこう」
「はい。それと、相談があるんですが。中に入ってください」
俺は、父上にブラウを見せて、スキルの事を分かっているだけ説明した。
父上曰く、魔物を使役するスキルはあるが、復活させるスキルは、初めて見ると云う。
他家に情報が渡って、大事になってもつまらない。秘匿しておくのが無難だろうとなった。
俺と父上は、簡単な決め事を作って、話は終わった。