19話 仕立屋
コンコン。
部屋に、軽いノック音が響く。
早朝から何事だと、俺が、欠伸をしながら扉を開けると、使用人の1人、ビスカが立っていた。
「おはようございます。坊ちゃま。旦那様から、朝食を食べたら、執務室に来るようにと、言われてます」
「こんな朝早くから?」
「そうなんですよ! 仕立屋のエルマンさんと、娘さんが慌てて屋敷へいらして、今は、旦那様と密談してますよ」
「密談て・・・」
ビスカの言葉に苦笑いしつつも、事情を察した。
父上も行動が早いな。アラクネの糸は極秘だから、手紙を書いたんだろう。それを読んで、すぐに来た、仕立屋も負けてないけど。
俺はすぐに、朝食を食べて、執務室へ向かった。屋敷の時計を見ると、まだ、6時にもなっていない。それだけウチの領にとっても、仕立屋にとっても、大事なんだろう。
「おはようございます。皆さん」
「ギル、顔は知っているだろう? 仕立屋のエルマンと、娘のティアだ。お前の採寸を頼んでいるから、測って貰え」
エルマンさんは、50代でひょろっとした体格に、眼鏡が似合うダンディなおじさんで、娘さんは、20半ばだろうか、活発そうな印象を受ける。
二人と挨拶を交わして、俺は、ティアさんに採寸をして貰う。
まだ、アラクネの糸の入手経路が俺だと、話す段階ではないので、今日の俺の仕事は、ただ測られるだけだ。
俺は採寸されながら、父上とエルマンさんの話に、聞き耳を立てる。
「こんな素材が定期的に手に入るなら、私は何でもしますぞ、レオン様!」
「そう興奮するな、エルマン。世に出回っている、手触りの良い高級品もいいがな、この糸は、性質に変化を付けられるそうだ。これを利用して、わざと質を落として、価格を下げてやれば、市民にも手の届くものが作れる筈だ」
「それは素晴らしい! 貴族の方々と、私達市民では、欲しがる物が違いますからね。値段をどれだけ抑えれるかは、まだ分かりませんが」
「値段ならどうとでもなるがな」
「え?」
「ああいや、何でもない。気にするな」
父上は、昨日話し合った、アラクネ素材を使った服の、売り方を提案しているな。このまま、ブランド化の話に移っていきそうだ。
原価は0円だ。銅貨の1枚も掛からない。減るのは、アラクネのマナだけ。糸や布を、仕立屋に卸す価格は、本当にどうとでもなる。つまり売値もだ。
ウチとしては、服の値段や名前に、口を出せれば問題無いんじゃないかな。
採寸が終わったので、俺は父上達に挨拶して、執務室を後にした。
父上は、こっちを見て頷いていた。後の話も、うまくまとめてくれるだろう。
俺はまだ10歳、今後成長する事も考えて、ある程度、ゆとりを持った服を作って貰う事にした。出来上がりが、楽しみである。
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アラクネ関連を父上に丸投げして、まだ6時過ぎだったので、一度、拠点に行って、用事を済ませる事にした。ビスカには、今日は遅くなるかも、と言って出てきた。
拠点のある広場の雰囲気が、昨日からまた変わった。
木の柱が、もうすぐ立て終わりそうなんだが・・昨日、どんだけやってたんだ?
全体の形が見えて来て、ふと思う。
拠点の屋根って、アラクネの糸で造った方が良いかもしれない。見栄えも良いしな。
ネア達に屋根の相談をして、要らなくなった、俺と母上の服を渡した。因みに下着もだ。
ネア達アラクネは、糸や布を生み出せるのだから、既存の服を見るだけでも、勉強になるだろう。染色は無理だろうけど。
エルマンさんに、デザイン画をくれとは言えない。ああいう物は、彼等の技術と、努力の賜物だからな。
最後に、同じデザインを、そのまま使ったら駄目だぞ、とは言っておいた。
これから、ダンジョンに向かう予定だ。
7階層の事を聞くに、ボレアスは留守番かな。ウンディーネのミズネも、相変わらず泉で、精神統一中だ。心なしか、泉の水が、澄んでいる様に見える。ガンドは、作業に必須だし。
そうだな、フーコとカルを連れて行こう。
ガンドの負担を減らしたいし、新しい魔物も加えたい。アラクネも増やしたいし、もっと人手も欲しいな。そうなると、魔石が必要な訳だが・・・魔石が無限に欲しいぞ。
それと、ウチの集団名を決めたい。父上に説明する時も不便だった。配下とか従魔とか、呼びにくいんだよな。
(ボレアス)
(どうしました? ギル様)
(今から。ダンジョンに行ってくるんだけどさ、皆をよろしく。
後、皆で俺達の集団名を考えてくれないか?)
(集団名ですか?)
(そう! 名前があった方が便利だし、団結力も上がる。
大袈裟だけど、俺達は、この領に於いて、もう一つの軍団だからな)
(確かにそうですね。皆と相談して、ギル様の参考になるものを考えておきます。愉快そうですし)
(頼んだよ!)
ここから、ミコー村までは、領都アージェントとの距離と、左程変わりない。ブラウに乗って、ゆっくり行けば、8時には到着しそうだ。
(カルとフーコは、向こうで呼び出すから、そのつもりで)
(はやくしろよ。おれはひまだぞ!)
(全く、カルはガキなんだから。しょーがないから、ギルに魔法かけたげるよ。 ホイッ!)
パチン!
(フーコ、今のは?)
(風を避ける魔法よ! 感謝してよね~)
フーコが指を鳴らすと、風の膜に包まれた。
おお、これなら、ブラウの速度を上げても、いいかもしれない。
(サンキュー!! 行こうブラウ)
(飛ばすっすよ旦那!)
(ああ、任せた!)
フーコのお陰で、早く着いたな。今日は、ダンジョン三昧だ!
でも、その前に、一旦、冒険者ギルドに寄って行こう。
「お姉さん、この蛇皮って、いくらになります?」
「これは、岩大蛇のものですね。ギル様が討ち取ったんですか? 凄いですね~。・・大きさもあって、綺麗に形が残っているので、これなら銀貨10枚になります」
良い値が付くんだな、あいつの蛇皮。
受付のお姉さんは、蛇皮に手を這わして調べていた。どうやら、着用している手袋が、鑑定道具のようだ。
俺も欲しいなあれ。ダンジョンで出ませんかね。
D級の魔石の値段も聞いてみた所、一つ、小銀貨2枚になるらしい。勿論、売らないが、集めれば結構な額になるな。小銀貨の場合、10枚で銀貨1枚に相当するから、蛇皮に、どれだけ高い値が付いたかが、よく分かる。
俺は、お礼を言ってギルドを出た。
俺達は、ギルドから出て、早速ダンジョンに突入した。
1階層で、カルとフーコを呼び出す。『仲間召喚』は距離でマナの消費が上がるのだが、マナが増えた俺には、微々たるものだ。
(やっとでばんか~、あばれていいか?)
(本番は7階層だから、程々にな)
サラマンダーのカルは、一番幼い性格をしているが、言う事はちゃんと聞くからな。本当に暴れたりはしない。
今回、俺達は、下級魔石を集める事から、スタートした。1、2階層で、スライムやスケルトンの魔石を、6階層で、ウィスプの魔石を収集した。
途中、リザードマンの魔石から、俺は遂に『剣術』を獲得した。因みにだが、もう一つリザードマンの魔石を使っても、『剣術』が強化されることは無かった。
流石に、そこのズルは許されなかった・・・。
ステータス
名前: 風虎
種族: シルフ
ME: 5900
等級: C
属性: 天
加護: なし
能力: 固有スキル『半霊体』『風雲』『風霊』
標準スキル『仲間召喚』『魔力操作』『暴風結界』『疾風拳』




