18話 儲け話と村の構想
只今、岩大蛇の解体真っ最中である。
蛇皮自体は、岩の様に硬いが、剥ぐのは簡単だ。剥いだ皮は、大きく長い。うまくやれたようだ。ドラコニアンが。俺ではない。俺は、彼等から教えを受けていたのだ。
体長8mの巨体の肉でも、皆で分ければ、一瞬で無くなるだろうな。蛇肉って、美味しそうではあるが。
蛇は配下としては、どうなんだろう?
でも、今は魔石も足りないし、保管しておくか。
完成した池は、俺が、ミズネの池と命名したのだが、ミズネの池は、ネーミングが気に入らなかったのか、"精霊の泉"とミズネが独断で改名していた。まあいいだろう。
そのミズネは、泉の中央の湖面で、精神統一中だ。水の気を集めているのかな?
今はそっとしておこう。
ステータス
名前: 水音
種族: ウンディーネ(幼精霊)
ME: 5600
等級: C
属性: 水
加護: なし
能力: 固有スキル『半霊体』『流水』『水霊』
標準スキル『仲間召喚』『魔力操作』『癒し水』『舞闘水』
これ以上、ガンドを酷使するのは、流石に可哀そうだしね。今日はここ迄にしよう。
半日でこの規模の池、じゃなく、泉を造り出すとか、あり得ない事だが、それを受け入れている俺の感覚は、大分麻痺してきている。配下の頑張りは、忘れないようにしなきゃな。
皆に、今日はもう帰る旨を伝えて、ちゃんと休むんだぞ、と言った傍から、ガンドは穴掘りを再開していた。ドラコニアン達も、やる気満々なのだが、あいつら疲れんのかい。
帰り際に、ネアの所に寄って、糸と布地を分けて貰った。これは、ノーマルグレード品だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日の夜、話があると、父上に時間を作って貰った。現在、執務室で向かい合っている状況である。俺の手には、布で覆われた、トレイが収まっている。
こういうのは、演出が大事だと聞いた事がある。
「改まってどうしたんだ、ギル」
「父上、これを見てください!」
バサッ!!
俺は、覆っていた布を、勢いよく剝ぎ取り、投げ捨てる。
「全く、大袈裟に何だ。 うん? 糸と・・布か?」
「ちゃんと近くで見てください! 触ってもいいですよ」
「む、これはまさか・・・ダンジョンに居たのか?」
「ふっふっふ、違います。俺は、森に行ってたので、ダンジョンには入ってません。それにダンジョンでは、こんなに量を確保出来ませんよ」
「じゃあ、これは、どうしたんだ? 偽物でもない様だが・・・」
父上は、信じられないようだ。首を傾げている。だが、実物に触れてしまったからな。嘘か真か分からず、混乱の状態異常になってしまった。
仕方ない、見せるのが一番早いからな。彼女達には、既に了承を得ている。
「父上、驚かないで下さいね」
俺は、召喚のスキルを発動した。
執務室の床に、魔法陣が浮かび、下半身は蜘蛛、上半身は人間の女性の魔物が、姿を現す。
父上は、一瞬ぴくりと反応したが、理由を察して、すぐに平常に戻ったようだ。
呼び出されたアラクネは、教えてもいないのに、何故か、しっかりとお辞儀して登場した。ネアが教えたんだろうか?
「そう言う事か、どうやら、また進化させたようだ。召喚術にも驚いたが、アラクネとはな。これは盲点だった」
流石の洞察力。父上は気付いたようだ。アラクネだけの話ではなく、今後も、俺が配下の魔物を増やして行けば、また起きるかもしれない事だと。
でも、今日はアラクネの話だ。
「今日は、この糸と布を、どう活用するかの話ですよ、父上」
「ああ、そうだな。私も触った事しかないからな、詳しく聞かせてくれないか?」
「はい、アラクネの糸は、性質に融通が利くようで_____」
アラクネの糸について、ネアから得た自分の知識を、全て父上に伝えた。
「しかし、クイーンの糸は世に出せまい。アラクネの糸だけで十分だ」
「そうですね、クイーン謹製の糸は、僕らで使えばいいんですよ。これが、専用に用意して貰った布です。冒険者仕様で防刃・耐魔法・肌感全て高水準ですよ。いいでしょう? まあ、肌感以外は、未検証なんですけど」
「ほう! それは私も欲しいな、頼んだら作ってくれるか?」
「勿論です! 母上の分も頼んでみます。いずれ、ネアにお礼を言ってあげて下さい」
「ああ、その内、顔を出す。よろしく言っておいてくれ。後は、この素材を扱う職人と、アラクネ達の存在を、どう隠匿するかだな」
「彼女達にしろ、俺の従魔達は、森に拠点を構築中ですから、あそこにこれ迄通り、冒険者が来なければ問題ありませんね。ただし、いずれは、居場所もばれるでしょうね」
大森林には、わざわざ冒険者も、領民も、行くことは無い。禁止されている訳ではないが、浅層の魔物は、金にならないし、奥に進むのは、危険すぎて、割に合わないからだ。それに、ウチにはダンジョンがあるので、マルセロン男爵領に来る冒険者は、ミコー村に多く集まる。
ただ、魔物が増えすぎても困るので、父上が定期的に、冒険者を雇って浅層の駆除をしている。先週、俺が参加したアレだな。俺の配下が居るから、これからは必要無くなるな。どうやら既に一つ、家に貢献していたかもしれない。
出来れば、ずっと秘密にしておければいいが、それは無理な話だろう。俺が、森に出入りしているのは、いずれ噂として広がるだろうし、魔物を使役する俺と、アラクネの素材を結び付ける者も、出て来るかもしれない。
実際は、アラクネの存在がバレたって、そこ迄問題は無い。冒険者だって貴族を相手に、馬鹿な真似はしないし、森は進入禁止だと言われれば、大人しくする筈だ。ウチの領民は、父上を慕っているから、変な気は起こさないだろう。
問題は、一部の馬鹿と、外部の人間だ。一部の馬鹿は置いといても、他領の貴族が問題だ。ウチにも寄越せだの、安く卸せだのはいい。最悪なのは、ウチに打撃を与える為に、アラクネを討伐しようとする連中だ。
「父上、大森林の近くに村を造りませんか? 出来れば職人街の様な」
「藪から棒にどうしたんだ、職人街? 大森林の近くは、例え結界があっても、魔物が出て来るんだぞ。簡単な事ではない」
「魔物に関しては、問題ありません。ウチの従魔達が、拠点防衛のついでに狩ってくれますし、強固な壁だって築けます。それに、うまく行けば、農地も広げられますよ。あそこは、土地が余ってますからね。何なら、森を切り拓いたっていいですし。魔物の希少素材だって、これから増えていくことを考えると、ウチの財政にも恩恵が、」
「ええい、捲し立てるんじゃない! その壁とは何だ!?」
「あ、はは。すみません。ガンド、ノームを見たでしょう? あの子は、大地を操れるんですよ! 今日も大活躍でした。父上にも、見せて上げたいですよ!」
「ノーム、精霊か・・確かにあの時居たな。ふむ・・・」
父上と話しながら、俺は、前世の、とあるゲームを思い出していた。
フィールドやダンジョンから、魔物の素材や装備、価値ある資源を持ち帰り、店を開いて売り捌き、町には資源を投入する。何故か、それを主人公が1人でやるのだが、ゲームだから疑問にも思わなかった。店は大きくなり、町は、大都市にグレードアップしていくゲームだ。投入する資源で、町が派生していくのが面白かった。
当然、俺は、村を運営するつもりなんて無いし、自分には出来ないのも分かっている。そこは出来る人に任せればいい。人も金も必要なのだから。
だが、好都合な事に、俺の目の前には、この土地の主人が座っている。この主人がうんと言えば、全部投げてしまえばいいのだ。俺は、協力だけすればいい。
村の構想は、保険が目的だ。拠点の近くに村が出来れば、領兵も滞在する事になる。大森林の外側を巡回して貰えれば、馬鹿な連中も、容易に身動きが取れないだろう。
「気付いたかもしれませんが、俺達にとって、村は保険です。ですが、もし村が出来れば、マルセロン領は確実に、今より豊かになりますよ」
「その通りだが、今すぐどうこうという話でもないな。それに、お前の話は面白かったが、一度お前のの従魔と、その拠点とやらを視ない事には、動きが取れんな」
「確かに。では、一度足を運んで下さい」
「・・・その内のつもりだったんだがな。行くなら2日後だな。明日は、これを仕立屋に見せる。ギルも、ついでに採寸をして貰うといい」
「分かりました!」
思わず、村の構想を話してしまったが、反応は良かった気がする。アラクネの素材も紹介出来たし、プレゼンは、成功したと言っていいかな。
ずっと、俺の後ろで、静かに話を聞いていたアラクネ。話に区切りが着いた所で、何ともタイミングの良い事に、ネアに逆召喚されて帰って行った。
去り際も、しっかりお辞儀して行ったぞ。
俺は、手を振って挨拶を返したが、父上は反応に困っていた。一瞬悩んで、鷹揚に頷く事にしたようだ。