16話 拠点造り③ アラクネの糸
新たな配下として、アラクネ達が加わった。
彼女達には、拠点の防衛を担当して貰う予定だ。糸を木の上に張り巡らし、侵入者を感知して、迎撃するのだ。そんなに簡単な事ではないが、ある程度、機能すればいい。わざわざアラクネのテリトリーに、入って来る魔物も、少ないだろうし。
糸を巡らした後は、俺の足元にいる大蜘蛛達が、仕事をしてくれる。
クイーンのスキル、『産卵』は、大蜘蛛をマナを消費して生み出す能力だ。
卵は、産まれてからすぐに孵化した。本当の産卵ではなく、あくまでもスキル、という事かな? クイーンのマナが元になっているから、分身とも言えるかもしれない。一度に10体産むことが出来るが、マナの大半を使うので、1日一回が限度だ。無理に使う必要も無いし、もしもの時に、マナが枯渇なんて目も当てられない。
大蜘蛛達には、使う魔石がもう無いので、今しばらくはこのままだな。
100個近くあった魔石を、たった2日で使い切ってしまった・・・。
しかし、配下は相当数を増やしたな。
ドラコニアンはともかく、大蜘蛛達には、衝動的に使っちゃったもんな。だが、防衛は必要だし、将来的には良かった筈だ。
またダンジョンで魔石を集めたいな。次は7層かな。
グロテスクな魔物は勘弁だが、今回の大蜘蛛の様な魔物なら歓迎だ。ほとんどアラクネになってしまった訳だが・・・。
出来れば、スライムとかも確保しておきたい。
力が弱くとも、進化すれば有用な能力を発揮してくれる魔物がいる事は、実証済みだ。弱小でも、面白いスキルを獲得するかもしれないしね。強さ以外も、配下にする基準にしなきゃな。
(ギル様、少しお話が)
(どうしたのネア?)
(ギル様のお召し物に、こちらの糸を使って頂けませんか? 今身に付けているものよりも頑丈で、肌触りも良く、通気性も抜群のものと、自負しておりますわ。よろしければ布地を作成いたしますが、どうでしょう?)
(ほお!? これって確か・・・)
ネアとは、クイーンアラクネの名だ。アラクネはアラクネアとも呼ばれるから、そこから採った。
そのネアが面白いもの、いや、大変貴重な物を持って来た。この世界では、地球で言うシルクと、同じ立ち位置にある高級品だ。
拠点造りの事しか頭に無くて、すっかり抜け落ちていた。
渡された糸の束を、なぞるだけで分かる。これがいかに、質の高いものであるか。軽くて滑らか、更に頑丈と来れば、シルクでも敵わないだろう。比べても意味は無いんだけど。
アラクネの糸が貴重な理由は、彼女らが当然魔物だからだ。
蚕なら飼い慣らせるが、アラクネを飼い慣らす事は出来ない。使役する事は出来ても、限度があるしな。完全に言う事を聞く訳でもない。
世に出回るアラクネの糸は、ほぼダンジョン産だ。
これは、貴族でなくとも知っている者が多い。冒険者達の噂で伝わるからだ。ウチの国で言えば、南部のダンジョンに出ると聞いた事がある。申し訳ないが正確には覚えていない。その時は、興味無かったしね。
ダンジョンの魔物は、偶にしかドロップ品を落さないし、一度狩り尽くせば、時間を待たなければいけないから、自ずと数は限られるのだ。
そんな、希少価値も、性能も高い糸が、今、俺の手の中にある・・・。
グフフッ。
おっと、思わず悪い笑みが出てしまった。
いかんいかん、正気を保たなくては。
冗談は、さて置きだ。これはえらい事だぞ。
領地の手助けをするなんて息巻いていたが、今の所、1人で楽しんでいるだけだったからな。勿論、配下達も忘れてはいないが。そんな俺が、森に来てからまだ2日、ウチに貢献出来る日が、早くも訪れてしまったかもしれない。
アラクネ達に協力して貰えれば、大成功間違いなしだ!
俺が功績を貰っても、意味は無いが、うまく行けばマルセロン家の一員として、面目躍如だろう。
しかしこの糸、たぶん、通常のアラクネの糸ではない。クイーン謹製の一品だろう。
(ねえ、この糸ってただの柔糸じゃないよね?)
(勿論です! 妾の主様には相応しいものをと思いまして、張り切りましたのよ!)
(おお! ありがとう!)
ネアが云うに、この糸は、柔糸を元に鋼糸と魔力糸を縒って更に質を高めたもので、戦闘向きに紡いだ糸だと分かった。刃を防ぎ、魔法にも耐性を持ち、肌触りも追及したものらしい。
想像したものより、とんでもないものだった。
ネアには当然及ばないが、アラクネも硬糸を混ぜて耐久性を上げられるらしい。
ふむふむ。現時点でも、構想が大分広がるな。
俺は、ネアにお願いして、専用の布を、作って貰う事にした。糸もお願いしておくのを忘れない。町の職人に、冒険者用の服を仕立てて貰おう。極秘でね。
因みに、ネアは、人間の服を作る練習をすると言って、去って行った。簡単に布を作り出せるのなら、人間の服すら時間の問題だろう。
アラクネの糸は、なんとしても出所を隠さなきゃならないな。出所がバレれば冒険者だけでなく、一攫千金を求める、愚か者もやって来るかもしれない。
アラクネの糸だという事は、隠しようも無い。この世界には、解析系のスキルがあるからな。俺のスキルも、その一つに含まれるんだろう。
商品化するにしても、父上としっかり相談しないといけない。
ネア達に、拠点の防衛をして貰う筈が、まさか、領地の金策に繋がるとはね。
こうなってくると、あれだな。この拠点もどうにかした方がいいな。
ネア達は、スキルを使って、糸を生み出し、布を作るから、人間の職人の様に、道具はいらないが、作業部屋は用意してあげたい。今は簡単な仕切りでもいい。
ドラコニアン達とガンドに相談して、優先的に作って貰おう。
ドラコニアンには、簡単な住居を造るノウハウがあるのだ。スキル化され、元から備わっているもののようだ。実に有能である。
ステータス
名前:
種族: ドラコニアン
ME: 4600
等級: C-
属性: 水
加護: なし
能力: 固有スキル『劣竜鱗』『劣竜力』『熱感知』『住処作成』
標準スキル『剣術』『真空斬』『水衝拳』
ちゃんとした道具も、必要になって来るな。
そういえば、リザードマンからドロップした剣も渡しておこう。四本しかないが、元は、彼等の持ち物と言えるし、返しておこう。
ふむ、道具だけじゃなく、武器も必要だよな。
この拠点が、ある程度形になったら、冒険者としても金を稼がないとな。
森は大分切り拓かれ、ここは、森の中に出来た広場になっている。木々は幾らか残してあり、それも柱に利用する予定らしい。
ドラコニアン達が、柱を立て始めたな。ガンドが、スキルで地面に穴を空けた上で、更に補強している。そこに切り出した木の柱を、ボレアスが、上空から支え、ドラコニアン達と協力して、差し込んでいる。最後に、ガンドがまた地面を補強して、一連の作業が終わりのようだ。
竜が飛んでいるのは、やっぱり絵になるな! 『浮遊』で翼を動かす必要も無いので、静かだが、迫力がある。それに、竜が協力して建築してるってのも面白いな。他じゃ見られない光景だ。