13話 万気丹田
次の日、俺達は、準備を整えて、西の大森林に向かうことにした。
俺は、馬車に揺られながら、昨日の仮称ワイバーンから出た短剣を眺めていた。
短剣とは言え、子供の俺には丁度いい、俺の使ってる、ショートソードより使いやすそうだ。
町から出る前に、ギルドで鑑定して貰った。
こいつは"アウラ"という名前で、握りは黒く、柄頭と鍔は深い翡翠色をしている。剣身も綺麗な翡翠色だが、此方は薄い。見様によっては、うっすらと光っている様に見える。
魔力を注げば、俺にもウィスプが使っていた風刃が使えると言う。ワイバーンの魔法でないのは残念だが、これで俺にも魔法が使えるし、遠距離攻撃の手段が手に入ったのだ。
因みにだが、あのワイバーンは、6階層の魔物を狩り過ぎた場合に出てくる、という情報も聞けた。
成程ね、いい情報を聞いたぞ。
さあ、やって来たぞ! 大森林は、1週間ぶりだな。
今日は、御者には帰ってもらおう、危ないしね。
ウチの領兵も、護衛すると言ってくれたが断った。初日から頼るのは良くないし。
やっぱりデカい。ダンジョンの自然も中々だったし、目新しかったが、ここの森には及ばないな。相変わらずの大きさに、圧倒されながらも、森に近づいていく。
あの大きな木は、使えそうだよな。
ここに魔物達の拠点を造るにあたって、人が住むような、機能性のある建物を建てる必要は無い、そもそも俺に、建築の知識なんて無いのだし。
何となく、前世で秘密基地を作っていた頃を思い出す・・・。
まあ、やる事は一緒かもな、規模感は違うけど、
(旦那、ここに拠点を造るんで?)
(ああ、森に入った所で、あの大木を利用して造るんだ)
(よく分かんないっすけど、細かい事は旦那に任せるっすよ。何でも言って欲しいっす!)
(わたしも…やるわ)
(ああ、頼むよ)
そう、配下の力を使えば、難しくはない筈だ。
一旦、この辺りの安全を確保しよう。
(ブラウ、燐火、水音達を連れて、辺りの魔物を近づけないようにしてくれ)
(了解っす!)
水音は、精霊ウンディーネの名前だ。サラマンダーは火流、シルフは風虎、ノームは巌土と名付けた。
(フーコは残って俺の護衛ね!)
(分かったよ~! ぎるはウチが守ってやるよ~)
(よらしくな!)
E級の魔物を復活させて、作業員にしよう。やっぱり、人型の蜥蜴人かな、
俺は、予め用意していた魔石で、10体を呼び出す。
魔石から復活させた彼等の種族は、見た目そのまま、リザードマンだった。
(皆よろしく!)
(あるじ様、俺達どうすればいい?)
(そうだなー、実はこういうのを造りたくてさ)
地面に絵を描きながら、リザードマン達に説明する。
リザードマン達が、分かったと言って、散っていく。
大丈夫かな?
魔物も住居を造ったりするからな、任せてみよう。
それと、あいつの魔石はっと、
ん? 何だ!?
昨日から、腹の辺りにあった蟠りが膨張し始めた。
腹が膨れてる訳じゃない、マナの光が、俺の腹から溢れているだけなんだけど、
(わわ、ちょっとちょっと! いきなり何なのよ!)
(落ち着いてフーコ。たぶん大丈夫)
(落ち着けってあんたね~)
さっきは、フーコに落ち着けとは言ったが、光は俺を包んで、一向に収まらない。ホントに大丈夫か?
熱いというよりは、温かい。気分がいい感じだ。
光の外で、フーコが戦っているのが分かる。緊迫した感じではない、
(うりゃ~! 潰れちゃえ~!! ウィンドプレッシャーー!!)
ズオオォーーーーン!!!
楽しそうにやっているので安心だ。だけど、あんまり荒らさないで欲しいんだけど、
どんだけ長いんだよ、この光・・・。
短期間で、マナを吸収し過ぎたのか?
1時間は経った気がするけど、既に、ブラウ達も戻って来ている。
(旦那、まだ掛かるんで?)
(…暇そう)
(どうなんだろ? もうちょっと、お?)
俺の身体の中に、光が収まっていく。
腹にあった異常も消えている。
なんか、力が湧いて来るぞ。
閉まっていた栓が、抜けたような、大きく広がっていたモノが、1ヶ所に集約されたような、そんな不思議な感覚だ。
《スキル『万気丹田』を獲得しました》
(おっ!)
『万気丹田』か、今すぐには、分からないな。ただ、前より力を感じるし、マナの収容量が上がった気がする。
(…ダイジョウブカ?)
(おい! へいきなのか、ごしゅじん?)
(ウチは楽しかったから、いいけどね~)
(ごめんごめん、全然平気! 調子がいいくらいさ。フーコもありがとね!)
(旦那、無事で良かったっす)
皆を心配させちゃったか、取り敢えず、ありがとうと言って、安心させる。
本当に問題はないからな。
イレギュラーな事が起きてしまったけど、続きの再開だ。
お! これは!?
ワイバーンの魔石を手に取ると、今まででは、得られなかった情報が、頭に入って来た。
ほほう? 『万気丹田』の能力みたいだ。
このワイバーン、いやワイアームの魔石は、等級がD+のようだ。D級だったのか・・・+って事は、限りなくC級に近いって事か。
ワイアームって単語だけは、聞いた事がある。羽があり、竜の体に、手足のない姿を、ワイアームと呼ぶんだろう。純粋な竜とは違うのかな?
早速、ワイアームを呼び出してみよう!
魔力の風が、グルグルと渦を巻いて晴れると、あの時の姿そのままの、主が現れた。
「ギュウエェイ!」
おお!! かっこいいな! ブラウもかっこ良かったが、また違う良さがある。
『万気丹田』のお陰で、この竜の能力まで視える。後でみんなの事もチェックしておこう。
(ここは?)
(記憶があるのか?)
(いえ、少しだけです、何かを守っていました。その記憶だけです)
(そうなんだ)
(こうして蘇っただけでも、恵まれています。これからよろしくお願いします、ギル様)
随分と丁寧な竜である。声的には雌なのか? これだけ知性の高い魔物だ。俺達が戦って倒した事を伝えてみるか。
(魔物は、負ければ従うか、死ぬかです。恨みなどありません。それに、どうやら私は、ダンジョンで生まれたようですし、外に出れて感謝しています)
(そういうものなんだ。これからよろしくね! 名前はどうしようか?)
(出来れば、風に因んだ名がいいですね)
(風か・・・・・・じゃあボレアスは?)
(いい響きですね、意味はあるんですか?)
(架空の神様の名前だよ)
(架空? ふふ、そうですか、ではそれでお願いします)
(じゃあ早速これを使って行こうか!)
よし、早速、魔石を使って強化だ!
D+の魔物でも、E級の魔石がこれだけあれば、進化出来るだろう。