11話 ワイバーン!?
冒険者達と別れてから、俺達は狩りをしながら、6階層を、ふらふらしている。
ふらふらというか、ここの魔物を、出来るだけチェックしておきたかった。E級でもブラウの様に進化すれば強力な戦力になれる。
弱い魔物を育てて強くするのも、ロマンがあっていいよな。俺のやり方はちょっとずるいけど。
俺は、ここまで戦闘で、マナを一切使わずに来たので、全て魔石の復活に消費している。2人のお陰で使えるE級魔石が大分増えた。
リンカに魔石を使うのは、安全圏に行ってからにしよう。ブラウの進化には、少しだが時間が掛かったしな。
面白い奴がいるな、前世の知識だとウィスプっぽい魔物だ。
空中を、ガス状の球体がフヨフヨと浮いている。
この辺りには、たくさんい居るみたいだ。
近づくと、球体の体が発光し始めた、
ビュオッ! ズバンッ!
うげっ!?
ガスの魔物は、魔法で迎撃してきた。
俺は、球体の魔法を躱す事は出来たが、地面を見て少し腰が引けた。深々とした、一直線の痕が残っていたから。
当たったらやばいな、でも、魔力でしっかり覆えば怖くない。
(突進!)
俺は、地面をグッと踏み込み、スキルを発動しようとするが。
「アベッ!」
いったぁ~!! 地面が柔らかいのを忘れていた。アホか、俺は!
(任せて下さいっす、氷装!)
ブラウが、俺の尻拭いを買って出てくれた。爪に氷を纏い、間合いが伸びたブラウが飛び掛かる。
ガスの球体は、抵抗も出来ずに、ブラウに屠られてしまった。
リンカも出て来て、周囲に残る球体を攻撃し始めた。
数が多い、俺も参加するぞ!
こいつ等は、絶対に倒さなきゃいけない。
おいおい、こいつら仲間を呼ぶんだが。
まさかリアル『仲間を呼ぶ』を、体験する事になるとは。
魔法陣から、空中にフワッと現れる。
下位魔法しか撃って来ないのが救いだ。なんとかなる。
斬っては躱しを繰り返す。
お? やっと打ち止めが来たな。
呼べる仲間が居なくなったのか、制限数があったのかは、分からないが、チャンスだ!
ふうっ、アクシデントはあったけど全部やったな。
ガスの球体達は、それぞれ違う属性を持っていたようだ。
風の刃だけじゃなく、火や水の魔法を使う個体がいた。
ウィスプ? かどうかは分からないが、魔石は二十以上はあるかな。こいつ等は、絶対にやらなきゃいけないと思った。
この魔石を使えば、俺も魔法が使えるかもしれないからな。
使ってみなければ、分からないけど、可能性はある。
俺達はその後、一旦安全圏に戻る為に、先に進む事にした。
先刻の冒険者から話を聞いたが、6階層からは1階層ごとに転移陣があるようだ。確かに、広いもんな此処は。
フィールドの特徴も変わるようだ。
暫く歩くと、リンカが言っていた建物が見えてきた。
あれは、地上の神殿と同じだな。分かりやすくて助かる。
「キュエエェーーー!!」
「何だ!? 空か?」
出口の方向、その上空から、何かの鳴き声が此方に向かって響いてくる。
おいおい何だよ!?
こんなの聞いてないぞ!!
俺が、突然の鳴き声に狼狽えている間に、もう目前まで、迫ってきている。
思いの外小さいか?
ブラウに比べたらだけど、けどこいつって、
ドラゴンじゃん!! いや、ワイバーンかな?
俺が、何で出てきた、種族は何だ、と無駄な思考を巡らせていると、仮称ワイバーンが、此方に向かってまた一鳴きした。
うるさっ! 考えてる場合じゃないな。
(全力でやるぞ! ブラウ、燐火)
(はいっす!)
(…ツヨソウ)
保険だ、俺は急いでガスの魔物を3体復活させた。
(お前達、いきなりで悪いが、アイツを魔法で牽制してくれ!)
((・・・・・・!))
(頼んだ!)
声は発しないが、やる気は伝わって来た。上下に飛び跳ねて表現している。
よし! 俺もって思ったけど、俺じゃあいつに攻撃が届かねーよ!
皆が、やつを撃ち落としてくれるのを、待つしかないか。
リンカと3体のウィスプが、息を合わせて魔法を集中させるが、ワイバーンの機動力が高い。魔法を躱して、翼を、バッサバッサと動かし始めた。
ワイバーンの前方に、魔力が集まっていく。
(みんな散れ! 魔法が来るぞ!)
ウィスプは風の刃一つだったが、こいつの魔法は、風の刃が無数に放たれた。
刃が地面を抉る。1体のウィスプが巻き込まれて、倒されてしまった。
あっ! ちくしょう・・・。
俺は再度、2体を追加で復活させる。
(みんな、バラバラに魔法を撃て! アイツが回避した瞬間が狙い目だ! リンカはブラウに憑いて、なるべく近くからぶつけてくれ!)
(…ワカッタ)
狙い通りだ!
ワイバーンが、魔法を嫌って回避運動している隙に、ブラウが狼圧を浴びせた。
ブラウが動きを鈍らせた所に、燐火の火球が顔面にヒットする!
ワイバーンは、まだ空中だが、高度を落した。片目をやったのか。
そのまま、ブラウが飛び掛かり、氷爪で、翼を引き裂く事に成功した。
ナイスだみんな!
バランスを保てなくなったワイバーンが落ちてくる。
(今だ! 魔法斉射!!)
ウィスプ達の魔法が刺さる。
俺も走り出した。この辺りの地面が、しっかりとしている事を確認する。
魔法の余波が終わり、姿が見えたワイバーンに止めを刺す。
(今度こそ、 "突進!!")
ズダッ! ダダダ!!
俺は、元居た場所から、10メートル先のワイバーンの元まで、自分の足の速さを超えて、一瞬で移動した。
地面に、踏み込んだ足跡が、くっきりと残っている。
剣が、ワイバーンの胴体を貫く!
「ギュウェエエーーーーー!!?」
劈くような悲鳴を上げるワイバーン。
俺は、すぐに離れるが、致命傷だったみたいだ。仮称ワイバーンは、霧になって消えていった。
ラストアタックだけ貰っちゃったな、
(2人とも良かったぞ! それと、お前達もな!)
思わぬ戦闘、強敵だった。
仮称ワイバーンの魔石は、E級よりも、一回り大きかった。
それと、短剣かな? 俺の剣と同じくらいだ。
いいモノを拾ったかも。
あのワイバーンが、何で出て来たのかは分からないが、早く神殿に向かおう。
因みに、今日、三度目のレベルアップが発生した。
ようやく、神殿で一息つける。
最後に、あいつが出て来たせいで、調子が狂ったけど、今日の収穫は大きいぞ。
E級の魔石だけでも、百個はいったんじゃないか?
売れるかどうか分からない戦利品も、そこそこ溜ってる。
6階層の出口の神殿には、少数だったが人が居た。
さっきの鳴き声は主じゃないかと、話が聞こえた。滅多に出て来ないとも・・・。
え? ぬし?
俺を一直線で襲いに来たぞ、あいつ!
いや、忘れよう。魔石は手に入れたし、短剣も出てきたんだ。
俺は、一度外に出てから、ダンジョンの1階に移動した。
魔石を使う所を、人に見られたくないからな。
俺にはまだ使えないとして、先ずは、リンカを強化させよう。
フロッグマン、蜂の魔物、蜥蜴人、と続けて使う。更に、ウィスプの魔石を投入する。
すると、リンカの身体が光を放ち始めた。
きたきた!
ブラウと同じ現象だな。
光が収まると、姿の変化したリンカがそこに居た。
(ありがとう…主)
声が小さいのは、相変わらずだが、片言だった言葉遣いが、滑らかになっていた。
あらまあ、全然違うな~。
不明瞭だった顔が、判然としている。くっきりと女性の顔が見て取れる。魔物の筈なんだけど、髪の長い美人さんだ。但し、身体は透けており、足も無いのは変わっていない。
マナが跳ね上がったな、ブラウよりも大きい力を感じる。
早速チェックだな!
(リンカ、能力を教えてくれ)
(うん…)