10話 我慢は止めようか
(逃げるなっす! アネさん!)
(…"ファイアボール!")
「ゲゲエエーーー!!」
俺の視界の先で、ブラウ達がフロッグマンの群れを蹂躙している。
上に居たのと同じ奴らだな。5体、数が増えても問題ない。
二人の戦闘中に、俺が何をしているかっていうと、ホブゴブリンの魔石を丁度吸収し終えた所だ。
《スキル『棍棒術』を獲得しました》
む、棍棒術か、この〇〇術ってのは割りとポピュラーなスキルだ。これを持っていると技が使えるって訳じゃないけど、武器の威力が増すのだ。正しくは、自分の闘気の上に更に闘気が乗るらしい。
ゲームにもこういうのあったな。
使えるスキルなんだけど、棍棒は無しだな。
「何だ? 身体が変な感じがするな」
魔石の力を吸収すると、いつもの様に体が熱くなったのだが、何だか腹の辺りに違和感を感じる。
・・・悪い感じはしないんだけど、マナが集まって、何かが形成されているのを感じる。
今、魔石を使うのは止めておこうか、流石に怖い。
身体が爆発四散する想像をしてしまった。
これはもしかしたら、ブラウと同じ事が俺にも起きているのかもしれない。
人間の進化なんて聞いた事無いから、スキルが進化中って事か?
(旦那、コレを、まだ転がってるっすよ)
(ん、ありがと!)
ブラウが魔石を持ってきたので、拾うのを手伝ってやる。
リンカは霊体という弊害があるから、物を掴めない。
『小さな宝箱』は便利だ。魔石が嵩張らずに済む。
巨大な水の塊が、蜥蜴人の剣士数体に向かって勢いよく飛んでいき、 ズボオオーン!! と重い音を響かせて押し潰した。
おおう! アクアブレスが一撃で蜥蜴の魔物を圧殺してしまった。そのまま拉げた死骸が霧散していった。
水を口から吐き出すのかと思ってたら、水塊を作り出して撃ち出す技だった。
アレは魔法なのかな? 魔力使ってたし、
先を越されちゃったな、正直羨ましい。
ここでも圧倒的だな。
ブラウが強すぎて、E級の魔物でも相手になってないぞ。
そういえば、ブラウのあの巨体は、もう屋敷の中には入れられないな。
どうしようかな?
スキルを判定してから僅か1週間、俺もこんな事になるとは思ってなかった。
もう俺が魔物を使役するって噂は立ってるだろうし、
出来ると分かっているのに、我慢するのは結構なストレスだ。
・・・なるべく迷惑は掛けたくは無かったんだけど、これは不可抗力ってヤツだ。
俺は自重を辞めるぞ!
ここからは、気に入った魔物は復活させて行こう。
まあ、それはダンジョンを出てからだが。今は、ブラウとリンカの二人だけで十分だ。
(旦那ー、こっちに剣が落ちてるっすよ)
(噂のドロップ品か!)
俺が考え事をしている間に、ブラウが戦利品を見つけたようだ。
ダンジョン特有の謎現象だが、この世界では誰からも疑問に思われない。
神の産物だからね。
蜥蜴人の使ってた剣かー。使わないけど、持って行こう。売れるのかな?
にしてもここは、想像以上に広いな。
魔物を狩りながら、入口から取り敢えずは真っ直ぐに進んでいるけど、出口が出てくる気配が全然ない。
一応まだ入口の方向は分かるし・・・あ。
(ねえリンカ、もしかして上空まで行って、先が見える?)
(タブン…イケル)
リンカが、高く浮遊して辺りを見回す。
このまま進めば、遠くに建物が見えてくると言う。
よしよし、ルートを知る事が出来れば安心だ。
ここでは燐火がいれば、迷う事も無い。ちょっと散策してみよう。
大きな池の中に、魚が見えている。
日本で見た事のある、淡水魚より大きいのばかりだ。
ここの魚は仮に斬っても霧散したりしない。ダンジョンの貴重な資源の一つという訳だ。
ウチの食卓にも出てくるしね。
(ブラウ、狼圧使ってみてくれ、軽くな)
(了解っす!)
"グオォーーーン!!!"
ブラウの咆哮が、空気をビリビリと震わせる。
咆哮に闘気を乗せて、周囲を威圧するスキルのようだ。
辺りが騒然としているな、
バシャバシャ、がさがさ、バサバサと周囲にいた魔物達が、一斉に逃げ出して行った。
・・・こんなに居たんか。
狙いの魚群は気絶していて、かなりの数がプカプカと水面に姿を晒している。
やばいな、数が多すぎて回収が大変そうだぞ。
「大丈夫か!! 何だ今のは!?」
「おい! 先に行くなよ、あぶねーぞ!!」
こっちもやばいな、他の冒険者が来てしまった。
今の咆哮が何かを、確認しに来たようだ。
そこにいた俺とブラウを見て、ポカンとしているが。
「あ、大丈夫ですよ。今のは、こいつのスキルなので、
思いの外強力な技だったみたいで、なんかすみません」
「ギルバート様だったんすか! いやですか」
「さっきのは従魔だったんですか? とんでもない魔物が出たかと」
「危険なら、逃げればいいんじゃないかな?」
「それは、そうなんですが、こいつが行くぞって言うもんで」
「お前も乗り気だったろーが」
「二人とも速いわよ!」
「うわー! デカい!!」
更に人が増えた。
先に来た2人に文句を言ったり、ブラウに驚いたりしている。
収拾が付かなくなりそうだったので、俺は提案することにした。
「騒がしくしておいて言うのもなんですけど、俺と一緒にあの魚集めて貰えませんか?
報酬は、均等に分けるという事でどうです?」
「え? いいんですかぁ! 絶対やります!」
「ギルバート様がそう言うなら・・・」
この階層には、実力者が来ることは無いし、魚は下位冒険者の獲物、という共通認識がある事を知っている。
ただ、魔物がうろつくダンジョンで、池の中に入るのは危険だからな。見張りを置いて釣るしかないし、池にも魔物はいるから安全ではない。
今回は、ブラウのお陰で池の魔物は逃げ出してしまったし、当の獲物は気絶中だ。外から襲われない限り、安全に回収できる。
1匹小銀貨2枚で売られているから、これだけ魚がいたら、いい臨時収入になる筈だ。
ブラウ達に見張りを頼んで、冒険者4人と一緒に回収した。
100匹近くはいたので、1人小銀貨20枚の稼ぎにはなるだろう。
彼等は、一度村に引き返すようだ。
最後にお礼を言い合って、別れる事にした。
彼等は、まだ新米の冒険者らしい。
俺よりは先輩だけど、いい人達だったから覚えておこう。
俺の評判が良くなれば、マルセロン家の心証も良くなるからな、想定外な事だったけど、良かったかもしれない。
俺も、袋に詰めて『小さな宝箱』に保管している。
売らずに、屋敷で調理して貰おう。