真夏の転生
「あ~~、アッチィーー。水、持って来ればよかった・・・。」
俺は今、絶賛後悔中だ。
何も持たずに家を出たことを・・・。
真夏の真昼間、天気予報じゃ今日の気温は35℃だった。
今日も林兄弟がいないから1人だ。いつ帰って来るんだっけ?
しょうがない。夏休みだしな。うちには旅行の予定が無いから正直羨ましいけど。
でもあいつらはこっちの方が楽しいって言いそうだ。
今、俺達の間では空前の秘密基地ブームが到来しているのだ。今頃向こうで帰りたいとか駄々を捏ねていそうだ。
俺は唇を上に向けて顔に風を送ってみる。
「フゥー、フゥー」
(やっぱ意味ねーや)
ここは田んぼや森しかないような田舎だから、夏休みにどこにも行かないとなったらやる事は限られる。
俺の場合、ゲームをするか、外であいつらと遊ぶかの二択だ。大体ゲームしてる。たまにはネットで動画も見るけど、前の二つには敵わない。
俺達3人はゲーマーだ。
俺は育成RPGが一番好きだ。収集意欲をそそるゲームで、何度も最初からを選択して、時間を忘れてやった。コンセプトを決めて、いろんなモンスターを育てるのが楽しかった。
普通のRPGも燃える。レベルを上げて、仲間を増やして装備を集める。最後のボスを倒して大団円。単純だけどそんな王道ゲーム。
林兄弟は死にゲーと呼ばれる高難易度アクションが好きで、俺にやたらと勧めてくる。俺がやられると隣でげらげらと笑い転げるような奴らだ。
クリアしたら無反応だしな、あいつらホントろくでもない。
いや、まあ楽しかったんだけどさ。
おかげで煽り耐性が付いた。
そんなゲーマーの俺達は、夏休みに入ってヒマを持て余していた。
丁度やりたいゲームが無かったから。
何をしようかって、集まって話し合っていると、林弟が見つけてきた。男の人が山奥でキャンプをやる動画を。
テントを張って、即席のかまどを作って、調理してウマい飯を食べて寝る。そんな動画だ。
俺達3人はピンときた。コレだ!
キャンプを気に入った訳じゃない。
その自分だけの空間が、俺達にあるものを連想させた。
そう秘密基地だ。
最初は人が来ない、ソレっぽい所を秘密基地と呼んで駄弁っているだけだった。
でも、それだけじゃだんだん物足りなくなってきた。
じゃあ自分達で作ろうぜって、話になった。
そこからは早かった。
3人で材料を拾って来て、作っては壊しを繰り返してコツを見つけた。
誰にも見つからないような場所を探して、山や川から材料を見つけて来る。
細長い枝や葉っぱを見つけて植物の蔓で固定して骨組みを作り、葉のついた枝や大きな葉っぱで壁や天井を覆う。
最後に床に草と石を敷き詰めて完成する。
これが俺達の秘密基地製造計画だ!
パッと見、形はモンゴルのゲルに似ている。
3人で寝そべってもスペースがあるから、そこそこの大きさになるはずだ。
「うりゃっ。 〈ブツンッ!〉 ふぅ~」
俺は蔓を無理やり引きちぎった。
これで壁はオッケー。
しかし何をするにしても、あっついあっつい。
一度本格的に作ろうぜって、そんな時にあいつらは旅行に行ってしまった。
秘密基地を作り始めてから二日、後は屋根と床だけだ。
ボコボコしている場所を石で平らにして、草やら葉っぱやらで埋めていく。
土をギュウギュウに固めて、と。
「はあ、あちぃ~」
(もうちょっとだ、あいつらが帰って来たらビビるだろうな)
2人が旅行に行ったのは骨組みを作ってる頃だった。
いつもは二時間くらいで切り上げていた。暑いから。
けど、今日は4時間くらいやっている。
汗ダラダラ、汚れたっていいか、何も気にせずに集中出来るってもんだ。
(椅子用にもっと大きい石欲しいな。河原にあるかな?)
ソレは河原から石を運んでいる最中だった。
「ぜぇ、ぜぇ、もうちょい・・・。」
作りかけの秘密基地が見えてきた。
「はあっ、はあっ、ふうっ。 お、おお? うぁ・・・」
休憩しようと立ち止まった瞬間、脚から力が抜ける。
石を落してよろけてしまう。
(あ、やば)
俺は立っていられずぐらりと倒れる。
ゴトッ! ガッ! ドサ!
ズキリと頭と背中に痛みが走る。
イッテェ!
やばい痛みだった。
意識が朦朧とする。
(これ、アレか? 熱中症? 頭打ったから?)
視界が歪む。
(空が灰色だ・・・。)
身体が重いし気持ち悪い。
(マジ、 やべぇ・・・。)
身体に力が入らない。
叫んで助けを呼びたいけど無理。
声を出すのも億劫だ。
こんな所に人なんかいないけど。
いつの間にか汗も引いてる。
(これ、もう駄目かも・・・。 動けねぇや)
頭の中に白い靄が広がっていく。
自分がどれくらい倒れているのかも分からなくなった。
(・・・1人でやるんじゃなかった)
意識を失う前だったのか、それとも夢の中だったのか、俺の頭の中をいろんな事が過ぎ去っていく。
俺まだ小4だぜ?
初恋だってまだだ。
あいつらをビビらせたかっただけなんだけどなぁ。
結局、秘密基地は実完成かー。
でもあいつらがやってくれるよな。
いや、俺のせいで怒られるかもな。わりぃ。
クリアしてないゲームやっときゃよかった。
来月新作のRPG出るなぁ・・・
両親の顔を思い浮かべてごめんと謝る。
そのまま頭の中が真っ白になって、そして真っ暗になった。
将来成りたい事もまだ決まっていない、まだ9歳の少年。
石見創介は、小学4年生の夏、誰にも気づかれずに帰らぬ人になってしまった。
暗くなった意識の中で優しい光が見えた・・・。
光から声?が聞こえた。何を言っているのかはわからない。
その声を聞いた時、何故だか安心した。
大丈夫。そう言われた気がしたから。
《記憶を元にスキルを生成します。______》
最後のメッセージは創介には届かなかった。
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どれだけ暗闇の中にいたのかは分からない。
"ポワアァ~ン"
暗闇の中に今にも消えてしまいそうな、小さな白い火が揺らめいている。
(なんだアレ?)
俺はその火に手を伸ばす。
"ギュルン"
(うわっ!)
身体が火に吸い込まれる!
(なんなんだよ!うわっ!)
一瞬の出来事だった。
創介の身体が飲み込まれると、そこには大きな火が残されていた。