表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/28

真夏の転生

「あ~~、アッチィーー。水、持って来ればよかった・・・。」


 俺は今、絶賛後悔中だ。

 何も持たずに家を出たことを・・・。

 真夏の真昼間、天気予報じゃ今日の気温は35℃だった。


 今日も林兄弟がいないから1人だ。いつ帰って来るんだっけ?

 しょうがない。夏休みだしな。うちには旅行の予定が無いから正直羨ましいけど。

 でもあいつらはこっちの方が楽しいって言いそうだ。

 今、俺達の間では空前の秘密基地ブームが到来しているのだ。今頃向こうで帰りたいとか駄々を捏ねていそうだ。


 俺は唇を上に向けて顔に風を送ってみる。


「フゥー、フゥー」


(やっぱ意味ねーや)


 

 ここは田んぼや森しかないような田舎だから、夏休みにどこにも行かないとなったらやる事は限られる。

 俺の場合、ゲームをするか、外であいつらと遊ぶかの二択だ。大体ゲームしてる。たまにはネットで動画も見るけど、前の二つには敵わない。

 

 俺達3人はゲーマーだ。

 


 俺は育成RPGが一番好きだ。収集意欲をそそるゲームで、何度も最初からを選択して、時間を忘れてやった。コンセプトを決めて、いろんなモンスターを育てるのが楽しかった。

 普通のRPGも燃える。レベルを上げて、仲間を増やして装備を集める。最後のボスを倒して大団円。単純だけどそんな王道ゲーム。

 林兄弟は死にゲーと呼ばれる高難易度アクションが好きで、俺にやたらと勧めてくる。俺がやられると隣でげらげらと笑い転げるような奴らだ。

 クリアしたら無反応だしな、あいつらホントろくでもない。

 いや、まあ楽しかったんだけどさ。

 おかげで煽り耐性が付いた。


 そんなゲーマーの俺達は、夏休みに入ってヒマを持て余していた。

 丁度やりたいゲームが無かったから。

 何をしようかって、集まって話し合っていると、林弟が見つけてきた。男の人が山奥でキャンプをやる動画を。

 テントを張って、即席のかまどを作って、調理してウマい飯を食べて寝る。そんな動画だ。


 俺達3人はピンときた。コレだ!

 キャンプを気に入った訳じゃない。

 その自分だけの空間が、俺達にあるものを連想させた。

 そう秘密基地だ。 

 

 最初は人が来ない、ソレっぽい所を秘密基地と呼んで駄弁っているだけだった。

 でも、それだけじゃだんだん物足りなくなってきた。

 じゃあ自分達で作ろうぜって、話になった。

 そこからは早かった。

 3人で材料を拾って来て、作っては壊しを繰り返してコツを見つけた。

 

 誰にも見つからないような場所を探して、山や川から材料を見つけて来る。

 細長い枝や葉っぱを見つけて植物の蔓で固定して骨組みを作り、葉のついた枝や大きな葉っぱで壁や天井を覆う。

 最後に床に草と石を敷き詰めて完成する。

 これが俺達の秘密基地製造計画だ!

 パッと見、形はモンゴルのゲルに似ている。

 3人で寝そべってもスペースがあるから、そこそこの大きさになるはずだ。

 


「うりゃっ。 〈ブツンッ!〉 ふぅ~」


 俺は蔓を無理やり引きちぎった。

 これで壁はオッケー。

 しかし何をするにしても、あっついあっつい。

 

 一度本格的に作ろうぜって、そんな時にあいつらは旅行に行ってしまった。

 秘密基地を作り始めてから二日、後は屋根と床だけだ。

 ボコボコしている場所を石で平らにして、草やら葉っぱやらで埋めていく。

 土をギュウギュウに固めて、と。


「はあ、あちぃ~」

(もうちょっとだ、あいつらが帰って来たらビビるだろうな)


 2人が旅行に行ったのは骨組みを作ってる頃だった。

 いつもは二時間くらいで切り上げていた。暑いから。

 けど、今日は4時間くらいやっている。

 汗ダラダラ、汚れたっていいか、何も気にせずに集中出来るってもんだ。


(椅子用にもっと大きい石欲しいな。河原にあるかな?)



 ソレは河原から石を運んでいる最中だった。


「ぜぇ、ぜぇ、もうちょい・・・。」

  

 作りかけの秘密基地が見えてきた。


「はあっ、はあっ、ふうっ。 お、おお? うぁ・・・」


 休憩しようと立ち止まった瞬間、脚から力が抜ける。

 石を落してよろけてしまう。


(あ、やば)


 俺は立っていられずぐらりと倒れる。


 ゴトッ!  ガッ! ドサ! 


 ズキリと頭と背中に痛みが走る。

 イッテェ!

 やばい痛みだった。


 

 意識が朦朧とする。

 

(これ、アレか? 熱中症? 頭打ったから?)

 

 視界が歪む。

 

(空が灰色だ・・・。)


 身体が重いし気持ち悪い。

 

(マジ、 やべぇ・・・。)

 

 

 身体に力が入らない。


 叫んで助けを呼びたいけど無理。

 声を出すのも億劫だ。

 こんな所に人なんかいないけど。

 いつの間にか汗も引いてる。


(これ、もう駄目かも・・・。 動けねぇや)

 

 頭の中に白い靄が広がっていく。


 

 自分がどれくらい倒れているのかも分からなくなった。


 

(・・・1人でやるんじゃなかった)


 意識を失う前だったのか、それとも夢の中だったのか、俺の頭の中をいろんな事が過ぎ去っていく。


 俺まだ小4だぜ?

 初恋だってまだだ。

 あいつらをビビらせたかっただけなんだけどなぁ。

 結局、秘密基地は実完成かー。

 でもあいつらがやってくれるよな。

 いや、俺のせいで怒られるかもな。わりぃ。

 クリアしてないゲームやっときゃよかった。

 来月新作のRPG出るなぁ・・・

 

 両親の顔を思い浮かべてごめんと謝る。

 

 

 そのまま頭の中が真っ白になって、そして真っ暗になった。




 将来成りたい事もまだ決まっていない、まだ9歳の少年。

 石見創介(いわみそうすけ)は、小学4年生の夏、誰にも気づかれずに帰らぬ人になってしまった。

 

 

 


 

 暗くなった意識の中で優しい光が見えた・・・。

 光から声?が聞こえた。何を言っているのかはわからない。

 その声を聞いた時、何故だか安心した。

 

 大丈夫。そう言われた気がしたから。

 



 《記憶を元にスキルを生成します。______》


 最後のメッセージは創介には届かなかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 

 どれだけ暗闇の中にいたのかは分からない。

 

"ポワアァ~ン"


 暗闇の中に今にも消えてしまいそうな、小さな白い火が揺らめいている。


(なんだアレ?)


 俺はその火に手を伸ばす。


"ギュルン"

(うわっ!)


 身体が火に吸い込まれる!


(なんなんだよ!うわっ!)


 一瞬の出来事だった。

 


 創介の身体が飲み込まれると、そこには大きな火が残されていた。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ