鳥籠のロクネラ
一昔前の竜を狩るゲームにどハマりしました。
もうすぐインターネットが終わるという事が拍車をかけ、クエストを3ヶ月で全てやりました。
竜がウイルスに感染するというのは考えたこともありませんでした。
竜も生物ですから病気にかかるってことですね。
夏の余韻が残る秋。
外では虫が鳴り止まず、相変わらず日が昇るのが早い。
「ロクネラ朝よ、起きて」
「...おはようお母さん」
お母さんはいつも私を起こしてくれて朝ごはんを持ってくる。
嫌な顔ひとつせず優しく語りかけ、私を見てくれている。
でも、私はお母さんを見ようとしない。
嫌いな訳では無い。世界一のお母さんだと思っている。
それでも、私は窓の外を見ていた。
「ロクネラ、何か欲しいものはある?」
いつも聞いてくる質問だ。
だから私はいつもと同じ応えをする。
「外で遊びたい」
「そう...食べ終わる頃にまた来るね」
お母さんはそう言って部屋を出た。
私だってお願いしても出られない事くらい分かりきっている。
全部この病気のせいだ。
外で楽しそうに通学しているあの子が羨ましい。
私も友達を作ってみたい。
「私も、ああやって外で遊びたい...」
道に女の人が歩いていた。
そう聞けば当たり前の事だけど、私は毎朝この道を見ている。だからいつもは見ない女の人に目がとまった。
とても綺麗な黒いドレスにとても綺麗な顔。まるでお姫様みたい。
「あ...」
目が合った。
外を見ることはあっても外から見られたのは初めてだ。
もしかしたら寝ぼけて見間違えたかも。
私は目を擦った。
これなら見間違えない。
目を開くと目の前にいた。
「わっ!!」
今までの人生で一番驚いたかもしれない。
しかし驚きは身体に負担を強いる。
よって私は少し咳き込んでしまった。
「お嬢さん大丈夫?」
お姫様は窓を外側から開いて聞いてきた。
「だ、だいじょうぶです...」
ドタドタドタドタ!!
ガチャ、
「ロクネラ何があったの?!まさか病気が悪化したの?!」
お母さんが勢い良くドアを開けて部屋に入ってきた。
「おかあさん、だいじょうぶだよ...」
「そんなこと言って、さっきリビングにロクネラの大きな声と咳き込む音が聞こえたわよ!」
お母さんは部屋の当たりを見回した。
「ああ、窓を開けたのね。それで突風が来て驚いてしまったのね」
「う、うん。そんなとこ」
お母さんの切羽詰まった顔が緩んだ。
「何はともあれロクネラが無事じでよかった。でも、また咳き込んだらいけないから窓は閉めておくわね」
お母さんは窓を閉めて、鍵をかけて部屋を出ていった。
私は急いで窓の外を見たけどお姫様はもういなかった。
「心配性なお母さんだな」
「わっ!!」
真後ろから声が聞こえた。
お母さんのものじゃない。
さっきのお姫様の声だ。
ドタドタドタドタ
ガチャ、
「ロクネラ何があったの?!」
「大丈夫だから」
「ほんっとうに大丈夫なの?お医者さんを読んだ方がいいんじゃない?絶対呼ぶべきだわ今すぐ呼んでくるわ」
「ほんっとうに大丈夫だから、お医者さんは呼ばなくていいから」
「母さんはロクネラが心配なの。ロクネラが大丈夫って言うのなら行かないけど、また何かあったら母さん、お医者さん呼ぶからね」
「わかった」
そう言ってお母さんは部屋を出ていった。
「お姫様、なんで部屋にいるの?!」
お母さんに聞かれないようにヒソヒソ声で喋った。
「それはお嬢さんが心配でね、」
「そもそもいつの間に入ったの?」
「お嬢さんがドアを見た瞬間にね。それよりも大丈夫?あんなに咳き込んでいたけど。それに君のお母さんの対応、少しオーバーじゃないか」
「それには深い事情があって...」
私は身の上話をお姫様に語った。
私は物心ついた時に重い病気にかかった。
生死に関わる病気で、お医者さんには12才まで生きれば奇跡とまで言われた。
それから私は家で安静にし、とても苦い薬を飲んで11才まで生きている。
その間私はずっと家の中にいた。
家から出ず、ずっと本を読み、お母さんは欲しいものをなんでも買ってくれた。
家から出たい。
身体を使って遊びたい。
こんな5畳の世界で終わりたくない。
気がつくと私は身の上話に夢中になっていた。
こんな風にたくさんお喋りしたのはいつぶりだろう?
「ごめんなさい、ちょっと夢中になりすぎた」
「いや、大丈夫だよ。私も急いでるわけでは無いしね」
「お姉さんは私の話を聞いて退屈しなかった?」
「お姉さん?」
あれ?私よりも年上の女の人に見えたけど違ったのかな?
「いや、さっきお姫様って呼んでたのに」
顔が赤くなる感覚がした。
「そ、それは忘れて!」
「ふふふ、私はお姫様って呼ばれて嬉しかったけどなー」
「意地悪なお姉さんにはもうそんな呼び方はしない!それと私の名前はロクネラ!」
他愛もない話が楽しい。まるでお友達ができたみたいだ。
「それじゃあロクネラ、君は外に出たいのかい?」
「それは...できるならしたいけど...」
そんな事お母さんが許してくれない。
「私ならその願い、叶えられるよ」
「本当に?!」
「うん、本当に」
「本当のほんっとうに?!」
「うん、本当のほんっとうに」
「なら今すぐ出たい!早く行こ!」
「ちょっと落ち着いて」
どうやらまた夢中になっていた。
おかげで胸がズキズキ痛む。
「ロクネラ、聞きたいことがある。それは君の願いか?」
「うん」
「何か得るには何か失うものだ。何かを失う覚悟はある?」
「うん!」
心の底から頷いた。
お母さんにバレない声は保つのを忘れそうだった。
「そうか、ならまた明日来よう。その時君を鳥籠から出してあげよう」
「わかった!」
「じゃあ、また明日」
「バイバイ!」
お姉さんは窓の鍵を開け外へ出た。
人生で一番長い一日だった。
本で読んだことがある。遠足や運動会の前日は寝られない事がよくあるけど、寝ないと当日眠くて仕方がないと。
でも寝られない時の対処方法も本で読んだ。
「羊が1匹、羊が2匹、」
そういえば、お姉さんはお姫様みたいだから、執事がいるのだろうか?やっぱりイケおじかなぁ...
「執事が20匹、執事が21匹、」
その日はよく眠れた。
ありがとうイケおじ。
「ロクネラ朝よ、起きて」
「おはようお母さん」
「今日は元気そうね、昨日は心配だったけど具合が良くなって安心したわ」
「だから大丈夫だって言ったでしょ?」
「そうね、」
お母さんはまた質問してきた。
「ロクネラ、何か欲しいものはある?」
「ううん、大丈夫。強いて言うなら、もっと本が欲しい」
「わかったわ」
そう言ってお母さんは部屋を出ていった。
窓を見るとまた目が合った。
「お姉さん、また驚くところだったよ...」
「それは失礼、準備は出来た?」
お姉さんは手のひらを出てきた。
「ううん今から」
私のクローゼットには長い間寝ている普段着がある。
いつも家にいてパジャマだけど、やっとこの服を着る時が来た。
「準備出来たよ、早く行こ!」
そして私はお姉さんの手に、自分の手をのせた。
そして私は鳥籠から外へ羽ばたいた。
それから少しした後のこと
スタスタスタスタ
ガチャ、
「ロクネラ、母さん本を買いに行った時お医者さんと出会ったの。それで昨日のことを話したら念の為にって、見に来てくれたそうよ」
しかし部屋には誰もいない
「ロクネラ...?」
何処を探しても、何度探しても、ロクネラはいない
「どこ?どこなの?!」
そしてひとつの違和感を感じた
昨日閉めたはずの窓の鍵が開いている
母親は記憶を整理した
確かロクネラは窓を開けた。もしかして外に出ようとしたから?
今日は外に行きたいと言わなかった。もしかして...
「自力で出る術を見つけた...」
母親は急いで部屋を飛び出した
ーーーーーーーーーーーーーーー
「きゃはははははは!」
外で遊んだのは何年ぶりだろう。
「次はこれで遊ぼ!」
初めてブランコにのった。
「次はこれ!」
初めて滑り台を滑った。
「次はこれ登ろ!」
初めてジャングルジムに登った。
初めての事だらけだ。
本でしか見たこと無かったものが目の前にある。
それを触れる。
それは人生で一番の幸せな時間だった。
鬼ごっこもした。
隠れんぼもした。
高い高いもした。
どれもこれも最高だ。
でも、本で読んだ通りだ。
幸せな時間ほど、早く終わる
気がつけば空は赤色に染まっていた。
「ありがとう、お姫様!」
「ふふふ、どういたしまして」
「それと、もうひとつお願い聞いてくれない?」
「どんな願い?」
「お友達になって欲しいの...ダメ、かな?」
「いいよ、お友達になろう」
「ありがと!」
そんな時、後ろから声がした。
「ロクネラ!」
それはいつも聞いたことにある声。
「あ、お母さん!」
私はお母さんの方に駆け寄った。
でも身体は、目線は何故か低くなった。
平衡感覚が分からない。
どうしたのだろう?
「ロクネラ!」
お母さんが私の方に駆け寄ってくれた。
「お、母さん...」
「もう喋らないで!」
お母さんは私にそう言った後、お姉さんを睨んだ。
「貴女ロクネラに何をしたの!」
「彼女の願いを叶えただけだけど?」
「こんなに衰弱させておいて何が願いよ!この子は病弱なの!死んでしまったらどうしてくれるの!」
「お母さん...待って...」
「ロクネラはもう喋らないで、身体に響くわ」
「違うの、私がお姉さんに頼んだの...」
「ロクネラが...?」
「お母さん...私、今日は最高に幸せだったよ...家で本を読むよりも楽しかった...それに私、初めてお人形さんじゃない友達ができたの...」
「ロクネラ...」
「だから...お姉さんを責めないで...それと...」
私は最後の力を振り絞って言いたい事を言いきった。
「今まで優しく育ててくれてありがとう...お母さんは世界一のお母さんだよ...」
私の娘はそれ以降喋ることはなかった。
自力で目を閉じることすらも出来なかった。
「....ろし...」
「ん?なんて言った?」
「この人殺し!私の娘を...ロクネラを返して!」
「心外だな私は彼女の願いを叶えただけだ」
「そのせいでロクネラが死んでしまったじゃない!」
「彼女はもうすぐ死ぬんだろう?実際あの少し歪んだ窓の鍵すら自力で開けられないくらいには力がなかった。なら最後に願いを叶えてやるべきだ」
殺人鬼の戯言だ。ただ、自分を正当化させたいだけの言い訳だ。
「私からすればお母さん、貴女はただ、自分の為にロクネラを延命させていたんじゃないのか?」
私の為...?
「ただ、実の娘がが自分より先に死ぬのが嫌だった。そして、その罪悪感を消すためにロクネラに優しくした」
そんなこと...
私はロクネラの顔を見た。
それは家では見せることのなかった満面の笑みだった。
「ロクネラは彼女自身のものだ。貴女が勝手にこうすべきと決めつけるものではい」
数日後黒いドレスを着たあの子女は国を出たらしい。
次に彼女に会った時、私は何をするのだろう...
復讐するのだろうか。
それとも、
娘の最期に願いを叶えてくれて感謝するのだろうか。
次回は「大盗賊レスフィア3世」の予定です。
○世は数字が変わる可能性大です