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夜襲

「お前、どこから来たんだ? 犯人、知ってるんだよな」

今日も鶏に話しかけている。


(電話したりメールで聞いたり、しました。けど、どこも心当りはないと。

他に無いか、範囲を広げてみます)


鈴森はまだ鶏の出所を掴めてない。


「鶏が自分で『おころび座』のアジトに行く筈無い。介入した人が、きっと見付かるわよ」

 マユは、すっかり鶏が気に入っている。

 夜更かしさせては駄目と、もう言わない。


「売ったにしても盗まれたにしても、こんなに綺麗な鶏ですもの。元の持ち主は画像を見れば、この子と分かるわ」

「そう、だよね」

「野生で山に居るワケじゃ無いんでしょ?」

「うん……そういえば俺が行ってた(中退)大学(芸大)でチャボは飼ってたな」

「そうなの?……」

「絵のモデル用、だったような。鹿も孔雀も居たよ。……まあ、それに惹かれて行ったんだけど」


「観賞用のチャボね。農家やペットショップ以外にも、東天紅を飼ってる人がいるかも。盗まれたら盗難届けを出すんじゃ無い?……それはカオルさんが、調べてるでしょうね」


「あ……今思い出したんだけど、放し飼いにしている神社に行ったような。……子供の時、親父と。境内やら参道に、派手な色の鶏が自由にしていた。尾の長いのが木の枝にいたり……」

「……それってどこ?」

「ちっちゃい時の記憶だから。どこだったか」

「どれくらいセイはちっちゃかったの?」

「どうだろうかなあ……肩車してもらって、高い枝に居た鶏を見たな。4、5才かな」


「そう遠くじゃないかも。関西、鶏、神社で調べてみない?」

 3つの名詞で検索。


あった。

奈良県T市の岩上神社。

山の神社で

まさに烏骨鶏やら東天紅が放し飼い

 

「その神社から盗んだかも」

「御神鶏だって……奈良公園の鹿みたいなものかな……」

「きちんと管理されてる? 盗めない?」


奈良公園の鹿達が、毎夜決められた寝床に戻り点呼、は考えにくい。

鶏ならば可能か?


「あ、ここに書いてあるわ。夜は鶏舎で過ごすけれど、尾の長い鶏は木の上で夜を過ごすって」

「習性だからね。暗いところでは、おとなしくしてる。捕獲可能だな」


「この神社の画像、他に無いか探してみましょう。この子(鶏)が映っているかも」

 聖は出てきた画像を全て見た。

 似たような東天紅は確かに居た。

 ただし、アップじゃない。全身映っていない。

 同じ個体と特定できない。


「俺、明日にでもコイツ(鶏)連れて行ってみるよ」

「連れて行くの?」

「そうする。写真で見る限り居心地良さそうな住処だ。コイツの家なら早く戻してやりたい」

 何より現場に行けば、鶏が教えてくれる。 

 自分の縄張り目指して跳んでいく。


「セイ、明日出かけるのなら、今夜は早めに寝かせてあげたら? 11時過ぎてるよ」

 マユは(半透明の)指で聖の肩に載ってる鶏に触れる。

 鶏は丸くなって時々目を閉じて……眠そう。

 シロは足を伸ばした無防備な体勢で熟睡中。

 

「そうだね。寝かせてくるよ(そろそろ肩も凝ってきたし)」 

 聖はシロを起こし

 2階の寝室に誘導。

 まず、床に落ちている(すっかり固まった)鶏の糞の始末

 薪ストーブの力で寝室も暖かい。

 鶏は、サイドテーブルに自分で移動。

 木製(手作り)テーブルの端っこが気に入っている。

 

そして寝室消灯。

 ドアを閉めた。


 マユが好きなSFアニメの続きでも見ようかと

 思いながら階段を降りる。

 

途中で

 とん、とん

 と、 

 ドアをノックする音。


「ユウトさん?」

 中から声を掛ける。

 夜更けの訪問者で、ちゃんとノックする人物。

 動物霊園の桜木悠斗以外に思いつかない。


 しかし

 悠斗は入って来ない。

「え?」

 セイはドアを開けようとドアノブに手をかける。


「セイ、開けるの?」

 耳元でマユの声。

 突き刺すような鋭い声。


「マユ?」

 振り返れば、その姿が……無い。

 部屋の中のどこにも……見えない。


 とんとん、

 またノック。


 誰かが、ドアの向こうに居る。

 

 ドアに鍵は無い。

 ドアノブは劣化で閉まりが甘い。

 外側からでも分かるはず。


 侵入者であるならばノックは不要。

 家に入る気は無い?

 俺を家から出させたいのか。

 室内に痕跡を残したくないのだな。

 

 聖は白衣を脱ぎ(闇で目立って不利)

 ワークブーツの靴紐を締め直す。

 またとトントン遠慮がちなノック。 


 部屋の灯りを消し(窓灯りが無い方が自分に有利)

 ドアを静かに開けて外に出る。

 閉めたドアに背中を沿わせる。

 

 最初に見たのは木立の上の薄い下弦の月と、星

 見上げる夜空より、辺りは暗い。

 

 闇の中……黒い服着て黒い目出し帽のが

 左に1人、正面に2人……手を伸ばしても触れない距離に居る。


 闇に目が慣れ、橋の上にも数人居ると分かる。

 立ったりしゃがんだり。

 モノのように静止している。

 (おころび座の舞台で見たように)

 殺気が無い

 それでシロは気付いてない。

 たとえ気付いても2階の部屋のドアは開けられない。

(おころび座、ですね。俺を始末しに来ましたか?)

 聞きたいところだが、声には出さなかった。

 聖は

 コイツらの無言劇に付き合う気になった。


黒い一団に溶け込むように

静止状態を習った。


……彼らの動きを待った。

 

30秒、1分…また1分。


 どいつも刃物はもってないのか。

 俺が流血すると都合が悪いのだろう。

 

 橋の上(左側)は数人いるのに、霊園事務所への路(右側)は手薄。

 (マップ航空写真では、工房裏は深い森。ロッキーも焼却炉も写ってはいない)

 

<おころび座>は完璧に事故死を装ってきた。

 

(そっか、川か。拘束して溺死させる気か)


先が読めた。

聖は(うおー)と叫んで、襲撃者が居ない右側、霊園事務所に至る道へ

全速力で駆け出す。


同時にシロが吠えた。

(飼い主の雄叫びに、反応した)

続いて、向かう先で犬の遠吠え。

トラも異変を察したのだ。


当然、襲撃集団は聖を追う。


複数の息づかいが追ってくる。

動きは静か。無言。


ささっ、ざざっ

枝が揺れる音と衣擦れの音が背中に近い。


聖はわざと路を逸れて森の中をジグザクに走る。

しかし追手は距離を詰めてくる。


とうとう、2つの手に肩を掴まれてしまう。

柔らかい手。

当然素手では無い。

続いて3人が覆い被さるように、

聖の背中に載ってきて……逃れられず跪くしかない。

暗い森に逃げ切れたら良かったのに。

戦闘は避けられない展開。


こいつら、数は多いけど……弱そう。

弱いから数で勝負なのか?


さて、俺はどうする?

熊や猪相手と同じように、やっちゃっていいのか?

いや、弱々しい身体の人間だ。女も混じってる。


自分に問いかけた瞬間

眩しい光。

懐中電灯で照らされた。


「セイさん?」

聞こえたのは悠斗の声。

声は冷静。いたって普通。


続いて……トラが、前方から跳んできた。

闇に金色の目が光って……こっちは興奮状態、猛獣モード。


(う、)と頭の上で声

聖の身体は拘束から解かれる。


どすん、ばたん


近辺で乱闘の気配。

地面に転がった懐中電灯が辺りを照らす。


「う、わ、」

目に入った光景に

聖は、ぞーっとする。


トラが唸りながら黒ずくめの1人の足に噛みついてる。

悠斗は別の1人の顎に、みごとな蹴りを……。


ヤバイ、このペア戦闘能力高すぎ。

これはまずいかも。

殺しちゃうかも。

ほっといたら……皆殺しだよ。


聖は悠斗の背中にしがみついた。


「ユウトさん、もういいから。トラも……トラも止めて」

 人殺しをさせたくない(正当防衛でも)

 悠斗にもトラにも。

 

「……いいんですか?」

「はい。もう充分だと思います」

 悠斗は、すんなり戦闘モード解除。

 敵は一目散に這うようにして逃げていく。


「トラ、こっちおいで」

 トラは残念そうな顔して、悠斗に従った。

 つまり、獲物を解放した。

 足を噛まれたソイツは仲間二人が両側で抱え、速やかに逃げ去った。




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