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08 英雄騙り



 ゲームという単語に、ゲーム好きな二人は耳をピクリと動かす。



「ゲーム部やて?」


「うそだ、こんな部活……去年はなかった」


「マジか!?」


 

 周りがざわつきはじめる。ゲーム部という聞きなじみのない単語に。

「そんな部活あったっけ」「この学校ゲーム持ち込みいいんだっけ?」と。


 新一年生だけじゃない。在校生もみんな。誰もが壇上の方へ目を向ける。かつかつかつ、と上がっていったのは女子生徒一人だけ。



「うわっ、なんじゃっ!?えらい美人さんやで」


「ほんとだ……」



 その子はとんでもなくスタイルが良くて、顔も美人で、度肝を抜かれる。

 それもあって、観衆の声はどんどんと大きくなる。「すっごい綺麗」「あんな子いたっけ?」「めっちゃ顔ちっちゃい!」など。



『みなさーんはじめまして!!わたし、新一年生の鐘望(カネモチ) メアです』



「目ぇ青いで?ハーフなんかな?」


「そうかも」



 メアと名乗った新一年生が、みんなに向かって手を振る。その立ち振る舞いのあまりの可愛さに、盛り上がる生徒たち。

 だがそれ以上に、動揺する生徒の方が多くなっていた。やばいやばい、と声を出し、一斉にスマホを開いて。


「おい、鐘望メアって……あの!?」

「えっ!?うそっ!?メアちゃん!?」



 その名前を聞いた途端に、喋り声が爆発的に増えて、先生が静かにするよう注意する事態に。それほどの衝撃を持つネームパワーだったということだ。



「……だれ??」


「だれやろ?ちょっ、検索するわ」




 ────鐘望メア。



「動画活動を主にモデルや歌手、子役(役者)として、マルチで活躍する。自身のチャンネル登録者数は43万人で、今をときめく女子高生……待って?えぐいえぐい、経歴がえぐいて!!」


「ひぇ……」


「インフルエンサーやんけ!?この地域ってか、この学校そんなやつおるんかぁ、はえーー恐ろしいなぁ!?」



 メアは話を続けていた。



『じつは、ゲーム部はまだ作りたてで、部員がひとりしかいないんです……しくしくっ』



 わざとらしく泣き真似をしていた。それを見たノリのいい男子生徒たちがそれを真似している。女子生徒なんて、入る入る!!入部希望します!!と早くも手を上げている始末だ。



『部員絶賛募集中です。と、言ってもこの部活がどんな部活がまだ全然わからないひと、いると思うんだよね……わからないひとーー!!』



 はーーい、と普段の授業じゃ一切手を上げないくせに、こういう時だけ元気がいい。



『ゲーム部は主に、その名の通りゲームをやってきます。ただし……ガチです』



 声のトーンが急に低くなり、空気感が変わる。いっそ恐ろしいくらいに、メアの目つきも変わった。



『お遊び目的でゲームはしません。プロリーグって知ってますか?知ってる人ー』



 手を上げるのは少数だ。ぽつぽつと。彼女が呼びかけてこのくらい。これが現代日本のプロゲーマーやeスポーツの認知度の低さである。



『私がこの部活で目指すのはプロレベルです!!腕前に自信がある人、マジでプロ目指してるって人、ぜひ募集中です』



 重々しい感じから一転。笑顔になってこう続ける。



「あ、そうそう。私が特に力を入れたいタイトルが、一本、あります。できればそのゲームをやってるよーって人がいいな!!さて、そのタイトルは────』



 ばっ、と。体育館のスクリーンにそれが表示される。



「ヴィクトリアス」



 那己は目を丸くしていた。何億回も見慣れたそのパッケージタイトル。まさか学校の体育館のスクリーン上にそれがでっかく映し出される日が来るとは思わなかった。




『さて、そろそろ私の発表は終わります。さっきはちょっと真面目モードで言っちゃったけど、もちろん初心者でも、熱意があれば、是非来てほしいな!!では!!』



 一礼。そして舞台袖へと歩き始める。

 拍手が起こる。ボケなんて一切ない。いたって真面目な紹介内容なのに、生徒たちのウケがいいのは、彼女の魅力が9割ぐらいを占めているだろう。


 それほどのカリスマ性を目の当たりにして。



『ああ、そうそう、ひとつ言い忘れてた』



 そんな去り際に、メアがぽつりと、小声で、ぼそっと。








『────英雄マンの正体は、私です』





「は……?」



 その言葉を聞いていたのは何人だろうか。そもそも「英雄マン」の存在を知っている人はこの学校に何人いるだろうか。

 きっと多くはないだろう。


 いくら『ヴィクトリアス』が有名なゲームであったとしても。所詮はいちゲームのいちプレイヤーにすぎない。

 大体の人は、最後のは何の話だろう?と首を傾げ、数秒後には忘れてしまう事だろう。



「はっ……はぁ?」



 しかし。数が少なくても、いないわけではない。

 その名を知っている人はもちろん動揺を隠せない。横にいる曜ですら、口をあんぐりあけたまま動かなくなっている。


 ましてそれが……「英雄マン」その人なら尚更。



(なんか、わたしのニセモノ現れたんですけどぉぉぉ……!?)

 

 






 

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