05 OK(ダブルキルの音)
武器を持った。四人一組となった。こうなればいよいよゲームが開始する。
マッチングする組は一度に二十組。合計八十人が、フィールドとなる絶海の孤島へと放り出される。空中から。
この辺は往来のFPSやTPSなどのガンゲームをなぞる形を取っている。
那己のチームが降り立ったのは南側の比較的人口が少ないエリアを狙った。
が、少ないと言ってもバッティングする可能性は大いにある。
地上に降り立つ最中、近くへと着陸する四人組の人影をみた。ゲーム序盤から遭遇する可能性のある敵が1チームいるということだ。これは気をつけねばならない。
急いで、一軒家に立て込んでその身を隠す。そしてこれもこの手のゲームによくあることだが、家には武器や装備の強化パーツ、回復薬などが落ちているので、すぐに収集してファイトに備える。
それにしても……。
(か、回復杖ってなんだっけ??)
初期装備の、それも全然使ったことのない武器を握ったせいで、立ち回りはどうすればいいのか思い出すのにも一苦労。
「なんや?那己ちゃん初心者なんかー?」
そう聞かれた。「違う」と答えるよりも先に、曜は肩をぽんぽんと叩く。
「大丈夫や。最初はみーんな緊張する。せやから、な?気楽にいこ?」
「……いや、あの」
その優しさ、屈辱的。いいところを見せようと思っていた那己は地団駄を踏んだ。本当は、本当はめっちゃ上手いのに!!と。わたしは「英雄マン」なのに!!と。
しかしその怒りすら表には出せない不幸な性。あまりにも引っ込み思案が過ぎた。
◆◆
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【回復杖】
説明:攻撃能力はほとんどないが、味方を回復させることができるスキルや、攻撃から守る盾を展開したり、動きを止めて妨害攻撃を出すことができる。
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握った武器を改めて見る。先の方が金槌のように膨らんでいる綺麗な木の杖。所々にまじないがかかってそうな数珠や骨のアクセサリーが巻き付けてある。
性能そのものは名の通りだ。よく言えば後方支援に特化した縁の下の力持ち。悪く言えば。
(介護武器……た、楽しくなる未来が見えない……)
いつもみたいにバッサバッサ敵を殺しまくるムーブはできないと思うと、那己の気分は下がる。
だって、味方が死なないよう、ひたすら、ひたすら、チマチマ、チマチマ。回復を入れるという地味作業。これのどこが楽しめる要素があるのか?と。
そしてそんなローテンションな那己に襲い掛かるのは、第三の誤算であった。
「あれ?野良の二人外行ってしもーた」
(えっっ!!?)
野良、暴走する。
なんと同じチームの二人が勝手に家を飛び出し、だだっ広い草原へと裸一貫で突撃する。
アホだ。アホがいる。
(なっ、何してんの……!?あんな目立つことしたらすぐに……!!)
ズドン。ダブルキル。
遠方から飛んできた銃弾によって野良2名の命は掠め取られた。
(言わんこっちゃない……!!さっき近くに敵チーム降りてたじゃん、見てなかったの……!?)
「の、野良が死んだァ!!!畜生がァ!!?那己ちゃん!!おおお、お落ち着くんや!!ここは危ないでぇーっ!!」
生き残った二人は位置がバレないように、腹ばいになって体勢を低くし、家の奥手へと匍匐前進で向かう。
幸先が悪すぎてこのマッチはもうダメかもしれないと思った。
◆◆
ひょっこりと。窓から覗く頭が二つ。那己と曜は、死んだ野良プレイヤーの死体を漁る敵四人を発見する。
おそらく奴らは殺した裸一貫がなにも持ってないことに舌打ちをうっていることだろう。
「アイツら……やるか、那己ちゃん」
「っぁ、えっ……あっ」
↑これは、わたしは反対と言っているつもりだが何も喋れてないコミュ障。
「せやんな?仇取りたいよな……!!」
↑これは、全てを理解したような顔で何もわかってない脳筋ゴリラ。
結局、曜の復讐心に振り回される形で、泣く泣くついていくしかできない那己。自分も攻撃系の武器なら、嬉々として殺しに行くのに……と涙を流すが、もう割り切るしかない。
(あっ、合わせればなんとかやれる、かな……4-2だけど地の利は取ってる……完全に曜さんの腕次第……)
杖を握る。剣を構える。二人はゆっくりと家の裏手から外に出て、回り込むようにポジションを取る。
外は遮蔽物の少ない草原。辛うじてある木や背の高い草を転々と渡る。
シマウマを狙うチーターのように、好機をじっと待ちながら、ひとつ、ふたつ。距離を詰めていく。
「いくで……」
「……」
曜が身を屈めて、双剣を抜き、次で走り出す姿勢となった。その合図に応えるように、那己は回復杖を構える。
「いまや!!」
右足を蹴る。
相手が音に気がつく。
そして始まる。不利状況からの初動ファイトが。