04 双、双、双剣、回復杖
「ぁぁ……ここは落ち着くなぁ……」
真っ暗闇から始まって、起動して広がる世界は、見慣れたもの。
ゲームセンターの筐体から『ヴィクトリアス』へとログインした。
目の前に出てくるのは武器のセレクト画面。一枠が自分、残る三枠は仲間の分。
そして。
「あー、あー、もしもーし?那己ちゃーん?聞こえる?」
「にゃひっ!?」
「うん、聞こえてるな。さぁー、いっちょ気合い入れてやりましょかー」
同じ店内からログインしている曜とだけVCが繋がる。
いよいよ、那己にとって初の『ヴィクトリアス』マルチプレイが始まろうとしていた。
『ヴィクトリアス』がどういうゲームかおさらいすると。
・1つ、武器を持つ。
・2つ、四人一組のチームを作る。
・3つ、一試合につき二十組が最後の一組になるまでやりあう。
細かいルールは他にもちょいちょいあるが、ざっくりとした要素はこれだけだ。
今はキャラクターセレクト画面が前に出ている。つまり武器を決める段階だ。
(ここでわたしの隠されていた実力が発揮されるんだ……英雄マンとして……えへへっ、へへっふへへっ)
「どした?ニヘニヘして」
自分のホームグラウンドに入った途端、あからさまに意気揚々とした様子になる那己。
だがここで第一の誤算が襲い掛かる。
「あっ、あれ……」
ない。
いつもランクマッチで愛用している武器が、セレクト画面に表示されていない。
これは一体……。
(────あ"ぁっ!?ここゲーセンの筐体だから、わたしのセーブデータ無いんだぁ!!)
「英雄マン」の愛用武器は、ある程度やりこんでから手に入る"隠し武器"というやつだ。セーブが初期状態のゲーセン筐体が掲示してくれる武器も当然初期装備のみ。
家のVRマシンと連動するには引き継ぎデータ用のパスカード、あるいはアプリケーションが必要なのだ!!
(し、しまったぁぁ……!!本来の実力から大幅デバフ……!!けど!!「英雄マン」たるわたしにとっては、いいハンデ……!!)
なんて自分に言い聞かせて。渋々自分の愛用武器と1番近い形状をした装備、『双剣』にカーソルを合わせようとした。
そのときだ、第二の誤算がきた。
「あたしこの『双剣』得意やねん。前線は任してやーっ」
(なぁぁぁっ!!武器被ったぁぁっ!?)
曜は双剣使いだった。
「あれ?那己ちゃん双剣使いたかった?」
「あっ」
「武器被ってしもた!?ごめんっ!!」
「いやっ、大丈夫……で、す」
このゲームは仲間が先に選んだ武器を選べないとかは、別にない。
ユーザーが使いたい武器をちゃんと自由に使えるようになっている。だから遠慮せずに双剣を選んでもいいのだが……。
(被りかぁ……被っちゃったかぁ……)
武器被りの何が不味いって、役割がモロ被りして、どちらかが手持ち無沙汰になり、どちらかが2人分の負担を受け持つ事態を引き起こすことだ。
俗に言う、"腐る"というやつ。
それこそ「英雄マン」が普段愛用している武器は、そんなの関係ないぐらい強くて、かつ出来ることが多いので被ってようがなんの問題もないのだが。
初期装備『双剣』の場合はそうもいかない。
(そういえば、双剣って人気武器だったっけ。すっかり忘れてたよ)
この「ヴィクトリアス」で最も人気な武器種はなにかと言われれば"剣"。その中でも"双剣"
その華やかさからライトユーザーに好まれ、その取り回しの良さからヘビーユーザーにも親しまれる、ぶっちぎりの人気武器"双剣"。
ちなみに次点で人気なのは"スナイパーライフル"だ。ロングレンジで一撃必殺は強さとロマンを両立する。
双剣を選んだら、そりゃあ被るに決まっていた。
那己からしたらこんな武器、普段選ばないので、意識から抜けていた。
カーソルを外して違う武器を選ぼうか。そう悩む。
(けっ、けどわたしも双剣でいいか……剣は被ってもある程度役割分担できる柔軟性が売りだから……)
チーム戦という意識をし始めるとちょっと痛いが、普段使いの武器と似ているという観点で、那己は再び双剣にカーソルを合わせようとする。
ーーーーー
プレイヤーA:双剣
プレイヤーB:双剣
プレイヤーC(曜):双剣
プレイヤーD(那己):双剣
ーーーーー
するとこうなる。
(編成事故ってるぅぅぅ……!!?)
まさかの野良2人も双剣。クソバカ双剣艦隊が完成してしまった。
これはまずい非常にまずい。
「あっはっは!!おもろいな!!みーんな双剣やん!!」
一つ、このゲームの武器には遠距離武器が存在する。
その最たる例がさっきあげた2番人気、スナイパーライフルだ。仮にもしこの編成のままランクマッチに突入したらどうなるかというと。
遠くから飛んでくる弾丸になす術なくやられて終わる。
そうなった暁に待っているのは、ゲームオーバー直後のなんとも言えないギスった空気……!!
せっかくチャンスを物にしたというのに、これじゃあ瞬殺されて、曜が「このゲームおもんないやん!!次のゲームいこか!!那己ちゃん!!」と言うこと必須!!
(それは……いやだっ……!!)
急いで双剣からカーソルを外し、武器を選び直す。愛用武器を使えない以上、ここで選ぶべきは相手の遠距離攻撃に対応できる武器だ。
どれだ、どれだ?
(畜生ーーっ……!!パーティのこと考えた武器選びなんて今までしたことないからわかんないよぉ……!!)
ここにきてソロ勢だった弊害がモロに出る。こういう事故編成の時はどうするのが正解なのか、那己にはわからない!!
「どしたん?那己ちゃん」
「えっ、あっ、あっ」
「なんや?双剣やめるんか?せっかく被ってるしそのまんまの方がおもろいのに」
「えっ?そっ、えっ、あっ??」
(でも負けちゃうじゃないですか!?それおもろいの絵面だけで絶対塩試合不可避じゃないですか!?
え?なに?もしかして友達とマルチプレイするならあえてこのままにするのが正解?でも勝ち狙うなら絶対この被り方は不味いしあぁっ!?)
「双剣にしようや!!な??そうけ……あっ、でもやっぱ、変えたいならええで?那己ちゃんの好きなよーにしてくれなー。楽しい方がええ」
「あっあっ」
(これどっち正解!?『空気読めよ、な?』ってこと?それとも本当に編成考えて変えていいの?? ああぁっ!!?会話のボール投げられたら脳の9割のリソースそっちに持ってかれるぅぅーーっ!!せっ、セレクト時間が……!!えと、えと、ああああっ!?)
結局テンパって、どこかわからないところにカーソルが向く。そしてセレクト時間のリミットがやってくる。
自分が何の選んだのかすらわからないまま、試合へと突入してしまうのであった。
◆◆
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プレイヤーA:双剣
プレイヤーB:双剣
プレイヤーC(曜):双剣
プレイヤーD(那己):回復杖
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「なんだこれ……」
全く知らん武器握ってた。これなら双剣で揃えた方がまだ良かったかもしれない。
というかまるで、自分がソロみたいな絵面になってしまったことにショックを受ける那己だった。