02 ゲームセンターでの邂逅
「か、考えてみたら、一年の後半からいなかった奴に……もう付け入る隙なんてなかった……」
至極真っ当な事実に気がついた頃には下校の時刻になっていた。
新学期でリセットされるのは一年生の間だけ。二年になれば組を跨いで生徒同士が仲良くなってる頃合いだ。
それなのに、どこに居場所があろうものか。
那己の足取りは重く。深く。帰ったら負けるまで連勝記録伸ばそうかと考える。
「け、結局ソロに逆戻り……これじゃあ数ヶ月前と何も変わらない……」
そんなのは嫌だった。
もうソロでは遊び尽くした。散々やった。複数人でやる「ヴィクトリアス」を味わいたい。
ボイスチャットを繋いで、コミュニケーションを取りながらやる。配信者同士でよく見るアレを友達とやりたい。
「いっそSNSで呼びかけてデビューしようかな……」
なーんて思ったが首を横に振る
「いやダメだ!!わたしがそんなことしたら……」
『おい、英雄マンがソロプレイやめるってよー』
『マジかよーフォローはずそう』
『失望しました。貴方との物語はここでおしまいです』
『ソロ勢やめた英雄マンに価値はないよね』
『解釈違いです』
「炎上不可避ぃっ!?」
そうなるに違いない。鍛え上げられたネット嗅覚が危険信号を察知している。そう思って那己は、あくまでリアルでの友達と一緒にやることにこだわる。
しかしもう、学校には新しく友達ができそうな雰囲気はなかった。
「あぁーぁ。わたしのことをなんにも知らない……それでいて陽キャじゃない感じの……そういう人たちが集まるような都合がいい場所ないかなぁ……簡単に友達ができるコミュニティないかなぁ……ないよなぁ……」
そんな場所あるわけない。
あるわけ。
あるわけ。
「あった」
あった。一つだけ。
「ゲームセンター……」
古き良きゲームセンター。今はVRの筐体が置いてある、オンラインゲーマー達でもオフラインで出会う憩いの場。
それがゲームセンター。
オンラインでのやりとりが充実する昨今、今の時代でわざわざここに来るのは根っからのゲーム好きに違いない。
ここでならあるいは。新しく友達を作って「ヴィクトリアス」に誘う事もできるかもしれない。
「こ、ここならいける気がする……!!学校が無理でも……わたしが魚だとしたらこの空間はよもや水!!やれるよ……!!友達つくれるよ……!!」
そうして入店した。
◆◆
無理だった。
「オンライン上で知らない人とやり取りするのも無理なのにぃ……!!どうしてオフラインでできると思ったんだわたしぁ……!?」
尋常じゃない緊迫感と、近くで爆音を流す古いタイプの音ゲー筐体のせいで心臓の鼓動はズッタズタである。
止めどない冷や汗を拭いながら、ゲーセン内を壁伝いで移動する。
しかも言うほどゲームセンターに入り浸ってる人間はこちら側じゃなかった。普通に茶髪ピアスの兄ちゃんが歩いてるし。
そちらのUFOキャッチャーでキャッキャウフフやってるのはリア充だしで。
那己のライフはもうゼロだ。
「はぁぁ……」
あちらを見てみる。アーケード版の『ヴィクトリアス』が置いてある。
複数人の集団が楽しそうに賑わっているのを見て、疎ましく思う。
(帰ろう、余計惨めになるだけだ……)
そう思ってそそくさと退室しようとした時……。
「あれぇ?その制服、同じ高校の子やん!!おーーい!!」
「あ"っ」
声をかけられた。女の子の声だ。
しかし那己の顔は上がらない。床をじっと見つめながら身体だけを声の主のほうへ向けるのが精一杯。
「ほっ?なにその動き?オモロー!!ゾンビやん!!」
そして陽気な声の主の足音が近づいてくる。緊張で顔を上げらない。それどころかどんどん顎を引いてしまって……。
「ばっ」
「あびばっ!?」
下からぬっと、顔が出てきた。
那己は発狂した。
◆◆
「このゲーセンで女子高生が一人でいるのって珍しくてな?つい声かけてしまうよな?」
「へっ……あっ、はいっ……」
ゲーセンの端にある、自販機と一緒に置いてあるベンチ。
そこに座る、バッシバシに痛んだ黒い髪の毛を伸ばし借りてきた猫のように萎れているのが我らが「英雄マン」こと、比窟 那己。
そしてその隣にどっかりと座るドピンク髪でポニーテール、腕に包帯を巻いてる見るからにヤバい不良みたいな少女が一人。
「なあ、あんた何年?一年?」
「に、にねん……です」
「二年!?マジか!?先輩やん!!」
むしろ3分の2の確率で歳上を引くのにその接し方で行っているのはどうなんだ?と思いつつも、そんなことを口にできるわけがない那己である。
「あたしは朱音 曜。呼び方は朱音、曜、カネヒ、アカカ……あーー、まあ、てきとーによんでな」
「あっ、そっ、ひっ、曜……さん」
「せや!曜ちゃんやでー!!先輩の名前はー?」
「……ぇ、ぁ、あ"」
「あー?」
「ぁあぁっ……あっ」
ピーーーーー。死滅した。
ただの自己紹介も、陰キャにとってはハードルが高すぎた。