表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

01 ひとりぼっち、ゲーマー。




 ゲームの内容は至ってシンプルだ。


・1つ、武器を持つ。


・2つ、四人一組のチームを作る。


・3つ、一試合につき二十組が最後の一組になるまでやりあう。


「剣や鎧といった銃以外の武器が持てるFPS」といえばわかりやすいだろう。


 それが、世界で最もプレイヤー人口が多いとされるVRゲーム。『ヴィクトリアス』の概要である。




◆◆




「え、英雄マンだ……英雄マンがいるぞ!!」


「まずい!?早く隠れろ!!コイツの視界に入ったら────」



 スパッと。


 首に武器を振るわれたオンラインの誰かさんは死んで(キルされて)、ゲームオーバーとなった。



「う、うわああ迎撃しっ────」


「あぁ!?リーダー!?よくも仲間を────」



 その隣にいる奴も。その隣の隣にいる奴も。さくっとやられる。断末魔を上げることすらなく。一瞬にして。



 ……ところで「ソロ勢」という言葉を知っているだろうか。

「ソロ勢」とは、端的に表せば、基本は1人で楽しむプレイスタイルをとるユーザー層を指す言葉だ。


 「ヴィクトリアス」は四人一組のチーム戦を主体としたオンライン対戦ゲームだが、そんな中にも「ソロ勢」はいる。


 例えばこの「英雄マン」なる変哲なプレイヤーネームをした、彼女が筆頭である。



「やば────」


「バケモンかよ、くそ────」


「あっ────」



 斬る。キル。斬る。キル。斬る。キル。ぶった斬る。キル。叩き斬る。キル。斬り続ける。立て続けに。キルし続けて。

 99、198、そして297。




〔WINNER!!チーム19!!英雄マン!!〕



 四人一組が基本のゲームで、一人で戦い抜く。それがソロ勢。

 「ヴィクトリアス」において、正真正銘の異常な狂人として扱われる人種のことである。



◆◆



「ふっ、ふふっ。297連勝達成……!!はやくツウィートしないと……」



 VRのヘッドギアを外したかと思えば、即座にカタカタカタカタと、手元のスマホに高速タイピングをぶち込みつつ、更新のために上へ上へとスライドし続ける、ぼっさぼさな髪で猫背な女の子が1人。


 この残念すぎる風貌をした彼女こそが、ついさっき「ヴィクトリアス」において前人未到の297連勝を達成した最強プレイヤー、「英雄マン」の中の人である。



「うっへぇ、一瞬で一万よいねだぁー」



『すごい』『バケモンだ!!』『ヤバすぎる!!フォローします!!』


 満たされていく承認欲求。彼女は今、絶頂している。

 血流は加速し、鼓動は天井へ届くほどの高鳴りを見せ、その気分たるや人生の最高潮に到達し────。



[ピピピピッ!!!]


「あっ……学校行く時間……」



 そのテンションは、ちょうど迎えた登校時間によって一気に沈着されてしまうのであった。



◆◆



「しっ、しんどい……は、早く帰りたい……」

 


 目にくまを作りながら、千鳥足で登校路を進む。


 彼女の名は比窟(ヒクツ) 那己(ナコ)。今日から高校2年生になる女の子だ。

 だが見て分かる通り、一般的な女子高校生ではない。むしろ一般より下というか。


 そう、ド陰キャである。


 今日から新学期が始まる。高1の後半はろくに学校にも行かず家に引きこもっていた那己だったが、ついに玄関を上げて学校へと向かう。



「だっ、だめだだめだ。逃げちゃダメだ比窟 那己。新学期のリセットされるこの瞬間が……真っ当な人間に戻る最後のチャンス……」



 那己は自分でも良くないと思っている。学校に行かなきゃ。ちゃんとした学生として過ごしたい。そしてなにより。



「今度こそ……友達作って『ヴィクトリアス』一緒にやりたい……!!」



◆◆




『ヴィクトリアス』


20X4年に発売。開発元は"株式会社クラゲームズ"


元はゲーセン発のアーケード型筐体だったものを、VRへと移植し、デジタルオンラインゲームとして発売。


そのシンプルながら奥の深いゲーム性から爆発的なヒットを記録し、MMOジャンルが飽和していたゲーム界に深い衝撃を与えた。


 一般の認知度も高く、発売から5年経った今でも衰えを知らない……。






 さて、もう一度言おう「ヴィクトリアス」は四人一組で遊ぶ対戦ゲームだ。

 そして普通高校生なら友達の一人や二人誘ってやるものだ。

 しかしどうだ、今の現状は?ソロ。ソロ。ソロ。ソロでやること5年弱。気づけば297連勝。いや、その記録はめでたいことだがそうじゃない。


 あまりに惨めすぎないか?


 いつか友達と一緒にやるために。その腕前を毎日コツコツ、コツコツ、地道に鍛え上げた結果掴んだものは、孤高という名の孤独。


 違うんだ。この栄光は自分だけで掴みたかったわけじゃない。

 誰かの共有資産でありたかった。


 彼女は承認欲求こそ満たされたが、満たされたのはそれだけだ。本当に求めているのはそうじゃない。



「だち、ともだち。だち。だち」



 対等に接してくれる誰かと、一緒にやりたいだけだった。

 時刻は午前9時ごろ。教室の扉を開け、心機一転。友達作りから始めよう。






◆◆




 放課後になった。



「だっ……誰とも話さなかった」



 終わった。



 ひとりぼっち、ゲーマー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ