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殺し屋と魔法使いのワルツ 魔法使い編  作者: 青山八十三(やとみ)
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position 4

同じ頃、所変わって、こちらも馬車の中。


リリサはオラクル公爵家での昼食会を無難にこなし帰路に着いていた。


「お疲れですか?」


「そうですわね…気疲れでしょうか。何だか溜息ばかり出そうになりますわ」


リリサは俯いて小さく息をついた。


車内には気心知れたアンヌしかいない今、取り繕う必要はない。


昼食会で無理に笑ったりテンション上げていた反動もあって、リリサは少しばかり弱音を吐くことにした。


「まさかもうシャルル様のことが?」


「いえ、それは大丈夫。もともと昼食会には私だけ参加の予定でしたし、流石にこの短時間で気付かれることはありませんわ。ただ…その、苦手なんです、あの方々が」


「オラクル一族、ですか?」


「ええ。あ、誤解しないで。とても素敵な方々なんですのよ。皆様とても賢くお優しい方ばかりです。ただ、あの『瞳』が少し苦手なだけなの」


「『未来を見通す瞳』ですね」


「えぇ。あの瞳に見つめられると、何でしょう…未来どころか私自身の知らない深いところまで覗かれているような気がするの」


「それは居心地が悪そうですね…」


オラクル一族はアシュレイと同格の公爵家であり、「先読みの一族」として知られている。


彼らの特徴である「黄金の瞳」は見たものの未来を映すという。


今回のことも、もしかしたら彼らには分かっていた事なのかもしれない。


シャルルの失踪も、これから起こることも、全てお見通しなのだとしたら……


そこまで考えて、リリサは頭を振った。


分かっていたらどうだと言うのだろう。


それでもきっとシャルルの意思は変わらないし、彼のすべき事も変わらない。


自分に何か出来たとは思えない。


考えても無駄なことを振り払い、リリサは今すべき事に話題を戻した。


「それよりも、アメリィさんはそろそろお返事くださったかしら」


「そうですね…あの方々は何かと身軽ですし、もう遣いが帰って来ているのではないでしょうか」


「ふふ、そうですわね。本当に身軽な方達で…あ、そういえばあの時も!アンヌ、覚えてる?昨年の…」


と、リリサは楽しげに思い出話を始めた。


あの時は驚いた、と2人は懐かしく語ったが、この後それを遥かに上回る驚きを提供される事となる。





「まぁ……」


口に手を当て目を丸くして、リリサは部屋の入口で固まった。


帰って早々、訳の分からぬまま使用人達に押されるように応接室へと連れてこられたのだが、まさか既に「来ている」とは思いもよらなかった。


隣のアンヌは口をパクパクさせ、視線を周りに控えた使用人達やリリサや客人達の間を行ったり来たりさせている。


どちらも驚いている事には変わりないが、リアクションが対照的すぎて元凶であるアメリィは小さく笑った。


そして徐に立ち上がり礼をしながら


「リリサ様、申し訳ございません。このような突然の訪問、無礼千万は承知の上。ですが、友人の、他ならぬリリサ様の危機とあっては居ても立ってもおられず…」


などと心にも無い「挨拶」をした。


リリサだけでなく使用人達も誰も状況についていけてないのだが、完全に無視して話し続けている。


アメリィ本人も聞いてもらうつもりもないのだろう。


「一応言いました」という、言ってしまえば形だけだ。


頭を下げ仰々しく長々と語ってはいるが「イキナリ来てごめ〜んテヘペロ」くらいの中身しかない。


そんな姉の後ろ、既にママゴトに飽きていたエレナはソファから少し身を乗り出してリリサに小さく手を振った。


「お〜い、そろそろ戻ってきて〜」という合図だ。


それに気付いたリリサはハッと顔を上げて慌てて動き始めた。


使用人達を下がらせ、開けたままだったドアを閉め、未だ話し続けるアメリィの前に立つ。


「あらあらあら、アメリィさん、頭をお上げくださいまし。私こそ不躾に遣いなど送ってしまってごめんなさい。本来なら明日まで待つべきでしたのに、すぐにお返事をだなんて無理を申しました」


「いいえ、そのような事は些事でございます。お気になさいませぬよう」


「そんな訳にはいきませんわ。私としては…」


「はい、そこまでー」


パンパンと手を叩き、エレナは白々しく上辺だけの言葉のキャッチボールをしている2人の間に割って入った。


「もう誰もいないよ。その茶番、いつまでやってるの?」


「まぁ、茶番だなんて」


「失礼な妹」


「茶番じゃなきゃ何なの?コント?それとも『貴族ごっこ』?」


「様式美ですわ」

「様式美ってやつ」


リリサはニコリと、アメリィはドヤっとしてハモった。





最初こそ周りを気にしての「貴族らしい振る舞い」だったが、段々とそれが楽しくなってきていた。


今ではすっかり定着した「遊び」と化している。


わざと仰々しく挨拶をし合ってどちらかが吹き出すまでがお約束だ。


「……何でも良いよ。もう、緊急事態なんでしょ?遊んでないで普通に話してよ」


いつもなら黙って付き合うエレナだが今日はそうはいかない。


なにせ「友人」のピンチなのだ。


といっても当の本人が遊んでいるのだが。


「そうだった。リリ姐、なんかあった?」


「…ごめんなさい、こんな事して。でも…」


リリサがしゅんと俯いて謝ると姉妹は「そういうのいいから」と声を揃えて言い放った。


「とにかく説明して。私達は貴女を助けたい。出来る事なら何でもする」


いつもの無表情に戻ってアメリィはリリサを見つめた。

エレナも隣で力強く頷く。


僅かな遠慮と申し訳なさは残っているが、リリサは有難く2人の気持ちを受け止めることにした。


「私は、貴女達のような友人を持てて幸せですわ」


「へへ、私もリリ姐の友達になれて嬉しいよ!」


「うん、私も」


「ふふ、ありがとう。じゃぁ早速だけど、これを見てもらえますか?」


と、リリサは引き出しから封筒を出した。


今朝シャルルの部屋にあった例の置き手紙だ。


「手紙…?ってシャルル様から?!え、見て良いの?」


「ええ。説明するよりそれを見た方が状況が分かりやすいと思いまして。その間に私はお茶を淹れますわね」


「お茶って…うん、頂くけどさ…」


呟くようなエレナのツッコミは隣の姉にしか聞こえないようで、リリサはニコニコといつも通りに準備を始めた。


その雰囲気に本当に緊急事態なのかと疑いたくなったが、表面上だけでも彼女が「いつも通り」振る舞えている事に安堵した。





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