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殺し屋と魔法使いのワルツ 魔法使い編  作者: 青山八十三(やとみ)
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Unkown world 7


「こっちだ」


店を出てすぐの曲がり角からフィリウスは顔と手だけ出して手招きをした。


まるで何かから隠れているような彼の様子を不思議に思いながら、三人はフィリウスと合流した。


「何でそんなコソコソしてるの?」


「さっきのディクって男、チラッとだがこちらを見ていた。何か気付かれたのかもしれない」


「えっ!私達が貴族だって気付いてたって事?!完璧に平民だったのに!」


「どこがだよ。それもだが、俺たちが噴水事件の事を調べてるってのもバレてるかもしれない。それに、少し妙じゃないか?」


「みょう?」


「『仕事で王都へ来たついでに観光がてら来てみた』と言っていたが、おそらく嘘だ。最初からここが目的だったんだろう」


「えぇっ?!」


叫んだエレナの口を慌てて抑え、フィリウスは続ける。


「敵かどうかはまだ分からないがな。何かを調べてるのは確かだ」


「結局、『開かずの扉』って何なの?」


「それもまだ分からない。ただ、軍はあそこに何かを隠してるんだろうな。わざわざ小屋を建てるくらいだし」


「軍ってことはリックの出番?何か知ってるかな」


「いや、管轄外だろ。というか機密の可能性もある。上層部しか知らないかもしれないな。まぁ、一応報告はするが…」


フィリウスはあからさまに嫌そうな顔を後、すぐに切り替えて歩き出した。


「とりあえずもう少し情報を集めよう。裏路地から西通りへ行くぞ。あのディクとか言う怪しい商人の仲間がいるかもしれないし本人と鉢合わせるのも都合が悪い」


「それでコソコソしてたんだ。でも私はそんなに怪しいとは思わないけどな〜。商人さんってみんなあんな感じじゃない?大袈裟で独特な喋り方に隙のない笑顔と大振りなアクション。と、ちょっと早口でさ」


エレナは時々屋敷に現れる商人達を思い出しながら首を捻った。

確かに典型的なパターンではある。


「そうなの?私はあのような方にお会いした事はないけれど」


「リリ姐の所にはああいう商人は来ないでしょ。王族御用達とか超〜老舗とかじゃない?」


「ちょう…?確かに昔から付き合いのあるお店ばかりね」


「でしょ?ウチは結構色んなギルドの商人が売り込みに来るから、あの人みたいな感じは珍しくないよ」


「そうなの…知らなかったわ」


「私も知らない事ばっかだけどね。同じ王都なのにこんな所があったなんて事も知らなかったし」


「だね」


「えぇ」


三人はしみじみ思いながら狭苦しくゴミゴミした裏路地を見回した。



「別に知る必要はないだろ」


「ありますわ。私には国を守る義務がありますもの。国とは民。それは貴族も平民も同じです」


「俺たち…平民達の事を思うなら放っておいて欲しいけどな。いや、政治の話は今はよそう。それよりシャルル様だ」


「そう、ですわね」


リリサは反論しようとしたが、確かにシャルルを優先すべきだと飲み込んだ。


四人は裏路地を歩きながら盗み聞きした情報を整理していく。


「えーと、シャルル様の目的か理由が『開かずの扉』って話だったよね。つまり開けようとしたってこと?水の魔法でババーンとやったら店ごと潰れちゃった、とか」


「あら、シャルル君はそんな力任せな事はしないわ」


「そうよエレナ。リックじゃあるまいし」


「あはは、だよね。失礼しました」


「大尉には失礼ではないの?」


「リックは良い。だってホントに力任せな事が多いから。で、フィリどう思う?」


アメリィは「そんな所も好きだけど」と心の中だけで婚約者をフォローして、話の軌道修正をした。


「シャルル様は、扉を開けるつもりはなかったと思う。彼は確かに強力な魔法使いだが、話を聞くに、あの扉は普通の魔法ではどうにもならないのだろう。本気で開けるのなら専門家を連れていくはずだ」


「そっか。開けたいならフィリに声を掛けなかったのはおかしいもんね」


「え、俺?いや、そこまで自惚れてはないが…まぁ、少なくともウチの大学の誰かしらを連れてくるだろうな」


「でもフィリなら開けられるんじゃないの?」


「いや、実物を見ていないから分からないが…封印魔法か…それなら…」


フィリウスは立ち止まりブツブツ呟きながら脳内シュミレーションを始めた。

こうなるとしばらく動かなくなってしまうので、エレナとアメリィは慌ててフィリウスの肩を掴んで揺さぶった。


「ちょ、待って待って!それ後にして!」


「フィリ、戻ってきて」


「えっ…あぁ、すまない。つい学者魂が」


フィリウスもこんな状況でなければ『開かずの扉』の封印解除に挑んでいただろう。

軍が関わっていると知れた今、手を出すつもりはないが、やはり学者としては開けたいと思ってしまうものだ。


「コホン、失礼した」


フィリウスは咳払いをし、再び歩き始めた。


裏路地は狭く二人横に並んで歩くと塞がってしまう。四人はフィリウスを先頭に、エレナ、リリサ、アメリィの順に一列で進んで行く。


「話を戻すが、問題はやはりシャルル様の目的だな。開けるつもりがないのなら、なぜ噴水など起こしたのか…。そもそもそんな特殊な封印がされている物がこんな所にある事がおかしい。軍が関わるような物なら尚更だ。触れられたくないなら王宮や政府の施設で厳重に守れば良い。いくら封印魔法があると言っても守っているのがバーのマスター一人だなんて危険すぎるだろ」


「確かに!ウチだって大した物はないのに大きくて重くて全然開かない金庫に入れてるし一応警備兵もいるもんね」


「シャルル君は扉の向こうに何があるのか知っていたのかしら?」


「だろうな。だからこその行動だろう。…やはり開けられないにしても目星くらいは付けたいな。じゃなきゃシャルル様の目的に辿り着けない」


「じゃぁ一度戻る?リックに報告もあるし」


どことなく嫌そうにエレナが提案した。

飲み屋街探索が予想外に面白かったのだろう。まだまだ歩き回りたそうだが今はそんな場合ではないと自制しているようだ。



「いや、もう少し情報がいる。バーの方を調べてみよう。随分古い店のようだし何か軍と繋がりがあるのかもしれない。店のことだけでなくマスターの事も知る必要があるしな」


「スティーブさん、だっけ?会いに行くの?」


「まぁ、最終的にはな。先に近所の人や客の話を聞こう。出来れば初代マスターの話が聞けると良いんだが…」


「流石にご本人がご存命…な訳はないですわね。100年前と仰っていましたし。当時を覚えているお客さんも少ないかもしれないわね」


「一応、探してみるか。今度は盗み聞きじゃなくて聞き込みだからな。ボロを出さないよう気を付けてくれよ」


「「「は〜い」」」


「返事だけは良いんだよなぁ…」


フィリウスは僅かに頭痛を感じ小声でボヤいた。



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