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殺し屋と魔法使いのワルツ 魔法使い編  作者: 青山八十三(やとみ)
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questers 1

シャルル・アシュレイはラティオにとって「友人」であった。


社交界は広いようで狭い。

パーティや会合などでしょっちゅう顔を合わせていれば自然と話す機会も増える。

歳や立場が近い事、そしてお互いに根本的な部分で似ていると感じたのだろう、「友」と呼べる関係になるまでそう時間はかからなかった。


社交界の噂話、趣味の話、日常の些細な出来事。二人は色んな話をした。

打算なしに冗談を言い合い他愛ない話で笑い合う。

まさに「友人」のような関係だった。


「友達なのは本当だよ。俺はシャルルを信じているし彼も俺を信じてくれていた。でもね、俺たちは公爵家に連なる者だ。腹の中を全て晒す事は出来ないし常に正直でいた訳でもない。それくらい軍人さんも分かるだろ?」


ラティオは肩を竦めて苦笑いをした。

子供を窘めるような言い方にリックはイラッときたが、ここでキレては話が進まないと堪える。


「だから何も知らないと?」


「そうだよ。『最近怪しい外国人が遺跡に手を出そうとしてるらしい』。俺がシャルルから聞いたのはそれだけ。俺を尋問するより他に調べる事あるんじゃないかな?」


「尋問」と言っても、立派な応接室でフカフカのソファにふんぞり返って高級なハーブティーやクッキーを摘みながら、である。

緊張感も何も無い。

ウィンディア姉妹や当事者であるはずのリリサは本日二度目の優雅な午後のティータイムだ。


それっぽい顔をしているのはリックとフィリウスだけである。


「嫌だな〜、尋問だなんて。勘弁してくださいよラティオ様。そんなつもりありませんって。大尉、ちょっと」


テーブルを挟んでラティオの向かいに前のめりで座るリックをソファの後ろからルゼールが引っ張った。


「なんだ、ルゼール」


「マズイですよ、相手は公爵家の嫡男です。ちゃんとした令状もないんですから穏便に話を聞くだけにしないと」


「穏便だろうが」


「いやいや大尉はそう思ってても相手が『尋問』って言っちゃってるんですよ、アウトです」


目の前でコソコソと言い合う軍人二人をラティオは楽しそうに見守りながらクッキーを頬張った。


内緒話もこうやって堂々とされると逆に清々しい。

「隠し事なんてないですよ」と仮面じみた笑顔を向けられてばかりの彼にとっては何とも微笑ましい光景だった。



「何も知らないと仰ってるんですから、もう失礼しましょうよ。ラティオ様の仰る通り、他に調べる事あるじゃないですか。ほら、赤髪の二人組、お義兄さん達のおかげで指名手配できるようになったんだから探しに行かないと」


「そうだな、行ってこい。あとお義兄さん言うな」


「えぇ?!俺だけ?!大尉は?!」


「俺はまだ話が終わってない。子供じゃないんだ、それくらい一人で出来るだろ。隊のやつ適当に動かして良いから」


「いや出来ますけどね?!そうじゃなくて、もうお暇しましょうよって事です!話聞くなら正規の手続きしてまた改めて来ましょ?触らぬ偉い人に祟なしですよ!」


「ふふっ」


もはやコソコソではなくなった二人の話を聞いて、ラティオは思わず吹き出した。

同じ立場のリリサも声には出さずとも可笑しそうに微笑んでいた。


「いや祟りって…ふふ、君は俺たちの事を何だと思ってるのかな?公爵もただの人間だよ」


「いや〜そうは仰いますけどね、俺たち下級貴族には未知の存在と言いますか…」


「そうかな?あ、そうだ。この際だから無礼講ってのはどう?変な誤解されたままじゃ俺も嫌だし貴族社会の在り方そのものを問わないといけなくなっちゃうしね」


「そ、そんな大袈裟な話ですか?!」


「そうだよ、大問題だ。あと単純に俺が堅苦しいのが苦手なんだ。ねぇ軍人さん……えっと、マトリーズ大尉。ファーストネームで呼んでも良いかい?」


「え、あぁ俺は構いませんが……」


「じゃぁリック。俺の事もラティオって呼んで。アメリィちゃんやエレナちゃんにするみたいに気軽に話してよ」


「は?!いや、それは流石に……」


「どうして?シャルルにはそうしてるんだろ?彼は良くて俺はダメだなんてショックだなぁ」


ラティオはからかうようにわざと大袈裟な言い方をした。


面白半分、本音半分。


けれど本音は隠したまま、軽薄を装って笑った。



「ラティオ・クローツ、巫山戯るのはその位にしてください。遺跡の話が先です」


「おっと怒られちゃった。って、先生がそんな事言うの珍しいね?厄介事には関わらないスタンスかと思った」


「えぇ、そのスタンスですよ。でも今回は妹達が思い切り関わってるみたいだし遺跡と言われては学者として黙ってはいられませんから」


壁にもたれて腕組みをしたまま、フィリウスは不本意そうな顔をした。


関わりたくないのもあるが、単純にリックに早く帰って欲しいのだ。


「先生、遺跡の研究はしてないでしょ?専門外なんじゃないの?」


「……古代魔法の研究に無関係と言えなくもないからですよ」


ラティオの指摘にフィリウスは目を逸らして歯切れ悪く答えた。

彼の賢い頭は嘘や隠し事となると途端に働かなくなるらしい。


「僕の事は良いんです。それより話の続き、知ってる事があるなら協力してください」


あからさまな誤魔化し方だったがスルーして、また怒られないうちに話を本筋へと戻す。


「だから本当に知らないんだってば。俺の方でも調べてみるからさ、とりあえず釈放してくれない?ほら、俺も先生も授業あるし」


「釈放だなんて人聞き悪いですよ〜ラティオ様〜。別に拘束してたわけじゃないんですから。ってことで俺たちもう帰るんでご自由にしてくださいませ。ね、大尉?今度こそ帰りますよ!」


「…分かった。ラティオ様、また改めてお伺いいたします」


「はいは〜い、また来てね、リック」


にこやかに手を振るラティオの後ろでフィリウスが小さく「来なくていい」と呟いた。

リックが反応しまた喧嘩になる前に、ルゼールは慌ててリックの背を押し部屋を出ていく。


リリサ、アメリィ、エレナの3人も優雅にのんびりと挨拶をして軍人2人を追いかけた。



「先生、リックのこと本当に嫌いなんだね」


「嫌いじゃなくて苦手なだけです」


「一緒でしょ。もう少し歩み寄ったら?アメリィちゃん達が可哀想だよ」


「うちの問題です、貴方には関係ないでしょう。それよりもシャルル様と友人だったんですね」


「うん、まぁね。先生も付き合いはあるんでしょ?妹ちゃん達とレディ・リリサ経由で」


「挨拶程度ですよ。レディ・リリサとだって、妹の友人といえど立場が違いすぎてあまり話した事ないですし」


「立場ねぇ。気にせず仲良くすれば良いのに」


「必要ありません」


「そんな事ないさ。これから先、きっと長い付き合いになるよ。リックもレディ・リリサもシャルルもね。お友達になれない?」


「お友達?有り得ないでしょうね」


フィリウスはタチの悪い冗談として鼻で笑った。


「ではラティオ・クローツ。片付け、お願いします。ちゃんと授業に出るんですよ」


「授業は先生もでしょ。どこ行くの?」


「ウィザー・ジェインのところです。成り行きとはいえ蔑ろにしてしまったので。あ、そのクッキー貰っても?」


「あぁ、うん。どうぞ。っていうか俺も着いていくよ」


「は?なぜ?」


「いいからいいから。ほら行くよ。次の授業までに戻らないとだから急がなきゃ」


謝罪と約束した実験の話、それと少しの相談。

いつもなら勝手にしろと言うところだが、今回はラティオがいては都合が悪い。


「すみませんが、生徒に聞かせられない話もあるので」


「えっ」


「片付けもあるでしょう?終わったらすぐに授業に戻りなさい。良いですね?」


フィリウスは有無を言わさずラティオの鼻先でドアを閉めた。

残されたラティオは「あちゃー」と苦笑いをして鼻の頭を掻く。


「仕方ない、あとでアディに聞いてみるか。にしても片付けって…貴族がそんな事するわけないのに。ふふ、先生まだ平民の時の癖が抜けないんだね」


いつまでも『貴族』に慣れない彼を可愛らしく思いながら、ラティオは事務員という名の使用人を呼び付けた。


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