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殺し屋と魔法使いのワルツ 魔法使い編  作者: 青山八十三(やとみ)
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「おぉ〜い……終わったのか〜?」


「バトラさん大丈夫ですか…?」


2人が戦うのを離れた所で見ていたメイアが恐る恐る様子を見に近付いてきた。

ターシャは彼の背に隠れながら顔だけ出して声をかける。


「えぇ、お騒がせしました」


本音を言えば、情報はまだまだ不十分だ。

彼の身体能力だけでなく剣技や魔法もみておきたいし、思考や精神面など知りたい事は沢山ある。


けれどそこまでの時間はないだろう。

眠らせた軍人達がそろそろ目覚める頃だ。


姿を見られるようなヘマはしていないので自分一人なら誤魔化せたのだが、怪しい外国人達と一緒にいたのでは何ともできない。


それと、出来れば彼らも逃がしたい。

今ここで捕まるよりは泳がせて情報を得た方が良いだろう。


考えがまとまったところで意識を三人へと戻すと、バトラが忌々しげに顔を拭っていた。


「ぺっぺっ!クソっ、口の中がジャリジャリするっ!」


派手に転んだ割にはずぶ濡れ泥塗れなだけで怪我はなさそうなので、メイアは安心して笑い飛ばした。


「はははっ!お前ドロドロじゃねぇか!見事にやられたなぁ」


「むっ、やられてません。不慮の事故です」


「手加減されてたじゃねぇか」


「俺だって手加減してました」


「あの、それよりバトラさん身体拭かないと風邪ひきますよ?」


「じゃぁ先に僕の魔法で泥を落としましょうか?全身丸洗いした方が……あ、まずい」


不慮の事故とはいえ半分はシャルルのせいでもある。罪滅ぼしのつもりで申し出たのだが、どうやらもう時間切れのようだ。


「皆さん、逃げた方が良いかもしれませんよ」


「「は?」」


シャルルの僅かに焦ったような声に三人が顔を上げた瞬間、目が合った。


シャルルと、ではない。


見知らぬ男……先程まで寝ていたはずの、シャルルが伸した王国軍人だ。




目覚めた彼は呆けた目でシャルル、メイア、バトラ、ターシャと順に視線をめぐらせ、次いで遺跡、周りに横たわる仲間たちへと一周し、またシャルル達へと戻した。


見知らぬ人。

ここは遺跡。

自分はここを守る軍人。


少し前までの記憶が曖昧だったが、それだけ分かれば十分だ。


「だっ、誰だっ!ここは立ち入り禁止だぞ!」


彼は状況が掴めないながらも、とりあえず職務を全うしようと立ち上がった。


「軍人の鑑ですね」


「おいバトラ、言われてんぞ」


「なぜ俺に言うんです、博士?」


「今のはあからさまな嫌味ですよ、バトラさん。って、そんな事言ってる場合じゃないですよっ!ええっと、あの、私たちはただの通りすがりなんです!やったのはこちらの貴族の方で、私たちは関係ないんです!」


ターシャは必死に弁明を試みたが、通用するはずもない。


「は?学者と帝国の軍人が遺跡にいて『通りすがり』な訳ないだろ!大人しく投降しろ!」


「ほらみろ俺の言った通りだ。すぐバレた。誤魔化せねぇっての」


「博士〜!じゃぁその明晰な頭脳で何とかしてくださいよ〜」


「俺は天才じゃねぇんだよ。経験のない事には弱いんだ」


「なら力づくでいきますか。彼一人なら何とでもなります。仲間を起こされる前にやりましょう」


バトラはドロドロの顔を袖で拭って、やる気満々で剣を構え……られなかった。


「ん?」


掴もうと手を伸ばした先に剣はなかった。

鞘だけが所在なさげに腰にぶら下がっている。


「あぁ、そういえばバトラさんの剣はさっき遺跡の方へ飛んでいきましたね」


「何っ?!まさかぶつかって傷付けたりしてねぇだろうな?!」


シャルルがのんびりと思い出し、メイアが叫び、皆で遺跡の方へ視線を向けた。


剣は遺跡の入口付近に落ちており、バトラは「あぁあんな所にあったのか」と安堵したが、彼だけは剣に気を取られ気付くのが遅れた。


遺跡が発するバチバチという音と青白く小さな無数の光の筋に。



何かが起こっているのにそれが何か分からず、皆で首を傾げたその時、聞いた事のない大きな音が鳴り響いた。


「なっ、何だこの音?!」


「遺跡から鳴ってんのか?!聞いたことねぇぞ、こんな音?!」


「これは…随分と古典的なサイレンですね…遺跡とのギャップすごいなぁ…」


「あ?何だって?兄ちゃん何か知ってんのか?!」


耳を塞ぎながら、メイアは訳知り顔のシャルルに叫ぶように尋ねた。


こんな状況でも知りたがるのは学者の性なのだろう。

けれど今はそんな場合ではない。

周りの寝ていた軍人達が起き出したのだ。


「は、博士っ!今のうちに逃げましょうよ!皆が遺跡に気を取られてるすきに!」


「はぁ?!何言ってんだターシャ!お前それでも助手か!遺跡に何か起こってんだ、こんなチャンス逃す訳にはいかねぇだろ!」


「ええええ?!捕まったら元も子もないですよ!」


メイアとターシャは喚きあっているが、音がうるさ過ぎて2人以外には聞こえていない。


否、それよりも皆遺跡に釘付けになっていて気付いていないという方が正しいかもしれない。


甲高い音に混じりゴゴゴという大きな物が動くような音が地面から響き、青白い小さな稲光もバチバチと音を立てて遺跡の壁を走り回る。


『警告。警告。微弱な衝撃を確認。外部からの攻撃と判断しました。これより防衛プログラムを実行します』


皆が耳を塞ぎ緊迫した顔で見つめる中、遺跡から声が発せられた。女性のようだが、どこか人間味のない硬い声だ。

この場にいた誰もが初めて聞く声で、言っている内容も半分ほどしか分からなかった。


ただ一人、シャルルを除いては。



「ははは…剣がちょっとぶつかったくらいでコレって厳重にも程があるでしょ…」


シャルルは立ち尽くして半笑いで呟いた。

このまま考えるのをやめて逃げたいとまで思ったが、事態は刻々と悪化していく。



ヴォォォォ!!


くぐもった、けれど大きな唸り声が腹の底に響いてきた。


「なっ、なんだ?!」


「今のどこから聞こえた?!」


「狼…いや熊か?!」


「けっ、警戒態勢!」


隊長らしき一人の掛け声で軍人達は折れた剣を拾い、シャルル達を中心に方円の陣形を取った。

息を潜めて周囲の森を警戒するが、獣のような気配も影も見当たらない。


「博士、俺の側を離れないでください」


「お、おう」


「ば、バトラさん私も守ってくださいよぉ〜」


三人は固まってキョロキョロと周囲を見回しているが、シャルルだけは真っ直ぐ視線を遺跡に向けていた。


『拘束、解除。隔壁、開放。コードM、起動します』


再び女性のような声がした。


その意味を理解する前に、足音のような地響きがして、遺跡の入口で爆発が起こった。


遺跡の壁だった土の塊が石礫となりシャルル達に襲いかかる。


「うわっ、なんだ?!痛ってぇ!何か飛んで来…痛っ!いででででで!」


「キャー!!なななな何ですか何ですか?!この世の終わりですかぁぁああ?!」


叫びながら、メイアは頭を抱えてしゃがみ、ターシャは地面に丸まって動けなくなった。


バトラは剣で石を弾いたり身を捻ったりと何とか無傷のようだ。


「バトラっ!お前なに自分だけ避けてんだ!俺を守れ!」


「大丈夫です、死にはしません」


「そうじゃねぇだろ!」


「バトラさん痛いですよぉ!助けてくださいぃ」


喚く3人を無視し、軍人達も各々回避行動を取る。


「おい、さっきの水のバリアみたいなやつ!」


「いえ、その必要はないと思います」


バトラの要求に、シャルルは遺跡から目を逸らさないまま答えた。

その顔はこれから何が起こるのか知っているかのようで、得体の知れないもののように不気味に見えた。




シャルルの言葉通り、バリアは必要なくなったようだ。


甲高い音も地面から響いていた音も止み、飛散する石礫も次第に収まってきた。


皆おそるおそる顔を上げて遺跡の入口に注視するも、土煙と砂埃で何も見えない。


一瞬だけ、静寂が訪れた。


けれどすぐに


ヴォォォォ!!!


と先程と同じ唸り声が、一際大きくすぐ近くで聞こえ、再び大きな音を立てて遺跡の半分ほどがガラガラと崩れ落ちる。


その衝撃でまた飛んできた小さな礫と砂埃に皆目を閉じ顔を背けた。


「今度はなんだっ?!」


「あああ遺跡がぁぁ!崩れたよな?!今盛大に崩れたよな?!誰か何とかしてくれぇ!!」


「博士っ!もう諦めましょうよ!命の方が大事ですよぉ」


半狂乱で遺跡に突撃しようとするメイアをターシャが服を掴んで止めようとするが、やはり力不足だ。

見かねた軍人達が「危ないから近付くな」と三人がかりでおさえる。


彼らを視界の端で捉えたまま、バトラは息を飲んだ。


「まさか…あの声、遺跡からか…?」


それを聞いた軍人達も同じように息を飲み「まさか」と呟く。


「おいおい、聞いてないぞ、そんな話…」


「遺跡の中に化け物でもいるってのか?」


信じられない、否、信じたくないと思いながらも、それが正解なのだと誰もが確信していた。


メイアは抑えられたまま顔だけシャルルに向けて叫んだ。


「おい兄ちゃん!なんか知ってるんだろ?!」


「…詮索は後にしてもらえますか?皆さん気を付けて!出てきますよ!」


「出てくるって何が……っ?!」


皆が注意深く見詰める中、土煙の向こう、遺跡の入口に薄らと見えてきたのは人の身長も身幅も遥かに超えた大きな影だった。


「何だあのデカさは…!」


「マジかよ…あんな生き物がいるなんて…」


軍人達は構えるのも忘れて呆然と立ち尽くした。

ターシャもメイアも彼をおさえていた軍人達も影を凝視したまま固まった。

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