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殺し屋と魔法使いのワルツ 魔法使い編  作者: 青山八十三(やとみ)
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search & seek 3

翌日、フロウは日の出と共に起床した。


カーテンを少し開けて窓の外を見ると、昨夜とは一変、だだっ広い平野が一面に広がっていた。


どうやら王都を抜けたらしい。


御者には「南へ」としか伝えていないのでそろそろ明確な目的地を告げねば…と、少し早いが目の前でスゥスゥ寝こけているルーシェを起こすことにした。


「ルーシェ、起きて。朝だよ」


「ん〜あと1じかぁん」


「いや1時間もしたら街に着いちゃうよ」


「い〜よぉ」


「うん、いいんだけどさ、そこからはどうするの?降りるの?それとももっと南に行く?」


「んぁぅ」


フロウが出来るだけ優しく声をかけると何とも曖昧な答えが返ってきた。


相変わらず寝起きが悪い。


「いやどっち?!降りるの?!進むの?!」


「んんんぁい〜にゃうりゃりゃりょぅやぁう〜」


「ダメだ…全然分からん」


フロウはため息混じりに呟いて御者に次の街で降りる旨を告げる。


先に進むのならまた別の辻馬車を探せば良いだけだ。



そして30分後


「んん〜〜久しぶりのお外は気持ちい〜ぃねぇ〜」


馬車から降りて思い切り気持ち良さそうにルーシェは伸びをした。


一方フロウはなかなか起きないお子様に手こずり疲れ気味だ。


「そりゃ良かったね。で、ここからどうするの?あと昨日の話の続きも聞きたいんだけど」


「とりあえず〜泊まる所を探して〜遺跡のお話聞かなきゃだよね。あ!お宿みっけ!」


先程までのグズり具合は何だったのか、ルーシェは元気よく走り出した。


振り回されるのは前からだが、このところ主導権を握られっぱなしなのは如何なものか。


などと思わなくもないが、実際こういった状況に強いのはフロウではなくルーシェの方だ。


限りなく「お子ちゃま」なのは確かだが、任務を任されるだけの素養はある。


経験もフロウより断然あるだろう。


もう本当に彼が兄で良いんじゃないか、と思い始めた所でタイミング良く(悪く?)ルーシェが転んで半べそをかきはじめたので慌てて駆け寄るのだった。




2人が降りたのはアラマダという特にこれといった特徴のない小さな町だ。


王都に近いため客はめったに来ないらしく、宿屋は一軒だけだった。


「おや、アンタたち王立大の学生さんかね?若いのに大したもんだねぇ。えーと、フロウ・ディノアさんにルーシェ・ディノアさん…兄弟かい?」


宿屋の女将は学生証を検めてから2人を交互に見つめた。


顔形は全く似てないが同じ赤髪というだけで兄弟だと言い張れるのは便利だ。


「うん!ボクがルーシェであっちがお兄ちゃんのフロウだよ。よろしくね!」


「あぁ、よろしく。同じ部屋で良いかい?」


「うん!あ、ご飯付けてね。朝と夜。お昼は外で食べるからいらないよ」


「はいよ。何泊だい?」


「ん〜、未定!用事が済んだら帰るつもりだけど、まだ分かんないや」


「そうかい。まぁ他に客なんてこないし好きなだけいると良いさ」


「うん!ありがとぉ」


フロウの意見を聞くこともなく、ルーシェはどんどん話を進めていった。


別に特に反対する理由も意見もないから止めはしないが、若干居心地が悪い。


もう少し兄らしくした方が良いのだろうか、などと考えている内に別の話題になっていた。



「ボクたち遺跡の研究してるんだけどぉ、おばさん何か知らな〜い?この辺りにあるって聞いてきたんだけど見つからなくて」


「遺跡?この辺にそんなのあったかねぇ…」


宿屋の女将は首を傾げた。


遺跡なんて興味がない人からすればただの古い建物だろう。

言われなければ気付かないのかもしれない。


ルーシェは地図を取り出して見せた。


古代のものなので今とは多少違うかもしれないが、大まかな地形などは変わっていないはずだ。


「んっとね、ここが今いる所でぇ、この山についてる印が遺跡なんじゃないかって博士が言ってた」


「あぁアネモネ山だね。遺跡なんて大層なモンはなかったと思うけど」


「じゃぁその山は何か噂とかある?伝説とか言い伝えとか」


「言い伝え?あぁ、それなら洞窟があるよ。奥に行くと異世界に通じてるだとかって昔から言われててね。この町の子供らは皆そこへ探検に行くのさ。アタシも昔行ったよ。肝試しなんかもしたっけ」


「異世界?!へぇぇ!面白そう!ねぇお兄ちゃん、後で行ってみようよぉ」


「え?あ、うん。そう、だね」


恐らくその洞窟が探している遺跡だろう。


まさかこんなにトントンと話が進むとは思わなかった。


学生証があるだけでこんなに楽だとは。


「なんだい、遺跡調査じゃないのかい?学生さんって言っても子供だねぇ」


「えっへへ、ちょっとくらい遊びたいんだもん」


女将はその洞窟を遺跡とは思っていないのだろう。


ルーシェもあえて訂正はしなかった。



案内された部屋に入り荷解きをしながら、フロウは昨夜からの疑問を改めて尋ねた。



「で、バレてるってのはどういう事?不法入国の件は、まぁ分かるよ。あんな下宿屋に1ヶ月も外国人がいたら怪しいし、この学生証だって大学に問い合わせればすぐに偽装だって分かる事だからね。でも遺跡が目的っていうのはバレる要素がないと思うんだけど?」


簡単にバレる偽装しかしていないので普段から気をつけて生活していたはずだ。


「遺跡」という言葉もなるべく使わないようにしていたし、そういった話をする時は最大限警戒して下宿屋の部屋の奥で、それも小声でしか話していない。


それにあの飲み屋街では結局遺跡を発見するに至っていないのだ。


近づいてすらないのにバレようがない。


「どうしてバレたのかはボクにも分からないよぉ。だってあんなに気をつけていたんだもの。でもバレたのは確実だと思ぅ」


「そう思う根拠は?」


「あのね、フロウはあの噴水覚えてる?」


「当たり前でしょ。あんな事そうそうないって。しかもそのせいで王国軍が来てあそこにいられなくなっちゃったんだし」


「そう、それ!ボクね、考えてみたんだけどぉ。あれのせいでボクたちはあそこにいられなくなったってことはさ、つま〜り、あれはボクたちを遠ざけるために仕組まれたってことじゃない?あそこを守るために噴水騒ぎを起こしたんだよ、きっと」


ルーシェは人差し指を立ててドヤ顔をした。


けれど話が突飛すぎてフロウはすぐには納得できない。


「そんなまさか…」


「違うって言いきれる?」


「いや、だって…あんなことしたら守るはずの遺跡が壊れちゃうかもしれないでしょ?」


「ん〜ん。それは大丈夫だと思う。ボクたちあそこを1ヶ月も探してたんだよ?絶対にあるはずなのに、ぜんっぜん見つからなかった。ってことは、魔法で厳重に守られてるんだよ。あれくらいビクともしないんじゃないかな」


その可能性はフロウも考えた。


あの狭い飲み屋街で、遺跡みたいな大きなものが隠せるはずがない。


というか、古代遺跡のある場所が飲み屋街になんてならないだろう。


住民達も知らなかったのかもしれない。


それほど巧妙に隠されていたとしたら、それは魔法でしか有り得ない。




「一応筋は通ってる…か」


「でしょ〜?それにさ、フロウも何か異変を感じたから逃げたんでしょ?」


「あぁ。それに、あの青髪の貴族…あっ!」


「そ〜う!あの人!たぶんあの貴族の方が噴水の犯人だよぉ」


「青髪、つまり水の魔法使いか!」


「だよねぇ!ボクもそう思う〜」



水の魔法使い=青髪・青眼、というのはこの世界での常識だ。


魔法使いは魔法の源であるマナを生まれつき体内に宿しており、彼らはそれを利用して魔法を使う。


マナにはいくつか属性があり、それぞれ保有している属性によって使える魔法が違ってくる。


水のマナを体内に持つ者は水の魔法使い、火のマナを持っている者は火の魔法使い、といった具合だ。


詳細はまだ研究中であるが、体内のマナの何らかの要素が髪や瞳の色素として現れていると言われている。


白銀のリリサや桃色のウィンディア姉妹など、珍しい色の例外はあるが、赤は火、青は水、白金は風、金は光の属性というのが定説だ。


つまり大噴水が起こった現場に青髪の人物がいたとなれば、それが犯人と考えるのは必須だろう。


特にあれほどの大規模な魔法となれば平民ではなく貴族の可能性が高い。


貴族は元々その魔法力の高さゆえの特権階級なのだ。


平民にあの魔法はほぼ無理だろう。



「やっぱりフロウの言った通り、ボクたちの邪魔をしに来た貴族さんだったんだねぇ。フロウのそういう感の良さってホントすっごいよね〜。うらやましぃ〜」


「そう?」


気にしたことはないけれど、褒められて悪い気はしない。


何となく照れくさくなって話題を変えようと


「そ、そろそろ出かけようか。荷解き終わった?」


と尋ねながら立ち上がってみると、そこにはまたあの下宿屋のような散乱した玩具があった。


「…なにこれ?」


「だぁから、おもちゃだってばぁ。んねぇねぇ、このお人形さん窓辺が良いかな?ホントはベッドが良いんだけどぉ、犬さんを置いたら狭くなっちゃったんだよねぇ。あ、テーブルはダメだよ?そこはボードゲームする所だからね。あとトランプは引き出しで良いよね。それからこっちの笛と〜アヒルさんは枕元〜。それとぉ…」


「…昨日、僕に『何しに来たか分かってる?』って聞いたよね?!そっくりそのまま返すよ!」


「えぇ?!どぅしたのさ急に?なんで怒ってるの?」


「おもちゃ、必要ないよね?!」


「必要だよぉ!ないとボクの子供心が死んじゃう!ボクはお子様だもん!」


「こういう時ばっか子供のフリして!」


「フリってなぁにさ!ボクはいつもいつでも子供です!」


「はぁぁ?!この二重人格!」


「えっ何それ褒めてるの?!」


「褒めてるわけないでしょ!!もう面倒くさい!さっさと行くよ!」


「えぇ?!ちょっと待ってよぉ!」


フロウはコメカミに青筋を立てて舌打ちをし、そのまま部屋を出ていった。


ルーシェはフロウの背中と足元の玩具達を交互にみてから半泣きで追いかけた。

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