第三幕 大内裏《だいだいり》・飛香舎《ひぎょうしゃ》(昼)
女房1、女房2、女房3が歩いてくる。御簾の向こうに中宮が座っている。
女房1 「ちょっと聞いた? 安倍晴明がまた妖を退治したらしいわよ」
女房2 「知ってる知ってる。華麗に現れて村人を助けたって!」
女房3 「ああ……安倍晴明様。もう一度お目にかかりたいわ」
女房1 「やめときなさいって。安倍晴明は狐に育てられたっていう噂知らないの? それに、あんな冷血漢のどこが良いのよ」
女房2 「あら、女だとみたら見境ない男よりよっぽど素敵じゃない」
女房3 「そうそう。甘いだけの言葉は聞き飽きたわ」
中宮 「お前たち、安倍晴明とはそんなに優秀な陰陽師なのですか?」
女房1 「中宮様! すみません。無駄話などをしてしまい……」
女房1〜3が、その場で膝をついて中宮に頭を下げる。
中宮 「それは不問といたしましょう。それより、安倍晴明の話を聞かせなさい」
女房1 「はい。安倍晴明は都の民に大層人気がある陰陽師でして、天皇陛下も最近は安倍晴明のお話を左大臣様によくお聞きになっていると聞いております」
中宮 「帝が、ですか?」
女房2 「はい。英雄譚として楽しそうにしていらっしゃるのをよくお見かけいたします」
中宮 「そうですか……。帝が、安倍晴明の話を……」
芦屋道満が登場する。
道満 「けっ、どいつもこいつも晴明、晴明。俺の方が優秀で、格好良くて、すごい陰陽師なのにっ!」
女房1 「これは、道満様!」
晴明が後を追うように登場する。
晴明 「術の優秀さは認めるが、その性格をなんとかしたほうが良いと思うぞ」
女房2・3「晴明様っ!?」
道満 「……なんでお前がここにいるんだよ」
晴明 「お前と同じ理由だ」
道満 「政には俺だけいれば良いだろ。お前は家に帰って昼寝でもしておけ」
晴明 「そうしたいのは山々だが、帝から呼ばれているのだ。参じないわけにはいくまい」
道満 「はぁ……。おい、そこの女房。俺の方が優れてるだろ? そうだと言え」
女房2 「は? あの……その……」
女房1 「道満様の方が陰陽師として優秀でございます」
道満 「はっはっは! そうだろうそうだろう」
捌ける道満。
晴明 「女房殿、付き合わせてすまないな。中宮様も、大変失礼いたしました」
晴明が中宮に向かって頭を下げ、捌ける。
女房1が頭を下げる。
女房2、3も頭を下げる。
中宮 「あれが、安倍晴明……」