第十九幕 内裏・紫宸殿(昼)
村上天皇が御簾の向こう側、上手側に左大臣、正面に晴明と道満が座っている。
左大臣 「二人ともよく参った。右大臣殿は臥せっておられるが、今後の都について早急に話をしなければならないため、このまま進めさせてもらうぞ」
村上天皇「今日は、お主たち二人に頼みがあって呼んだのだ」
晴明 「頼みごとでございますか?」
道満 「死者の蘇生は無理ですよ」
村上天皇「分かっている。私が頼みたいのは、中宮をあのような目に遭わせた妖の親玉、大妖怪閻魔……と申したな。奴を滅して欲しいのだ。早急に」
晴明 「すぐに、ですか」
左大臣 「帝のお心を思えば当然のこと」
村上天皇「うむ。死んだ者は蘇らない。そもそも、もしそのような術があったとするならば、あの時お主たちは中宮に術を施したのではないか?」
道満 「どうでしょうね。たとえ本当に死者蘇生の術があったとしても、その術を行った対価というのがどれほどなのか想像もつかない。術者の命と引き換えに、とかだったら笑えませんよ。そうだろ、晴明」
晴明 「……確かに、そのような術があったとしても世の理を曲げる行いであることに間違いはありません。そのようなことはやめた方がよろしいかと……」
村上天皇「まるで私がやれと命じているような言い分だな。二人してそのような事を申すとは……。私は随分と信用がないものだな」
晴明 「いえ、決してそのような意味で申し上げたわけでは……」
村上天皇「……もう良い。私は駄目な天皇なのだろう。中宮を守れず、民すら守れず。こんな無様な天皇など、先帝に申し訳ない上に、歴史では大いに笑われることになるだろう」
左大臣 「帝、そのように後ろ向きな発言をするとは、少しお疲れなのでしょう。中宮がお亡くなりになってからも働いてばかりでありませんか。今日はもうお休みになられてはいかがですか? ということだ、お前たち。帝の心労を軽くするためにも早急に妖を駆逐するのだ」
村上天皇「そうだな。私は疲れているのかもな。お主たち、私を笑い者にしたくなければさっさと閻魔を滅し、都の妖を一匹残らず滅してこい」
道満 「承知しました」
晴明 「帝の心労を少しでも軽減できるよう、尽力させていただきます」
道満と晴明が捌ける。