第十三幕 妖の森・石碑の前(夜)
晴明が石碑の前に座っている。
晴明 「結界に綻びが出ている。冥府の門ができてしまったら、閻魔が簡単に冥府からこっちに来てしまえるくらいの綻びだ。今の私では、それを直せるだけの力はない。所詮、私の力はまやかしでしかないということなのだ」
道満が静かに登場する。
晴明 「自分の存在に迷いが出たとき、いつも話を聞いてもらってすまない。これは、どれだけ年月が過ぎようとも辞められそうにないな」
道満 「こんなところに居やがった……。全く、手間をかけさせてくれる。しかし、あの石はなんだ? なにやら話しかけているように見えるが、誰かの墓か? いや、今はそんなくだらない考察をしている場合じゃない」
道満が晴明に近づく。
道満 「故人か?」
晴明 「道満!? お前、いつからそこに? 今の話、聞いていたか?」
道満 「弱音をぐちぐち言ってたな。民や帝はお前のことを優しいやつだって話しているようだが、気弱でヘタレなだけじゃないか。こんなやつより俺が劣ってるだと? 世間は全くもって見る目がないな」
晴明 「そう、だな。私は弱い」
道満 「喧嘩売ってるのか?」
晴明 「そうではない。力の話ではなく、心の話だ」
道満 「それはそれで腹が立つ……」
晴明 「それで、なぜこんな場所にお前がいる。トカゲには会わなかったのか?」
道満 「トカゲ? ああ、お前の式か。会ったことには会ったけど、訳の分からないこと言ってどっか行ったぞ」
晴明 「フラフラとすぐいなくなるのは相変わらずか。で、お前の用はなんだ」
晴明が道満に近づく。
道満 「そうだったな…………」
晴明 「どうした?」
道満 「……こんなことをお前に頼むのはすごく不愉快だ。でも、俺じゃ手に負えない事態になった。お前の……お前のだな、力を……貸して欲しい」
晴明 「どういうことだ」
道満 「閻魔と対峙したとき、妖を一匹逃がしただろ? そいつが、中宮に憑いた」
晴明 「中宮様に?!」
道満 「俺の力でどうにかしようとしたんだが、元来祓魔は苦痛を伴う。中宮の苦しがりようを見た帝が耐えられなくなって、途中で術を弾かれたんだ」
晴明 「術の再開は無理だったか……」
道満 「だから、弱虫ヘタレのお前でも、認めたくないが俺よりちょっとだけ、ほんのちょっとだけ術は上手いからな。仕方なく……そうだ。帝に頼まれて仕方なく頼みに来てやったんだ。というか、元はと言えば奴を逃がそうとしたお前の甘さが原因だろ。なんで俺がこんなことしなきゃいけないんだよ」
晴明 「そうだな。私の甘さが原因だ」
道満 「ざまあみろ、と言いたいが。ここで落ち込んでいる暇はない。飛香舎に急ぐぞ!」
晴明 「ああ」
道満と晴明、急足で捌ける。