オンに災難オフにも災難
文字だけの実況は何度かしたことはある。だが声の良さ、キャラ性能で売れた自分にとってはあの苦痛な日々を思い返したくはない。
1本のゲーム、プレイに1時間掛けたなら編集は5時間近くかかるだろう。それを見やすくそして不必要を省き忙しい人や電車で少しの間見れるようになど工夫をしていたあの時。投稿するタイミングを細かく見て、それでも軌道に乗れないなんであの日々。
「あぁ、思い出しただけでムカつく。サブ声の璃花落ちゆさんに頼むか」
サブ声、自分がそう呼んでいるだけだが。簡単に言うと声出しをしたくない人用に声あてをしてくれる人だ。本イコール円の人もいれば分、字数、オプションなど色々あるが自分にはツテがある。自分が風邪になって文字実況をしていた時に声質が似てるので代わりにやりましょうか?と。しかも無料で。
彼女は有名どこで雑学語り部さん、中堅ではシュメール人主観さんなどの声をしていた。そんな彼女と無料で声借りの繋がりを得たのだ。最近は使ってなかったが頼ってみてもと思いDMを開く。平時はアニメや声借りで様々な実況者に触れたからではの話をしていた為、話しやすい。ちょうど向こうから来た。
「昨日の配信見ましたよ♪何か異常事態でもありましたか?あれでしたらまた声貸ししますよ」
と、辺鄙なカッパのキャラスタンプを添えて。
「ありがとうございます'='実は機材の調子が悪いのか数字しか拾わなくて実況の声だけ頼もうと思ってた所です」
「やっぱ?昨日ずっとモゴモゴした後にずっと録音音声みたいな声出てたから。でもてっきり声出せなくて録音音声で配信してるのかと思いましたよ(☆с☆)V」
「似た感じかなー。また頼むよーごめんね;-;」
「いいのいいの、困った時はお互い様でしょ!」
動画の文字入れしたデータを送信しまた編集に入る。
そんな日々を1週間と過ごした。その間に離れる人は居るも何かあったのでは?と近寄る人も増えた。
使える言葉は16個増えた。あんまり使えない物ばかりだがないよりはマシなのだろう。
5.あー!ダメダメ……ここは無理だよ 6.私は結構好きなんだよねー 7.飛べましゅから! 8.スパイドックが毎回噛むと思うなよ 9.秘密だよ 10.わぁぁ?!やっぱホラーじゃん! 11.ここ怪しいよね 12.私に解けないパズルはない 13.かわいいー 14.んーと、わっかんない! 15.休憩休憩!私には無理だー 16.おっわっと!地雷だよ! 17.計画的犯行とは計画するものさ 18.投げ銭って言うけど今円だよね 19.純愛を私が崩す 20.ご飯忘れてた!
「はぁー今日はやるか……昨日編集に追われてたから。使える言葉的にギャルゲーかな」
PCを立ち上げ機材チェックをし配信待機場画面を確認してからソフトを購入する。この手のゲームは古くて安いのが安牌だ。下手に最新のものをやるとネタバレになるから。
チャット欄は『期待』で埋まっている。待機してるのではなく期待しているのだ。彼らは自分が何をしでかすのかを。
「それでは始めます!」
あと3日くらい前に気付いたが制限されてない言葉に関してはわざわざ数字を選ばなくても言えるようだ。
チャット欄は『愛と恋とLoveとlikeのハートって親の世代のじゃんw』『絵古っ』『スパイドック恋とかしないだろ』とタイトルだけで盛り上がりを見せていた。
「えっと、どうしようか……とりあえず無言で開始でと」
物語が始まる。今回選んだ作品はフルボイスだから読み上げる必要は無い。
主人公:いってぇーな!前見ろよ。ってお前……足怪我してんじゃねーか。 1.絆創膏を渡す 2.ハンカチで覆う
「んー、普通なら2かな」「そうだよねー」
「しまった……普通にいつもの感覚でやってた……数字ダメじゃないか」
『突然の皇帝!w』『今回は支離滅裂シリーズです』
2を選ぶと話が学校へと飛んだ。ありきたりな転校生。朝ぶつかった女の子である。
女の子:あなたは!今朝の
主人公:ハンカチなら返さなくていいぞ。別に減るもんじゃねぇーし
女の子:手が拭けなくなるでしょ?
主人公:服で拭けばいいさ
女の子:ふふ、面白いね
主人公:いや?!ギャグじゃなくてほら!
『スパイドック恋愛とか向かないだろ』『確かに』
「んだどぉ!6!」「私は結構好きなんだよねー」
『意外と乙女だった?!w』『いや、意外と侍従関係な恋愛かも』『それな、犬だし』
「これは……純愛を私が崩す!」
『吹いたわお茶代返せよ』『いやむしろお茶代あげてつかえろ¥120』『だから恋愛ゲーム全部バットエンド迎えるのか』
散々に言われるが早々に対応をやめて話を進めていく。
女の子:じゃ、じゃぁさ……ハンカチのお礼じゃないけど私とお出掛けしてくれない?
主人公:1.いいよ 2.そこまでしなくても 3.嫌だ
『スパイドックなら3だよなぁ』『スパド行け!』『突っ込め!』
「あー、ダメダメここは無理だよ」
『逃げたな。1はつまらん』『冒険をしてこそだろ』
主人公:いいよ、日付けは決めてるのか?
女の子:今週の土曜日駅前のショップでどう?
主人公:あぁ、楽しみにしてるよ
「ふぅー、ってまだデート行ってないのに1時間?!話してなくても時間はすぎるもんなんだね」
『ここ確か好感度によって分岐するイベント』『土曜までにあげないと』
みんなが攻略情報をチャット欄に流していく。好感度を確認すると68/100だった。その画面を見たみんなが驚愕を述べる。
『え?デートフラグ立つのって70くらいだったよな』『あと2日で20は無理ゲーだろ』『あそこで嫌だ選ぶべきだったろ絶対』
「なんだと……私的にはいい線言ってたはずなのに」
『予想すると。女の子のラブレター騒動で女の子がこっそり主人公に入れたラブレターに対して誰か知らないけどゴミ入れんなよって選択肢が不味かった』
解析班による解析が終わる。そこはみんなが選べと言った所だった。
『チョロ犬w』『駄犬おつ』
「いや、みんなが選んでって言ったんだよ?!ここは、19!!」「純愛を私が崩す 」
『うわっクズいわ』『バカキャラ忘れてんぞ』『崩すどころか成立すらしてないだろ』『凄いことにあの選択肢を選んだユーザーは今まで1人らしい』
「別の意味ですごいやつになってしまった……」
#人類未踏の改築者 #不恋愛脳 でSNSは伸びていた。
「なるべく使いやすい言葉が欲しいんだけどな……チャット欄見てると使えないのばっか……っても私が選ぶ訳じゃないけど」
チャット欄は終始完結ふざけている。いつもどうりではあるが、こういう時は憎らしくも思える。結局今回の配信では終わり切らなかった。
「ご飯忘れてた!」
突然のご飯の時間アピールでデートに行けるか行けないかの選択肢をあやふやにし配信を終えた。
#親フラ #彼氏疑惑 #2だろ のトレンドを得て3大SNSを総ナメしていたが腑に落ちない。そうだ、と家を出る。何となく外に出たくなっただけだ。ご飯の時間と言って切り上げたが時刻は20時過ぎ。もそもそと服をパジャマから半袖半ズボンに着替えカバンとスマホを手に持ち家を出る。夏の余韻を残す秋の仄かな温かさが妙に纏わり付く20時、家の外は無音が広がる。誰が通るでもなく、聞こえるのは微かなタイヤのゴムをすり減らす音くらいであろう。
「あぢぃー……ファミレスでも行こうかな。あーでもお店で編集はできないしなぁ……いや、いっそたまには動画の事を忘れてみよっかな」
そもそもノートを持ち出してないしと踏ん切りを付けファミレスへ足を運ぶ。歩き慣れているが久しい道筋は僅かに点滅をする街灯のみが照らしまるで人気を感じさせない。
「20時でこの暗さかー、日暮れも早いね」
睡眠サイクルだけでなく肌で感じる季節の移目を堪能しながら星の無い都会の空を寂しげに眺める。
「星の一つでも見えればロマンチックなんだけどねーって!ロマンチックも何も一緒に見る人居ないよ?!」
空に語りかけながら街を歩く。こうやって1人で喋る癖は配信のせいだろう。1日多くて8時間近くも1人で語っていればそうもなるだろう。
ファミレス20時半を回る頃と言うのに学生服で溢れていた。学生服を纏ってないだけで自分も学生なのを忘れて悲観していると店員が客の気配に気付いたのか奥からやってくる。
「お席へご案内致しますね」
人の顔を一瞥するなり席へ案内するとは。なんて思ったがスパイスドロップキックと書かれたファンイベ限定の服にブルーライトカットメガネに片手スマホで半ズボンの自分が1人でなく、タバコを吸うとは考えれなかったのだろう。
「お決まりでしたらこちらのタブレットから注文確定をお願いします」
ちょっと来ないうちにここも電子化したのかと感心しつつメニューを開ける。海鮮丼とドリンクバーを注文確定してドリンクを注ぎに出る。俗称勇者と呼ばれる遊びをしているJKがこちらを見て近付いて来るのがわかった。
「えっと、コーヒーコーヒー」
怖かったので別人を装うかのようにコーヒーのレバーをコップで押すが遅かった。というより席に引き返そうが何をしようが捕まるのはわかってただろうに。
「あんた空雨じゃね」
「ほんとだ……元気そうだね」
実穗野秋風と油戸水流だ。1年の時同じクラスだった2人。当時とは随分と変わっていた。秋風は中学まで番をしていたのもあって高校の初めは荒れていたイメージだが高3となった今では眼鏡をかけ髪を伸ばしている。水流の方は3人の中で1番身長が低く大人しめだったが、身長は最長で髪を金に染めオラオラ感を出している。
「随分と変わったから分からなかったよ」
店員に2人が話して席が同じになった。嫌だな。あんなことがあったあとだしと思いつつもなんだかんだ見た目変われど中変わらず状態の二人を見て断ることは出来なかった。
「心配かけんなよっ空雨!私らがどんなけ悲しんだか分かるのか!」
「そうだよ……心配した。かなり、電話も繋がらなかったし。でもここでなら思い出の場所でならまた逢えると思って」
それもそう。あの日、スマホはゲームデータのバックアップを取ってリセットしたから。あの件をきっかけに辞めれるならと思った。それに後悔はない。
「それは、あの帰り熾烈を窮めたじゃん?その時に携帯やられちゃって」
「じゃーなんで学校辞めたんだよ!アイツなんかの……あの裏切り者なんかのケツ持ちなんてする必要無かったろ!」
「仕方ないよ。下のミスは上のミス、それに私はあそこで辞めなければ元の道には戻れなかったと思うから」
「でも結局向こうから恨まれただけ……」
「安心して、ここ数ヶ月は多分外に出てないし」
「そういうことじゃない!そういう所があんたのいけないところだよ!危機感を持て!」
「待って、わかった。でも服は掴むなよ」
「悪かった……ってそれスパイスドロップキックのオフイベント限定衣装じゃん?!」
「あ、うん。そうだけど」
思わぬ方向に話がズレて少しホッとした。正直このまま話を続ければ忘れ去ろうとしている胸糞悪いあの日を鮮明に思い出してしまうから。
「春風は空雨居なくなってからなんか気が抜けてずっとボーってしてた……だけどある日クラスで流行ってたスパイスドロップキックの声を聞いてから元の調子に戻った」
「説明どうも。私イベント出たんだよねー」
「え?!だから危ないって!」
とんだ地雷が。中々話しづらいと感じた。
「落ち着け。だから服掴むな。サイズあるか知らないけど何枚か余分に貰ったのあるけど要る?」
「まじ?!空雨が今着てるやつ洗わずにとりあえず頂戴!家に行くからそこで着替えてくれれば」
「お、おい水流!春風を止めろって」
「ん、春風……良い子にしないとスマホ貸さないよ」
「むぅ……悪かった……でも家には入れてくれよ?」
「あ、あぁ……」
「春風は悪さして家を追い出された。あとスマホも没収された。だから私が見せないと動画とかも見れない」
「なんと悲劇な……」
「パパもママも水流の家に事情を話してそのまま」
「わかったわかった。でも私が海鮮丼食べ終わったらな」
懐かしい一時を過ごした。最初に警戒した事を話して笑いあったりした。今日という日は最高の思い出になった。