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ナロウシュ・ナーロッパのメイドさん

今回はまあ和めばいい

「ナロウシュ様、お紅茶が入りましたよ」

「わーい」

 ヴィンターラ・ヴィナムネ、ナーロッパ領で働くメイドさんであるが、大体、メイドさんと言っても日本だと給仕とか侍女とかの意味合いでなくもっと深い意味が込められているらしいのであるが、ヴィンターラ・ヴィナムネ嬢もまたなんというかただのメイドさんではない。

「さて、ナロウシュ様がお紅茶を飲んでる間に、世界を片付けないといけませんね」

 考えたことはなかっただろうか? この世界を作ってる超越至極上等なナロウシュ様とかそのナロウシュ様を作った作家様とかそういう色んな人がいるけど、大体のものの後片付けに働いているのがヴィンターラ・ヴィナムネさんっていうメイドさんっていう話だよ。

「一説の話によるとこの世界は神々がティーパーティーをしてる間に作ったとあります、もちろんそんなはずはないのですけどね」ギクッ

「ちなみに私の掃除力は53万です」

よくありますよね、自分の能力を数値化しても比較対象がないからあんまり意味をなさないことって、でもってとりあえず単語に力をつければ成立するとか思っちゃうのもありますね。

「まず立ち上げられた世界創生プロジェクトの一つを始末しますね、世界崩壊」

ヴィンターラ・ヴィナムネ嬢がそう唱えて、ナロウシュ様の玩具で溢れてるナロウシュ部屋に手を触れるとたちまちに散らかったオモチャとかエロ本とかが灰になっていくよ、世界崩壊モードのヴィンターラ・ヴィナムネさんが触ると灰になっちゃうんだ、え、部屋は灰にならないのかって? 空間術式なので空間を構成している一単位である部屋というものは対象外なんだ、部屋という空間に存在する自分以外の物質、要するにナロウシュ様が現実逃避してた異世界が壊れて灰になったくらいの事だよ。

「さあ、灰は暖炉にしまいましょうね」

散り散りになった異世界ハーレムとチート設定が暖炉の中に吸い込まれていく、この光景を見て、ああ、暖炉がある家っていいな、ファンタジーってロマンチックだなと思える君は少し警戒心を取り戻して欲しい感じがあるよ。

「さあてあとは家具調度品を召喚してと」

異世界から転生したり転移したりが出来るなら、大体のものは召喚出来ると思うし、そういう具合で努力をしないで生きていけたらいいよね、現代なんてある意味魔法みたいに注文した商品がしばらくしたら届くって具合だから驚きがあって楽しいよね。

「完成、さあナロウシュ様の給仕をしなくっちゃね、はい」

「ヴィンターラ、どこにいってたの? てっきり紅茶を自分でティーカップに注がなくちゃいけないのかと思ったぐらいだったよ」

「あらあらナロウシュ様、お片付けをサボったのはナロウシュ様でしょうに、さあお紅茶ですよ」

「わーい紅茶はダージリンとか色々銘柄があるけどやっぱり神戸紅茶に限るよね、美味しいね」

お菓子も美味しいね、紅茶にスコーンとジャムとかあったら生クリームもつけたりして、バターもいいね、時々、マカロンとか楽しいし何故か野菜のスティックと、セロリにピーナッツバターつけて食べるのもいいよね、でもやっぱりベリーのジャムが最高だね。

「午後の紅茶最高だね、ってヴィンターラ!? 僕の最高傑作を片付けてしまったの!?」

「当然でしょう? エッチなイラストのイラストレーターさんに頼んで作った異世界のお人形さんたちも、きちんとした場所にしまわないから焚書されてしまうんですよ」

「ひどい、これからその世界で俺ツエーする予定だったのに」

「ナロウシュ様は俺ツエーなんてしなくても、この世界が、そして私がいるのですから、何の心配もないでしょうに、どうして未だに異世界にこだわるのですか?」

「ヴィンターラ・ヴィナムネ、それはね作家さんは異世界を作り続けなければ仕事を取り上げられてしまって絶筆になる、つまり一度、小説家になろうとしたら永遠に異世界をワールドクリエイションし続けなければならない運命なんだよ」

「そんな運命にこだわるからナロウシュ様達はトラックにひかれてしまうし、いつまでたっても日本人はブラック企業で勤務して現実を変えられないままなんですよ」

「ヴィンターラ、日本でまともに暮らしたことも無いのに、社会風刺とか批判とかすると炎上するよ?」

「まあ? 私の心中の炎はどのような炎でも消すことが出来ませんよ?」

「あはは、炎が炎を消すってどういうジョークなんだろう、クラッカーおいしい」

「でもいい加減、マスコミという名の神々にも飽き飽きしてまいりましたね、ナロウシュ様たちに悪影響を与えるコンテンツを配給するとか、変に作家志望の若者を増やしてしまえばますます人々のまともな野心が阻害されて社会が困窮するに決まっていますわ」

「そんなこと言うものじゃないよ、マスコミは小説家になろうとしてる人のスポンサーなんだから、敵にまわしたら二度とメディアミックスなんて出来ないよ」

「メディアミックスなどするから並のナロウシュ様方が混乱する原因が出来るのですよ、一人一冊くらいが個人の日記や妄想をまとめるのには良いところ、それを無理にシリーズ化、コミックス化、TVアニメ化してソフト化して、その結果がどうですか? ナロウシュ様の粗製乱造、行きつく先は古本市場のワゴンセール、付き合わされるヴィンターラの身にもなってください」

 改めてヴィンターラの身になって考えてみよう、褐色の肌を持つ西方浄土の黒髪乙女メイドさんですが、そんな額に赤い点のある女の人が逐一、書店員さんと一緒に長ったらしいタイトルとあるいは性癖暴露大会みたいな商品を棚入れしたり、時には注文確認のために何度も名前を繰り返したりしなきゃならないのは面倒くさいから書店もセルフレジとか導入したり、書籍お取り寄せ用のアプリとか色々な手を出さなきゃいけない気がするし、書店が潰れたらナロウシュ様もお終いだものね。


「そんな書店の現実なんてあんまり気にしてないんだけどね」

「ナロウシュ様はweb小説投稿によるランキングに御執心ですものね」

「でもどうなんだろう? 書籍化したらゴールみたいだけどもうかれこれ五万とかの単位で関連書籍がタイトルでリリースされてるみたいだけど、みんなどうして読んでくれるんだろうね?」

「一応、リリースされたものを読むというのが読者の基本ですし、書籍を購読する位のことなら、割と誰でも趣味として持ち得るものなんですよ、なんなら作家になるよりも本を買って読むことの方が楽まであります、まあ頭ナロウシュ様には分からないことかもしれませんけど」

「そういえばよく考えたら無料で漫画何話か読めるとか、web小説自体が、ずっとナーロッパ続けてるからネット環境あれば読み放題だものね」

「でしょう? 今ではナロウシュ様達は大体、ライトノベルとかの知識があって小説投稿サイトの流行りを知ってて、更には悪役令嬢とか言う本来なら乙女ゲームでよく使われるらしい用語も何故か小説界隈では一般的になってる具合ですものね」

 おやつ時に長話はつきものであるが、そういや話のネタは尽きないよね、異世界転生にせよ、ウェブの小説投稿サイトにしても、至る所にコンテンツがあってメディアミックスが盛んで、どこも無料視聴とか先行放送とか、なんでもやってるからどこかで引っ掛かって、また一人ナロウシュ様が生まれる仕組み、無間地獄かな?

「ところでヴィンターラ、君は最近どういうの読んでるの?」

「ヨーロッパの名城名鑑ですわ、各地の城の構造から城下に広がる雄大な領地と、その歴史の略歴が良く分かる、一冊です」

「へぇぇそんな難しい本よく読むんだねえ、なんの役に立つんだろう?」

「たとえば、このナーロッパ領も中世ヨーロッパの城と城下町の関係性を旧市街地として持っていて、そこから少し近代化した宮殿ともいえるものが今あるナーロッパ邸になっています、つまりナーロッパ領は代々続く国の礎として築かれた旧市街地と城の存在によって、このナーロッパ世界の要衝であることが一目瞭然というわけで、その道筋を研究し、地下水道や下水道などの把握にも役に立っていますわ」

「なるほどー、僕は最近だとMS大全とか読んでたよ」

「MS大全?」

「あ!? まさか!? あの部屋にあったあの、あれも、あのプラモデルも?!」

「はい、あの安価な素材で出来たよくわからないものは灰にしましたよ」

「あれ! あれは! 単純に素組みするのにも五時間は掛かるんだよ!?

 どうしてそういうことするの! ダメな子なの!?」

「化石燃料資源は今後の脱炭素社会の現実を考えた時、恒久的なものとしての頼りがいがありませんよね、そういった未来を見据えない企業の生産物を持っていることはむしろナロウシュ様の名を傷つけるものだと思いましたし、見れば銃器や鈍器など過剰戦力で、あまり良い趣味だとは思いませんでしたので」

「だからこそじゃないか! 脱化石燃料化したらプラ素材から違う代替素材に切り替わるの! そしたらプラモデルはレトロな一品になってそれなりの価値があるものになるでしょ!?」

「そうはならないのでは? 大量生産品ですよ?」

「今は大量生産されてても後の世では新素材を導入したことによって旧キットの金型じゃなくなってて、昔のキットじゃなくなったりして、レアかもしれないのにどうしてそんなこと言えるの!?」

「そういったことを考える輩と同等のところに落ちてしまうから、世に転売屋は無くならず、欲しいものが手に入らない世の中になるのですよ、今じゃ手に入らないとか限定商品とかを買い続けて、自分の部屋を埋め尽くせば偉いなんて、そんなに虫の良いことはないでしょう?」

「偉い偉くないじゃないよ! 論点をずらして主に逆らうのか!?」

「まあ」

紅茶を口にすると、

「別になんだって良いのですよ、理由が何であっても、私はナロウシュ様をお守りしますし、害になると思ったものは極力排除します、その為にはナロウシュ様以上にナロウシュ様のことを知らなければなりませんから、今回はわたしの不勉強なところがあったかもしれません、でも大事なものとそうじゃないものを一緒くたにしてそこら中に置いておけば、ゴミと思われても仕方ないでしょう?」

「ヴィンターラ、君は力を持ちすぎた」

「替えがきくと?」

「君は、きみ、はっ?!」

ティーカップは皿と一緒に砕け散った。

「私は駄目な子ですね、でもナロウシュ様が忘れてくれれば、無かったことになります」

「何をっ!?」

「良いですか? ナロウシュ様は美味しい紅茶とお菓子で満たされた、部屋は綺麗になって、大層満足してその夜はぐっすり眠りについた、それだけの話です」

「そんな、そんな話が」

「あるんですね、これが、もうお休みになったあなたには分からないことかもしれませんが」

 ナロウシュひとりを軽く抱きかかえて、元の部屋に連れ戻す位にはヴィンターラは良く働いていた、というよりも実質的に彼女がナーロッパ領の大半の事を取り仕切っていたので、出来ないことは無かった。


「困るんですよ、私が、もしもナロウシュ様がスペースコロニーを作るとか、ロボットを作りたいとか言い出したら、いつも通りの異世界転生じゃなくなってしまって、パイロットとパイロットみたいに機械で触れ合うことしか出来ない不器用な世の中になってしまいますから、そういうのはもっと成熟した未来で良い、無理して私たちが宇宙戦争をやるなんて、考えたくもありません」

 思えば大体のことが叶うのが人間の創作であるし、そういった資源を元にしたコミュニケーションが発達していった先に待っているのは、より巨大な経済圏と経済循環システムになる、化石燃料資源依存を越えたところにある我々人類の果てしない未来の事を考えた時、異世界人同士のいさかいくらいで話がまとまってる話の中で、わざわざ宇宙を天体を、無限に開拓して資源を戦争目的に使用して回復不可能なダメージを蓄積することが、果たして人類の未来でいいのだろうか? とは思う。

「今は寝ていてください、未来はもう少し違った形であっていい、出来たものも夢の中なら報われる、でも言葉にしてみたらそれは思ったよりも陳腐であったり、あまり世のためにならない思想信条や周回遅れの発想であったりするものです」


 スペースコロニー構想自体が月の資源に由来しており、また有機資源に関しては、月に豊富にあるとは言い難く、結果として小惑星帯から持ち寄るしかないという具合を見れば、スペースコロニーを作ってそこから有機資源を地球に輸出するなんて構想がどれだけ歪なものか分かるはずだ、それこそスペースコロニーが出来た時点で、それが恒久的な経済として回り始めた時点で、もう取り返しの出来ないところまで人は進んでしまうので、あまりそういった歴史の解像度を高めることに躍起になってもとは思う、でも。


「おやすみなさいナロウシュ様」


 それでも、人類は未来をつかみ取らなくてはいけない、どんな間違った発展でも、試してみなければ分からないのだから。

なんか着地点がわからんくなった感

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― 新着の感想 ―
[一言] な・・・なんか海鮮丼に対する執念が分からんW
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