魔物使いとの戦い
魔物使いとは、その名の通りモンスターを使役するジョブ(職業)である。
多くは、『魔物使役』というスキルを持ち、モンスターを服従させる事で、モンスターを意のままに操り、ある程度の命令を下せる。
たくさんのモンスターを使役することも容易だし、それならば、モンスター同士がお互いに争わなくても不思議ではない。
高位の魔物使いとなれば、己の素質をもって、モンスターに模倣させる事が可能だ。
例えば、魔法を使ったり、とか。
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「お前、魔物使いだな?」
俺は、ハイオーガの目を見据え、その奥に居るであろう術者に問いかけた。
「………」
その問いに、ハイオーガは何も返さなかったが、憤怒の表情だったその顔に、一瞬の動揺が走った。
「——————ォオアアアアアッ!!!」
奴が、激しく咆哮する。
また、火球が発射された。前の火球よりさらに大きいその一撃は、俺だけでなく周囲も刈り取ろうと迫る。
明らかに強い攻撃に、奴が仕留めに来たことを悟る。
分かりやすすぎる反応。術者の性格が丸出しだ。短気で直情的。ハイオーガから表出していたあの表情は、術者のものなのだろう。
足を超強化し、辛くも火球から逃れた俺に、またハイオーガが迫る。
ハイオーガは、一切の遊びなく、頭を狙いにきた。この一発で決める気か。
俺は、身体のスピードだけを超強化し、一時的にハイオーガのスピードを超え、拳を避ける。
スピードだけの超強化は、デメリットが大きい。ただでさえバランスの悪い強化は、身体に大きく負荷をかける。超強化ならなおさらだ。激しい痛みが俺を襲う。バラバラになりそうだ。後、10回も使えば身体を壊してしまうだろう。
だが、勝つための布石として、これは必要だ。
痛みで顔が歪む。それに耐え、ハイオーガの一挙一動を見逃さないように睨む。
さらに、ハイオーガは連続で、蹴りを繰り出し、拳を振るう。
その連撃を紙一重で、避ける。避ける。避ける。
俺は、そのまま超強化を使い、距離を取る。
「スピードは俺の方が上のようだな」
モンスターを操っている奴に聞こえるよう、わざと大きな声で言う。
さらに、
「それに、さっきから不思議だったんだが、何で火球ばかり撃っているんだ?ハイオーガの魔力量なら、もっと上位魔法も打ち放題だろ。炎球とか。もしかして———、」
基本魔法の火属性は、『火』『炎』『焔』の順に強さが上がっていく。火属性の中で『火』は、最下級の魔法である。それで人を殺せる威力を出せるのは凄いことだが———、
「火球以上は難しくて使えなかったか?ハイオーガも可哀そうに。こんなロースペックに操られてるんじゃ、スペックの持ち腐れだよなぁ」
嘲りの笑みを浮かべて、最大級の煽りをぶち込んだ。
ハイオーガを操れる時点で、その術者も尋常の者ではない。だが、こいつの性格なら……、
「—————アアアアアッ!!!」
———乗ってきた!!!
ハイオーガが、特大の火球を俺に向かって放つ。
それを避けると、避けた先にも火球が飛んできた。
地を思い切り踏み切り、空に飛ぶ。
するとまた放たれた火球が逃げ場のない空中で俺に迫る。
足を超強化で硬くし、火球を蹴る。それにより、自分の位置をずらし、何とか直撃は避けた。だが、余波に巻き込まれ体が炙られ、地面に落下する。
地面に落ちて、蹲る俺の目の前にはハイオーガが立っていた。
奴は俺にとどめを刺そうと腕を振り上げ———、
俺は、身体を超強化し、奴の胸を狙い跳ね上がった。
———ここが俺の勝ち筋。
怒りで奴は気付いていない。
魔力効率の悪い「威力のある初級魔法」を乱発し、さらに怒りで身体中からあふれ出ていたハイオーガの魔力は、もうほとんどない。
奴は堅牢な鎧を1つ失った。
後は、その身体の硬さのみ。それなら俺でも貫けるはず。勢いをつけるため、相手は両腕を振り上げている。俺の攻撃の方が速く届く。
「うおおおおおおおっ」
俺の拳がハイオーガの胸に届く前、その直前で———、
俺は血を吐き、動きが止まった。




