戦闘狂
「————————————ッッッ!!!」
突如、森に轟音が響いた。木々が倒れ、引き裂かれ、粉砕される。
同時に、新たなモンスターの気配が出現した。
遥か遠くなのに、さっきまでのモンスターと比べるのがおこがましい程の圧倒的な気配を感じる。こんな気配は、あり得ない。この予感が正しければ、それこそ、ほとんどの冒険者は勝てはしない。隠す気のない濃密な強さが届く。
今は遠いが、それでも大きな振動が耳を打つ。その音を注意して聞くと、徐々に大きく──近づいていることに気が付いた。それは同時に、そのモンスターが木々を障害物とすら思っていない程のフィジカルを持つことを物語っていた。
このままでは追いつかれてしまう。敵は確実に強い。俺が今まで倒してきたどんなモンスターよりも強い、はず。
おかしい。このモンスターには、俺は勝てる保証はない。
だが———、
逃げた方が、良い。若しくは、全員で力を合わせて戦う、とか。命を最優先にするなら、馬車を囮にして、自分だけ逃げるのも、あり。
だからこそ———、
こんなところで命を懸けるなんて馬鹿げてる。
———試したい!!!
自分の力がどこまで通用するのかを!
心の奥底にある微かにある本能的な恐怖を差し置いて、胸が高鳴る。
俺は、走る馬車から飛び出しつつ、合図の笛を鳴らす。
『撤退の殿を務める』
まあ、轟音で聞こえているかは怪しいが。
森の1本道に立ち、敵が来るまでの時間、自分の魔力を練る。魔力を身体に纏わせ、循環させ、強化する。
魔力は、身体に宿る魔法の源。魔法を使う他にも、身体に巡らすことで強化になる。
この技術とスキル『支援』での身体強化を使った戦い方が、俺のファイトスタイルの1つだ。それは、道場でサグノアおじさんから直々に教えてもらったもの。肉体的に脆弱な人間が、モンスターに打ち勝つための秘策。俺が、理不尽に立ち向かう為の術。
その名は、操力術。この力で俺は戦う。どんな奴にも、負けない。
肌が痺れる。息が重い。血が巡る。轟音は、もうすぐそこまで迫っている。
正面から見て左側、木々を倒しながら奴が姿を現した。
そのまま奴は、奥の馬車に向けて突進していく。まるで俺の事など眼中にないように。
そんな奴の横っ面を思いっきり殴りつけた。奴は弾けた様に吹っ飛び、近くの木に叩きつけられた。
ゆっくりと起き上がると、苛立たしそうな目でこちらを見た。初めて、お互いの目が交錯する。これで、奴を同じ土俵に立たせた。
そして、俺は開戦の口火を切る。
「さあ、やろう」
俺は、奴———Sランクモンスター、ハイオーガに、勝つ。