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終幕の感謝

「そ~れ~よ~り~、何かボクに言うことがあるんじゃあないかなあ?ほら、お礼とか!」


 ニッコォという効果音が付きそうないい笑顔に、俺は顔をしかめる。これほどお礼したくなくなったのは初めてだ。


「……Sランク冒険者の君が何故ここに?」


 秘技、話を逸らす。さっきも使った気がする。


 だが、これは気になる話でもある。少なくとも1週間前までは、俺たちの住む都市:サウスラに新たにSランク冒険者が来たという情報はなかった。サウスラは、とある理由から強い冒険者の数が少ない。サウスラが大都市とはいえ、Sランク冒険者なんて把握できる程度しかいないが、アヤネという少女の名前は聞いたことがない。こんなSランクの少女が来たら話題になるはずだが。


 1週間前以降に来たのか?それに、この森には普段だったら雑魚しかいない。Sランクが来るような所ではないんだが。


 もし偶然なら、随分と間が良いな。


「えー…何そのはぐらかし……えーとね、ダリルさんの紹介って言えば分かるかな?あの人からの依頼でちょっとこの辺りでキミ達を探してたんだ。そしたら、超スピードで走る馬車を見つけてね。話を聞いたら、モンスターの足止めするために残ったって言ってたから、大急ぎでここまで来たんだ」


「………」


「ちなみに、ダリルさんから聞いたから、キミの事も知ってるよ。Bランク冒険者のアンドくんで合ってるよね」


「………ああ」


 思わず無表情になった。


 ダリルさんは知っている。今回のクエスト『魔法泉の水の大量採取』の依頼者だ。王都で大きな商会を運営している人で、正しく俺の力を知る、数少ない人のうちの一人で、ある縁で個人的に仲良くさせてもらっている。今回のクエストで、俺を直接指名してきた。輸送係のスキル『アイテムボックス』を強化して欲しいのと、護衛の一部を頼むって依頼だったな。


 最初は、長期間の任務は嫌いだし、俺より適任な奴はたくさんいる、と断ろうとしたんだが、どうしても頼むと言われ、大商会会長の直接の依頼という圧力の手前、仕方なく引き受けたが———、


 俺(過剰戦力)、Sランク冒険者のアヤネ(過剰戦力)、クエイク(これは狙っていたかどうか怪しいが)、


 今回の件、もしかして———、


 こうなることを知っていて依頼したのか。あのモノクル狸。


 確証はないが、大商会の長なら独自でそんな情報を掴んでいてもおかしくはない。後で、問い詰めなければ。


 それが分かると、疲れがどっと出る。目を開けていられない。強烈な眠気が俺に迫る。早く『支援』を掛け直さなければ———、


 眠気に押され、身体がふらつく。


「おっと、大丈夫かな?」


 アヤネが俺の肩を掴む。もう、一人で立てているのか分からない。


 ああ、もうだめだ。意識が遠のく。眠れない。こんなところで絶対眠りたくない。しかもアヤネの前なんて。だが、それよりも言っておかなきゃならない事がある。


「アヤネ」


「ん?」


「借りは返す。俺の出来る範囲で何かあったら言ってくれ」


 冒険者に、借りなんて作ったままにしておけるか。それと———、


「それと……、ありがとう」


 最後の言葉は消え入るように。言えていたか分からない。だが、それ以上何も考えることが出来ず、意識は闇に沈んでいった。


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