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決死戦

 事前にハイオーガの魔力が感じられなかった。


 だが、奴の膂力はさっきの奴と同等だ。寧ろ、魔力による強化がないにもかかわらずこの威力の攻撃が出来ることが脅威である。


 油断した訳ではない。どんな魔物使いだろうと、ハイオーガ程の魔力を漏らさないように操るなんて芸当は出来ない。術者の性格上、やるとも思えない。そもそも、


 奴に魔力を感じない。少ない、とかではなく、無い。魔力量の高いハイオーガが、そんな状態になるのは、どう考えても異常なことだ。


 今日はあり得ないことばかり起きる。何か裏があるのは間違いないが、それを考えている暇もない。


 身体はボロボロ、ハイオーガは無傷。支援は期待できない。逃げようにも、クエイクを連れて逃げ切れる可能性はない。


 俺だったら、ハイオーガの一撃を無防備に受けたらほぼ即死だ。クエイクが生きている保証はない。だが、死んだ証拠もないままに見捨てるほど、俺は薄情ではない。


 幸い、奴に魔力の鎧はない。やるなら短期決戦。それしかない。


「うおおおおおおっ」


 スピードを超強化し、俺は奴の懐に入り込む。そして左腕をハイオーガの左胸に繰り出した。


 奴は、左腕で俺の拳を払う。拳と腕がぶつかるが、俺の拳には一切の強化が掛かってない。軽々と弾かれてしまう。変な方向に手が曲がり、激痛が走る。だが、


「………?」


こちらはブラフだ。


 本命は、右手!


 右腕を振り被りながら、ありったけの超強化を掛ける。反動は考えない。他の、全てのスキル『支援』での強化を解除し、残りの魔力も全部右手に、全てを一瞬の超強化のために燃やし尽くす。


 狙うはがら空きの首。


 本日一番のスピードで、拳がハイオーガに迫る。全力の一撃にハイオーガは反応することは出来ず、直撃した。


「——————なっ!?」


 直撃した。だが、その一撃は、ハイオーガの首をわずかにきしませるだけに留まった。何より、衝撃的なのが、ハイオーガの首に重点を置かれ、魔力が展開、いや突如として出現していたことだ。


 奴は動かない。俺にもう力が残ってないことが分かっているのだろうか。


 俺は、力なく右腕を降ろす。


 万策、尽きた。逃げる力も残ってない。今にも意識が飛びそうだ。


 だが、俺の矜持が、最後まで、敵から目をそらし諦めることを拒んだ。


 考えろ。考えろ。考えろ。


 奴が右腕を振り下ろす。後少しで当たってしまう。


 考えろ。考えろ。考えろ。


 奴の動きがスローモーションになる。当然、俺も動けないが、脳を動かせ。


 考えろ。考えろ。考えろ。


 俺にも、まだ、勝ち筋が———、


「炎柱」


 凛とした声と共に、突如、俺の目の前に、巨大な炎の柱が出現した。

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