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5話:伊波ちゃん、一発芸披露

 飲み始めの段階で手遅れと思うのだから、一時間も経てば後戻りできないレベルである。


「あ~~~♪ お酒は美味しいなぁ♪ お酒は楽しいなぁ♪」


 新卒小娘、絶賛泥酔中。

 色白な肌をポカポカと赤く火照らせ、ハキハキした大きな瞳はトロロンと微睡まどろむ。なだからな鎖骨部を照らす小ぶりなネックレスもズレているし、はだけたカットソーからは形良い胸の谷間がコンニチワ。

 当たり前に俺へと寄りかかり、すっかり甘え上戸モードである。


「伊波、それ俺の箸」

「何言ってるんですか先輩っ。このお箸は、お店のお箸に決まってるじゃないですか~」

「いや……、そういうことを言ってるんじゃなくてだな……」

「あれれ? こんなところにストッキングが落ちてる??? 先輩っ、だらしないですよ! こんなところに脱ぎ散らかして!」

「俺が履いてたわけねーだろ! お前が脱ぎ散らかしたストッキングだバカヤロウ!」

「あははははっ! 先輩面白~~~~い♪」


 消えようかな……。コイツをぶっ飛ばさんうちに。


「マサト先輩のモノマネしま~~~す!」

「あ?」


 何をトチ狂ったのだろうか。

 俺の肩に傾きっぱなしだった伊波が、いきなり姿勢を正し始めた?

 ほんわか笑顔一変、キリッとした顔立ちで言うのだ。



「若いうちはガムシャラに働け。俺が新卒の頃、部長にいただいた『金言』ですが」



「ブッ……!」

「あははははっ! 先輩むせた~~~♪」


 小娘ぇ……。

 恩を仇で返すとしか言いようがねぇ……!

「私そっくり~~~♪」と、キャッキャッはしゃぐ伊波の頬っぺたをつねられずにはいられない。これでパワハラと言われるのなら、法廷で戦うこともいとわんぞ。

 とはいえ、酔っ払いの痛覚は死んでいるらしい。俺がつねろうが、へにゃり笑顔のまま。


「あのときの先輩、カッコ良かったなぁ♪」

「…………。はぁ!?」

「カッコ良いマサト先輩に突撃~~~~♪」

「!!! おまっ……!」


 伊波が俺の膝に雪崩なだれ込んできた!?

 唐突な膝枕プレイに動揺必至。


「こ、こら! 猫かお前は!」

「にゃ~ん♪」


「私は人懐っこい仔猫ですよ」とでも言わんばかり。伊波ネコがマーキングするかのように、柔らかな頬、艶やかに香る髪、たわわな胸やくびれた腰、華奢な肩や細腕などなど。己の全身を余すことなく俺へとスリスリ擦り付けてくる。

 マーキング攻撃は終えても、膝枕攻撃は継続中。俺の内ももを定位置に、伊波はまったり落ち着いてしまう。


「お前な……。こんなとこ、他の奴らに見られたら始末書もんだぞ」

「先輩の膝枕のためなら、始末書なんて安いものですっ」

「俺の気持ちも考えんかい」

「えっと……、膝枕されるより、したい?」


「やかましいわ」と軽くチョップすれば、伊波はクスクスと肩を揺らす。

 甘え上手でイタズラ好き。それがいつもの伊波という後輩。

 なのだが、


「ねぇ先輩」

「ん?」

「今日の私、さすがに生意気すぎましたかね?」

「生意気? …………。ああ……」


 一瞬何を聞かれたのか理解できなかった。けれど、直ぐに真意を理解できてしまう。


「部長に盾突いたことか」


 ご名答らしく、伊波は1つ頷く。


「意外だな。お前は気にしてないと思ってたけど、気にしてたんだな」

「気にしちゃいますよ。駆け出し社員の私が、役職ある人に噛みついたんですから」


 終業直後の一件を本気で気にしているし、不安なのだろう。あれだけハシャいでたはずの伊波が、気付けば静かになっているのだから。

 心なしか、伊波の背中が小さく見えるし、膝に感じる重さも殆ど感じなくなってしまう。

 思わず、伊波の頭に手を置いてしまう。


「先、輩?」

「気にすんな。部長が何か言ってきても、俺が守ってるやるから」

「……っ!」


 見上げてくる伊波の瞳が一層に大きくなる。

 馬鹿な奴だ。一生懸命頑張っている後輩を見捨てるわけがないのに。

 見捨てるわけがないからこそ、


「お前に魔法の言葉をやろう」

「魔法の言葉、ですか……?」

「おう。また部長に誘われたら、こう言ってやれ」


 俺も酔ってるんだろうな。


「『先輩と飲みに行くので、部長とは飲みに行けません』ってな」


 こんな恥ずかしいセリフがサラッと出ちまうんだから。

 とはいえ、羞恥心が込み上げてくるのだから、圧倒的アルコール不足。

 伊波の反応を見る余裕すらない。


「と、とにかく! 俺に辞められて一番困るのはあのオッサンだから! お前はバンバン俺を利用しろってことだ!」


 自分でも「何ギレだよ」とツッコみたくなる。何なら伊波にツッコんでもらってチャラにしてほしいまである。

 しかし、伊波はツッコもうとはしない。

 それどころか飛び切りの笑顔で応えてくれるではないか。


「はいっ♪ 『大好きな先輩と飲みに行くので、部長とは飲みに行けません』って言いますね!」

「!!! …………。~~~っ! そ、そういうことだ!」


 恥ずかしかったり、素直な後輩が可愛かったり。もう顔が燃えてるかもしれん。

 顔が熱いのは酒のせいなんですと、手元のグラスを鷲掴んで一気飲み。

 今日イチの飲みっぷりを披露するものの、下から見上げてくる伊波の顔はニコニコしたまま。


「ねーねー、マサト先輩」

「なんだよ」

「1つだけ訂正させてください」

「?」


 横向きから仰向け態勢になった伊波が、ちょいちょいと俺を手招く。

 言われるがまま顔を近づければ、伊波が俺の耳元で囁く。


「マサト先輩に辞められて一番困るのは、部長ではなく私ですよ?」

「!!!」

「えへへ……♪ そのポジションだけは絶対に譲れません♪」


 俺以上に恥ずかしいことを平然と伝えてくるんですけど……。

 新世代恐るべし……!

 もはや、泥酔状態、ハイテンションモードの伊波に逆戻り。


「あははははっ♪ 照れてる先輩可愛い~♪」

「はぁぁぁ!? ほ、本当に辞めたろか!」

「辞めないくせに~♪ 半端ものの私を置いていくほど、冷たくないくせに~♪」

「~~~っ! この小娘ぇ!」

「きゃ~~~♪」


 このあと、めちゃくちゃ説教した。

 何の意味も成さなかったけど。






本日(7/15)は、20時にもう1話投稿します。


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構って新卒ちゃんが、飲みやホテルに毎回誘ってくる。

★連載版はコチラから★
― 新着の感想 ―
[良い点] はぁ、俺もこんな後輩がいれば、上司から押し付けられた敵にも勝てるのに おっぱい先生の作品で癒されるしかないです
[一言] 紅一点ってまさにこのことを言うんだろうなぁ。
[良い点] 可愛すぎで朝からノックアウト
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