1話:ブラック企業に咲く一輪の花
追記:2020/12/26(土)
連載版が本日より投稿スタート!
プロローグは同じ内容です。
定時退社。
これほどに魅力的な言葉があるだろうか。入社1年目以降、「お先に失礼します」という言葉を発した記憶がない。
完全週休2日制。
これほどに信用できない言葉があるだろうか。「世の中に完全なものなど何1つない」とでも言わんばかりに、土日出社を命令してきやがる。
『今日中にやっといて。なる早な』
これほどに殴りたくなる言葉があるだろうか。コチラ側の都合などお構いなし。綿密に練ったスケジュールを、いとも容易くブチ壊すえげつない行為。
22時手前。頼まれた見積書をまとめつつ、憧れの言葉をボヤき続けてしまう。
「ノー残業デー……、ボーナス年2回……、年次有給休暇……、全国各種レジャー施設等優待利用……、働き方改革……」
憧れとは理解から最も遠い感情。故に、言葉にすればするほど悲しくなるだけ。
「意味の無いランチミーティング……、リモート勤務にも拘らず残業……、毎日繰り返される無意味な社訓唱和……、『くだらないことを相談するな』からの『勝手なことをするな』……」
不平不満の言葉を呟けば呟くほど、キーボードを叩く音が強くなればなるほど、抑え込んでいたストレスが止めどなく溢れ出てくる。
ついには、
「~~~~~っ!!! ブラック企業ファァァァァアァァ~~~~~~ック!!!」
オフィスの中心でストレスを叫ぶ。
『ホワイト企業の皆、オラに休みを分けてくれ。オラ、イライラすっぞ』状態。
「あの部長―――ッ! 定時間際に仕事押し付けやがって! 直ぐ終わる仕事ってホザくんなら、テメェがやって帰れ―――~~~~~っ!」
見積書などクソくらえ。怒りを代弁するかのように『dさvcjsdかsdぁ』と言葉にもならぬ文字が羅列され続ける。
傍から見れば、「ついに風間が壊れた……」とドン引きするのだろう。
しかし、いくら叫ぼうが、いくらトチ狂おうが関係ない。オフィスには俺しかいないのだから。
「あははっ! いいぞ先輩っ、もっと言っちゃえ~~~♪」
「あん!?」
訂正。俺以外にも1名残っていた。
振り向けば奴がいる。
パッチリした大きな瞳が見えなくなるくらい、チャームポイントのえくぼを見せびらかすくらい、屈託ない笑顔の女子が俺の真隣に。
名を伊波渚。
今年入社したばかりの新入社員で、俺直属の後輩である。
「これ以上、愚痴ったら止まらねぇぞ」と睨みを利かせようとも、伊波にはノーダメージ。自身の目尻を人差し指で持ち上げつつ話しかけてくる。
「先輩は目つきが悪いんですから、そんなに睨んだら駄目ですよ」
「馬鹿言え。俺も入社する前は、澄んだ綺麗な目をしてたぞ」
「えっ。俺『も』ってことは、私のことを澄んだ綺麗な目をした可愛い女の子って、先輩は思ってくれてるんですか?」
「可愛いなんて一言も言ってねーだろ」
「綺麗な目と思ってくれているだけで、私は大満足です♪」
「あと数年で、お前の目も死ぬんだぞ」という隠されたメッセージにも気付いて欲しい。
伊波の性格を表現するなら、好奇心旺盛なネコといったところか。元気いっぱいで人懐っこく、愛嬌もたっぷり。おまけに容姿もスタイルも秀でているだけあって、社内は勿論、取引先などでもすこぶる人気のある我が社の看板娘。ウチの会社にいるのが勿体ないくらい。
新卒らしく、フレッシュなのは大変よろしい。
しかしだ。
「さぁマサト先輩っ。ちゃっちゃと仕事を終わらせて、飲みに行きましょう!」
隙あらば飲みに誘ってきやがる。挨拶感覚でほぼ毎日。
一緒に飲むためだけに、俺の残業を待ち続けるファイトスピリッツの持主。
コイツはアル中なのだろうか。
「却下」
「??? 何でですか? たまには奢りますよ?」
「別に金欠ってわけじゃねーよ」
「じゃあ何で断るんですか!」
「お前が毎回、終電ギリギリまで帰してくれないからだバカヤロウ!」
この新卒OL、とにかく飲むわ飲むわ。
おまけに、ただでさえ元気いっぱいなくせに、酔っぱらうとさらにハイテンション。2人飲みすれば、ウザ絡みの矛先は俺に全て突き刺さるのが目に見えている。
俺の反対も何その。駄々っ子の如く、俺の二の腕にしがみついてきやがる。すごいおっぱい柔らかい。
「だって先輩と飲むの楽しいんだもん!」
「開き直るな! そもそも月曜日から飲みに誘うんじゃねえ! 大学生かお前は!」
「やだやだやだ! この前連れて行ってくれた海鮮居酒屋行きたい! カツオの藁焼きと冷酒でグイッとしたい!」
「オッサンかお前は……」
「終電がなければ、ホテルに泊まればいいんですっ!」
「…………。!!!??? はぁぁぁぁぁ!?」
市民どころか、マリー・アントワネットもビックリなお泊り発言に、俺もビックリ。
酒が大好きだからか、帰るのが面倒だからか、若気の至りなのか。
それとも……?
飲み、時々ホテル。
そんなハニートラップまがいなことをナチュラルにやってのける新卒OLこそが、伊波渚である。
【挨拶】
プロローグを読んでいただき、ありがとうございました。
新卒後輩がヒロインの社畜ラブコメ。
日本酒とか飲み屋が好きな女の子を書きたかったんです。
分かる!っていう人は美味い酒が酌み交わせそうʅ(◔౪◔ ) ʃ
毎日投稿、1週間で完結する短編なので、サクッと楽しんでいただければと。
ブックマーク&評価よろしくどーぞ!
【お知らせ】
今作品以外にも、
・書籍化を発表したばかりの『おっぱい揉みたい~』
・マスク女子にひたすら萌えようという話
も公開しています。
お暇な時間があれば是非是非。
作品リストはコチラから↓↓↓
https://mypage.syosetu.com/mypage/novellist/userid/603419/