①1-7
AM10:20、他のクラスではおそらく既にホームルームを始めている時間だというのに、僕たちのクラスはまだ担任の先生すら来ていない。
早くも学級崩壊が起こりうる危機に面していた。
「遅れてすまない。礼はいい。ではホームルームを始める。」
と何だか鬼教官みたいな女の先生が来た。
僕はひたすらこの人が僕たちの担任の先生ではないことを心の底から願った。
「私はこのクラスの担任を務めることになった春風隙間(はるかぜ すきま)だ。」
どうやら神様はお兄さんだけでなく身内の僕までも見捨ててしまったようだ。
「私のことは、先生だの先公だの教官だの司令官だの好きに呼ぶといい。ただし、馴れ馴れしいクソ餓鬼は即時退学とする。私から言いたいことは以上だ。」
前言を撤回させていただきたい。
鬼教官ではなく魔王クラスの教官のようだ。流石に呑気なお姉さんでもこの状況で机に落書きなんてことはないだろうと思いつつ心配なのでお姉さんの方に視線を向けた。
そこにはこの状況で落書きするよりも恐ろしい行動をしていた命知らずの姉の姿があった。
何とお姉ちゃんは爆睡していた。
先生が気付く前にお姉さんを起こさなければ先生に連れて行かれてしまう。
幸いにも出席番号順ではお姉さんは僕の後ろだったので上手くいけば気付かれずに対処できるけどどうしようか考えてると、
「おい、そこの爆睡しているお前とその前の餓鬼!」
もう遅かったようだ。
ついでに僕も巻き添いをくらったようだ。「放課後職員室に来い。来なければ死ぬか退学するか選べ。あと次の授業までにそいつを叩き起こしておけ。」
と先生は不気味な笑みを浮かべながら教室を出て行った。
どうやら僕はいや、僕たちは初日からあの怖い先生に目をつけられたようだ。
お姉さんをすぐに起こして事情を話すと、
「ふーん。じゃ放課後職員室に行くしかないっしょ。私たちがやらかしたことだしね。」
本当にこの人は呑気である。
お姉さんは爆睡してたから知らないかもしれないがあの先生確実に僕たちのこと2人の魔人としてではなく、2匹のゴミ虫を見るような目で見ていたことを。
もう1つ言いたいことがあるとすれば私たちがやらかしたではなくお姉さんがやらかしたの方が正しいと思うのだが実際には言わなかった。
疾風の話を聞いたからには、職員室に放課後行かないといけなくなった。
私だけならどれだけ怖い先生の雷にも耐えれる自信はある。
何せ私は優等生で生真面な弟とは違って昔から問題児だったから人に怒られるのにも慣れている。
だけど疾風は違う。
今頃放課後職員室で先生に何を言われるかビクビクしているところだろう。
おそらく疾風は先生の話を聞かずに爆睡していた私を起こそうとしているところを怒られたんだろう。
ごめんね、疾風。
こんな頼りないお姉さんで。
PM12:40、新入生のほとんどは下校しているというのに、僕たちは職員室の前で先生が入って来いというまで待たされていた。
ちなみにお姉さんはトイレに行くついでにお兄さんに先生から呼び出しをくらったと報告しに行ったところだ。
何を言われるか不安になりながら考えていると、
「夜月、入れ。」
原因を作った張本人がいない間に春風先生は来てしまった。
「ん?もう一人はどこだ?」
と今できれば聞いてほしくない質問をされたので、どんな表情をしたら良いのかわからなかった。
だから僕は無表情で
「兄に学校に残ると報告しに行きました。」と答えた。
そうしたら先生は予想外にも安心した表情を浮かべて
「やはりそうか。」
とさっきまでの先生と同一人物と思えないような声で言った。
やはりってことはおそらく春風先生はお兄さんと何か過去にあったらしい。
どうせまたろくなことをしていないと思うのでひとまず謝ることにした。
「先生、すいません。もしかして兄がまた問題を起こしたのでしょう。」
と聞くと、先生は首を横に振った。
僕は普通に驚いた。
「遅れてすいません。」
とまた変なタイミングでお姉さんが帰ってきた。
すると先生はまたいつものような怖い顔に戻った。
「では、2人とも入れ。」
と言われ、僕たちは職員室に入った。
職員室に入った時にはもうすでに2時間は経過していた。
お姉ちゃんは方向音痴なのでまた迷子になっていたのだろう。
「では、お前たち。なぜここに呼ばれたかわかるか。」
と先生はそこら辺にあった椅子に座り、唐突に質問をしてきた。
疾風はやっぱり硬直していた。なので私が事情を話すことにした。
「さっき疾風から聞いた通りならば、私が先生が話をしている最中に寝ていたことが原因で呼ばれました。そして疾風は私を起こそうとして巻き添いをくらったのではないでしょうか。」
と疾風から聞いた通りに(疾風のことは推測で)先生に説明した。
だけど先生は首を横に振った。
ではなぜ、と思うと先生は私の心を読むようにここに呼んだ理由を説明してくれた。
「お前たちの兄、夜月修羅は去年私が担任を持っていた生徒だ。」
と言った瞬間私の脳裏に浮かんだことはほぼ毎日のように春風先生に怒られているお兄ちゃんの姿だった。
入学初日でやらかしたと思ったら馬鹿兄の説教とは本当についていない。
けど、罪悪感は少なからずあったので、謝ろうとすると、
「勘違いはするなよ。別に、あいつが何かやらかしたとかで怒鳴るわけではないぞ。」
とまた心の中を読んだのかと思うぐらい的確な台詞を先生は言った。
お兄ちゃんが怒られること以外で先生の話に出てくることは初めてである。
「では、どうして先生はこの場で兄の名を口にしたのでしょうか。」
と、質問すると先生は、
「あいつは、去年の修学旅行のときに少しばかり仮があってな。簡単に言えばあいつは私のいや、生徒たちと私の命の恩人だ。」
と、なにこのラブコメ展開と言いたくなってしまう台詞を口にした。
私は反応に困って、取り繕う言葉を探す。しかし、なかなか見つからない。
「先生、僕たち私たち生徒は教師と生徒の交際を断固反対します。しかも、うちの兄と交際する気ならやめておいた方がいいと思います。」
と疾風が先手必勝の如く謎の言葉を放った。
私はその発言に笑いをこらえるのに精一杯だった。
「夜月弟、何を勘違いしているのだ。」
とこの怖い顔の春風先生を久々に見た気がした。
どうやらこの馬鹿弟は先生の逆鱗に少し触れたのかもしれない。
どうやら僕は春風先生を怒らせた見たいなので謝罪することにした。
「先生、前言を撤回させてください。あと先ほどの無礼な発言をお許しください。」
と、僕なりに礼儀正しくしてみたのできっと先生もこれで許してくれるはず。
「次言ったら死刑だが、私は優しいから許してやろう。」
許してくれました、と僕は心の中でガッツポーズをした。
「では、今日はもう帰りなさい。あと夜月兄の帰宅次第私が礼をしてたと報告してくれ。」
結局のところは兄に礼を言っていたと伝えることがここに呼ばれた理由だったのである。
PM15:30、やっと下校できた。