094 その錬金術師と薬毒~麻痺毒編~
毒には幾つか種類があるが、その中で麻痺毒とされる神経毒について触れたいと思う。
というのも、この毒は量次第で殺すのも生かして捕らえるのも可能とするからだ。
狩りを含めて使い道には色々あるので、用途に合わせて手に入れておけば、手数としては幅広くなるので欲しいところではある。
ただ問題が、
「入手手段をどうするか、なんだよなぁ。」
という点だった。
まず、麻痺毒に分類される神経毒は、蠍や蜂、河豚等の生物が持っている事が多い。
この内、蠍が持つ毒は人の命に関わる程の毒性は無く、蜂の場合は一部の蜂が持っているが刺されると血清が必要になる程、致死性が高く危険だ。河豚に至っては誤って内蔵を破裂させれば、捌いていた身はもう食べれなくなる程である。
入手しやすいのは蜂、河豚、蠍の順なのだが、この内、蠍は手に入らないだろう。何せ、砂漠等の土地に生息する生物だからな。森と草原に囲まれたこの地で見つかるとは到底思えない。
河豚は海に行けば釣れるかもしれないが、それよりも海の魔物に見つかる確率のほうが高いと思われる。見つかった瞬間死が確定するので、悠長に釣りなんて出来ないし、勿論これも没だ。
最後は蜂になるんだが――防護服とかいろいろと準備が必要になってくるんだよな。これからやろうとすれば、当然その作業に追われそうなので、やはり微妙なところだ。
「探索はしてるが、丁度良いのは見つからないんだよな。」
唯一見つけたのは、雀蜂の巣。
今は秋なので、一番攻撃的になっている季節だ。迂闊に近寄れば、速攻でぶっ刺されてご臨終だろう、きっと。
「うん、巣は見つけた。見つけたんだけどな?そこから一体、どうすりゃいいっていうんだよ?」
雀蜂は元々攻撃的な性質を持っていて、しかもその上で毒性が高いからかなり厄介な蜂である。
何せ、雀蜂の毒による被害は、針で刺すだけではないからな。毒液そのものを飛ばしてくる事も多いし、時には目や口にだって入る。それらから身を護る為の装備は、しっかりとした物が必要だった。
つまり、致死性が高い毒液とは、そういう物なのである。
「危険過ぎるか……。」
しかも、雀蜂の場合は蜜蜂とは違って、一度刺して終わりという事は無い。何度でも突き刺す事が出来るのだ。
その上、顔目掛けて毒液を飛ばしてくるとか、これが厄介でなくてなんなのだという話である。その上、秋に見つけてもその巣は冬を越さずに死滅するというおまけつき。
唯一越冬した女王蜂は違う場所で巣を作り、コロニーを形成する。
なので、毒液を採取するならば、春から捜索する事になるだろう。
「あーもう、面倒臭い。防護服は冬に作るかな。放置するのは危険だし、駆除はしておいた方がいいだろうしなぁ。」
人間すら襲う雀蜂は、放って置くと蜜蜂にまで被害が出る。
蜜蜂は貴重な蜂蜜源になるので、出来るだけ保護しておきたいし、その天敵となる雀蜂は害虫でもあるので駆除しておくのはある意味当然の流れだろう。
「いっそ囲い込むか――あ、いや、あいつらそれすると逃亡するんだったな。駄目じゃん。」
蜜蜂を囲い込んで保護しようかとも思ったが、あいつらは環境に敏感だ。
住んでいたところを後から囲い込みなんてしたら、危険と判断して女王蜂共々お引越しされかねない。
それは困るし避けたい事態である。俺はだれて机へと突伏した。
「蜜蜂用の防護服じゃ足りないだろうしなぁ。もっと厚手のを作らないとかあ。」
面倒臭い。激しく面倒臭い。
そんな面倒な防護服の制作は冬に回すとして、現状で出来る事を考えてみる。
麻痺毒は欲しいが、それで雀蜂に刺されて死んでしまったらただの阿呆だからな。今は駆除も出来ないし、見逃すしかないだろう。
「――なんか、来春は大変な気がするな。」
その大変は、予想以上のものとなるのだが、この時の俺は知らなかった。
実際、雀蜂による被害は、熊や河豚の毒に当たるよりも多く危険です。
そしてこの時代のこの世界の雀蜂は、死滅する事無く越冬までします。既に魔力による影響で、冷気に対する耐性が高まっており、より強い種へと進化を遂げてしまっています。
それを知らずに放置した主人公。春になってからはお察し。
後々、ブラッディー・スライムの脅威が無くなり巣作りに勤しむ雀蜂とのバトルが勃発します。(その為の伏線回)
2018/11/09 加筆修正を加えました。❝なるになること❞なんて意味不明な文章になってるところ発見……。自分で打ち込んでおきながら「なんのこっちゃいな!?」となった。
2019/02/19 頂いた誤字を修正しました。教えてくれた方有難う御座います(人・v・*)




