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091 その錬金術師と薬毒~湿布編~

 湿布には二種類が存在している。

 だが、急性と慢性で使い分けられる事を理解している人がどれだけいるだろうか。


「冷湿布なら急性、温湿布なら慢性ってね。」


 大抵の人が思い浮かべる湿布といえば、冷たくヒヤッとしたやつで、冷湿布と呼ばれる物だろう。

 これは主に打撲とか捻挫とかに効く物で、冷やす事で血管を収縮させる効果がある物だ。


 それとは別に、温湿布と呼ばれる物がある。

 こちらは文字通りに患部を温める効果がある為、冷湿布とは真逆の効果をもたらす物だ。


「血流の流れが阻害されて起きるものは、冷湿布じゃなくて温湿布になるんだよなぁ。それに気付いてない人がいるのには驚いたぜ。」


 というのも、メルシーちゃんのお爺ちゃんがまたギックリ腰をやらかしたらしく、その手当てに呼ばれて向かったところ、偶々(たまたま)見ていたらしい他のご老人方から強請ねだられてしまったのだ。

 ここで問題となるのが、持っていっていたのが冷湿布であるという事だ。これの効果は、先に上げたとおりに患部を冷やすというもので、お年寄りが期待している肩こり等への効果は期待出来ない。

 むしろ、その真逆になる効果なので、下手に使わせてしまうと悪化しかねかった。


「言っても聞かないしなぁ。どうせ、また村に行った時に強請られるんだろ?勘弁して欲しいぜ、全く。」


 何度も説明したものの、食い下がられて困ってしまった。

 その後、温湿布代わりとなる暖めた布を患部に当てるのを指示し、実際にやらせている内に逃亡してきたわけである。


「面倒臭い。人の話を聞かない奴は、本当に面倒臭い。」


 湿布というのは、冷湿布と温湿布では全く効果が逆になる。

 肩こりとか腰痛とか慢性的なものなら温湿布を使うべきで、血流を良くする方向で考えるべきなのだ。

 ギックリ腰の場合は筋繊維などを傷付けている為、冷湿布でいいんだがな。


「村長さんは村長さんで、腰椎バンドを土産にしたってのに、朝着けるのをコロッと忘れて卵を拾いに鶏小屋に入ったって言うしなぁ。」


 しかも、そこで後ろから特攻してきた雄鶏に蹴られて、腰を痛めたのだ。

 中々にあそこの鶏はワイルドである。


闘鶏とうけいじゃあるまいし、特攻って何だよ、特攻って……。」


 ブツブツ呟きながらも、温湿布の製造に取り掛かる。

 材料は清潔な布と清水と適当な油、それに唐辛子だ。

 唐辛子に含まれるカプサイシンには、皮膚にある温感点を刺激する効果がある。これにより、患部を温めて患者自身が実感含めて効果があると期待させるのだ。

 使う際には一度温めてから使って貰うのがいいだろうが、多分あの村のご老人達は話を聞かない。なので、唐辛子で気休めでも効果を感じさせるつもりで作成することにした。

 ただ、


「面倒臭い。」


 肌パッチという、刺激に対するテストもしなきゃならないし、湿布の類は内服薬同様に、色々と気にする事も多い。

 そして敏感肌な俺。試作品四号まで試して肌が赤く染まり、頭を抱え込んだ。


「消炎剤も入れた方がいいのか――?なら、どうせだし鎮痛作用も混ぜるか。」


 お手軽に使えるのは、芍薬かねぇ?


「出番多いな、芍薬。まぁ、量も豊富にあるからいいんだけど。」


 磨り潰して水と油と混ぜて練り練り。

 この前もやってたなぁなんて思いつつ、練り練り。

 そうして練った物を布に塗って染み込ませ、湿布として仕上げる。


「よし、出来た。」


 完成品は、使い勝手が良いように程よい大きさに切り分けて保管しておく。

 後日、この温湿布を配ったところ、老人達の間で奪い合いになる程の話題となるのだが、この時の俺は知らないでいた。


 現代の湿布は第二世代と呼ばれるものらしく、イブプロフェンなんかに強力な消炎鎮痛剤を配合してる、らしい。

 主人公がご老人達に教えたのは、温熱療法と呼ばれるものですね。

 お風呂に入れれば良いのですが、この時代の開拓村では水浴びとかがせいぜいですので、お風呂なんて夢のまた夢です。町とか都市では、当たり前にように公衆浴場がありますが、こちらは後程出てくる予定になります。


 2018/11/09 加筆修正を加えました。


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