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009 その錬金術師は救世主となる(?)

戦闘シーン再び。

 走る。

 空気を切り裂き、乾いた音を立てて打ち出され、敵目掛けて一直線に空を駆け、やがては障害物を貫いて尚止まらずに、地面へと穴を開けて。

 その際の空気の弾かれる音に、もたされた結果に、先を進んでいた先頭は立ち止まって振り返り、首を傾げた。それとは別に、後続を歩いていた者が騒ぎながらもその場で足を踏み鳴らす。


穿うがて【氷の矢】!」


 それを無視しつつ放つ、俺の第二撃。

 最早それは、矢なんて速度はとっくに超越しているんだが、元々は氷の矢と呼ばれる攻撃魔法だったのだから、納得は出来ないもののそう呼ぶしかない。

 それによって作られた形状は、圧縮された弾丸だった。氷で出来たそれは高速で回転しながらも空中を一直線に飛んでいき、目にも止まらぬ速さで狙い違わず敵の身体に風穴を空ける。グラリと傾いだ身体が、抱えていた物を落として倒れ込んだ音が響いてきた。


「もいっちょ【氷の矢】!」


 その後も続けざまに放てば、吸い込まれるようにして一瞬で距離を詰めて、弾丸は緑色の身体を持つゴブリン共を全て絶命させた。

 全部で三体。害獣駆除が完了し、俺はそっと吐息を吐き出す。


「――ふぅ。」


 そこでようやく、標的がいなくなって安堵の吐息は溜息として出ていった。

 いやぁ、ちょっと大変だった。狙いを付けるのは元より、担がれている者を巻き込まないようにと言う配慮が必要な時点で、割りと緊張するものがある。俺は戦闘職じゃなくて生産職だ。そういう気遣いとはむしろ無縁である。上手くいって良かった。

 しかし、


「当たってないよな?」


 助けたつもりが殺してたら洒落にもならないので、一応確認も兼ねて近付いていく。怪我をさせるのだって、これからを思えば悪手であり本末転倒にもなりかねないのだから当然だろう。

 そうして、今の俺の格好と極度の緊張状態に置かれただろう者達を前に考慮すれば、流石に真っ直ぐと近寄る気にはなれなかった。

 故に、その役目はそれまでほぼ棒立ちをしていた、眼の前の巨躯に向けて命令を下す事で成す事とする。


「あ、あの肌色の奴を拾って来て。勿論、全部ね。抵抗するようなら、捨て置いていいから。」

「――……。」


 それに応じたのは、低い唸りを上げて進む土の巨人。

 なんて事はない、錬金術で即席にこしえたクレイ・ゴーレムだ。俺の対ゴブリンの防波堤だったものである。まぁ、結局は辿り着かれる前に倒したのだから、意味が無かった存在なんだが。

 そんなクレイ・ゴーレムの後ろ姿を眺めつつも、足元の地面に現れたえぐれた穴を見て、ぽつりと俺は呟いた。


「しかし、土の塊じゃなくてもクレイ・ゴーレムと呼ばれるのは謎だな。」


 たまに思うんだが、名称はしっかり合わせろと言いたい。いや、マジでさ。

 しかし、そういった類はホイホイ変えていると混乱を来たすとかで、滅多に議論されてこなかった。その弊害が今のこれである。クレイ・ゴーレムと言う名の、今作ったのは岩なのでストーン・ゴーレム辺りが正しい名称だろうか。


「動けよ、上。というか、議員ども。」


 思うのは、奴らのどうでもいい議論内容である。

 ゴブリンが亜人か別種類かに分類すべきかで、無駄に討論するだけの余地があるのなら、尚の事だろう。

 つーか、ゴブリンの分類とかすっげぇどうでもいいじゃん?馬鹿だったの?マジで馬鹿だったの?上の皆様方って。

 それよりも各地で相次いだ謎の現象解明と民の避難誘導が重要だっただろうに――。


「うん。馬鹿だったんだろうなぁ。何せ、金の亡者だったし、それ以外居ないってくらい、腐ってたしなぁ――って、お、持ってきたか。」


 過去に意識を飛ばしてると、荷物よろしく運ばれてきたものをゴーレムがそっと地面に下ろした。

 見る感じ、肌色をした――おそらくは人間であろう。

 飛び出してる足の大きさ的に、年の頃なら十代前半だろうか?健康状態が悪くて発育不全とかじゃなければ、多分12かそこらだろうと思える足の大きさである。

 それを見て、ひとまずは回収に成功し、まだゴブリン共の集落の方からは気付かれていない様子にウンウンと一人頷いた。

 流石は俺だ。師匠の地獄の特訓に付き合いきれただけある。ここまで何一つとしてミスは犯していない。


「とりあえずはミッションコンプリートってところだな。あとは、言葉って通じるのか?あ、それ以前に意識あんの?こいつら。」


 簀巻すまき状態から僅かに出てるのは素足だけだ。普段から裸足なのか、あるいは靴の品質が悪いのか、その足は酷く硬質的になってるように見える。

 仮に普段から履物があったとしても、余り質の良い物は使っていないだろう。触れて見れば、子供の足にしては硬すぎる感触が返ってきて顔をしかめた。

 そして、そんな子供でも、わざわざ生きた状態で運ばれたくらいだ。となると、苗床にするつもりだったのだろうなと当たりをつける。


「――生きてるよな?死んでないよな?」


 そのあたりから考慮すれば、この三つの簀巻の中身は女の子の可能性が高いんだが、死体相手に盛るんじゃなければ生きているはずである。

 ただ、余りにも反応が無いので、簀巻状態から開放してやり、三人の脈を確かめた。

 一応――確認してみると、息も有り、若干疲労の色が見えるが、規則正しい呼吸音が見て取れた。これなら大丈夫そうだ。


「ああ、うん、とりあえず良かった。無事みたいだな――でも、これからどうしよう?」


 助けたはいいのだが、ゴブリンの集落は目と鼻の先。気付かれるのも時間の問題だ。さっさと移動した方がいい。

 となると、早々に撤退というか、撤収した方がいいだろう。


「ま、今後の方針は――目が覚めてからでいいか。」


 ひとまずは移動だ。移動。

 この少女達が一体何処から来て、何者であるのかとかは、起きてから聞き出せばいい。少なくとも山賊とか野盗の一味って線は薄いしな。

 俺はそう判断を下して、見晴らしの良い草原でゴーレムに再び指示を出すと、子供達を運ばせながら森の中へと戻っていった。 


 ハーレムものならここからハーレムスタートなんでしょうが、当作品ではそんな可能性は欠片もありません。

 よって、有り得る反応がこの後起こります。


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