088 閑話 その錬金術師は土産片手に訪問する
開拓村村長、メルシーちゃんのお爺ちゃん目線。短め。
「――お久しぶりです。」
「ふぉ?」
鶏達の中、聞こえてきた声に振り向けば、そこに居たのは白髪の美女――ではなく、ルーク殿。
春先に一度村を訪れた後、領主様にお呼ばれしてしまって、それからしばらく姿を見せなかったのじゃが、どうやら元気な様子じゃのう。実に喜ばしい事じゃ。
「久しいのう。お元気にしとったかぁ?」
そう尋ねてみれば、
「ええ。少し長旅となってしまいましたが、この通り元気ですよ。」
髪が真っ白になっておるが、それ以外は何時もと変わらない様子じゃ。
思わずウンウンと頷いて返していると、ニコニコと笑みまで浮かんできた。
「良かった良かった。領主様にお呼ばれしたと聞いた時には、心配したもんじゃてなぁ。元気そうで何よりじゃぁ。」
笑う儂に、ルーク殿も微笑みを浮かべて返す。
巷では救世主様なんて呼ばれておるが、全く偉ぶる様子も無くて変わりが無い。孫娘とも仲良うしてくれて、ほんに有り難い事じゃて。
「その節はご心配おかけしました。それで、あの、これ、よろしかったらどうぞ。」
「ん?何じゃ――?」
そんなルーク殿に渡された品を受け取って、勧められるままに包みを開いてみれば、中から出てきたのは木製の木箱が二つじゃった。
小さな方を開いてみると――成る程、プレゼントというやつかのう。中には向日葵の飾りが付いた、可愛らしい髪留めが入っておった。
「これをメルシーにか。あの子の好きな花じゃなぁ。」
向日葵は孫娘の大好きな花の一つ。
毎年大輪の花を咲かせるこの花は、開拓村であるここへ移り住む前の故郷には、一杯咲いておった花じゃ。
「買ったのは夏だったので、黄色が好きみたいですし、どうかなと思いまして。」
ルーク殿の言葉に、儂は笑みを浮かべたままに、しっかりとお辞儀を返す。
「うんうん、きっと喜ぶじゃろう――有難うなぁ。」
「えっと、まだ、そっちの大きい方もありますので、ご覧になっていただけますか?」
「うん?」
そういや、箱は二つじゃったな。小さい方を開いたばかりで、すっかり頭から抜けてしまったのう。
言われるままに大きい箱を開いて、中を覗き込む。
「おお、おお――。」
そこにあったのは、
「腹巻きか!」
「いえ、腰椎バンドです。」
「……。」
腹巻きじゃないのか?何か違うのか?
「ようついばんど?」
「はい。腰が曲がらないように補助するものの事ですよ。」
「うん?」
儂、ようついばんどを知らん。そして分からん。
戸惑いながら首を傾げて見せると、腹巻きにしか見えないそれをルーク殿は儂の腰に確りと装着していった。
「以前、腰を痛めていらしたでしょう?」
「そうじゃな、今はピンピンしとるぞいっ。」
そればかりか、元気いっぱいじゃ!
最近は鶏達と柵の中で追いかけっこをする事が多いからのう。
あやつら、捕まえられるのを恐れて逃げるんじゃ。おかげで走り回る事が増えたわい。
「まぁ、薬で治りましたからね――ただ、生活環境からまた徐々に腰が曲がってしまったりするので、それを防ぐのと、更には補助になればと思いまして。」
「うん?」
さっぱり分からん儂、またもや首を傾げる。
腹巻きにしか見えんこれが、ようついばんどというのは分かった。分かったんじゃが――どういうものかまでは良く分からんぞい。
そんな儂を見かねてか、ルーク殿は「腰を曲げてみて下さい」とか「反り返ろうとしてみて下さい」と指示を出す。それに、儂はその通りに動こうとしてみて違和感を感じ取った。
「ん?んんん?」
なんじゃぁ?動き難いのう、これ。
こりゃ、動きが阻害されておるのか?
「なんとも曲がりにくくなったのう。」
顔を顰めてみせた儂に、
「それが補助の効果ですよ。卵を拾う時に、どうしても腰へ負担をかけてしまっているようだったので、丁度良い材料もあったので作ってみたんです。どうですか?」
「うむ、確かに、腰に負担は感じないのう。」
言われてみれば確かに、また曲がってきていた腰がシャキッとしてる気がするかの?
――うむ、そう考えてみれば、中々良い品じゃ。
これは、他の者に自慢も出来るぞいっ。
「良いのう、良いのう。今ならダンスもできそうじゃ。」
「えっと、程々にされてくださいね。あくまでそれは、補助なので――。」
「ふぉっふぉっふぉっ。」
上機嫌で笑っていた儂じゃったが、この後孫娘にルーク殿からのプレゼントを渡すのを忘れてしまい、後日怒られたのじゃった。
調子に乗りやすいお爺ちゃん、その調子の良さを買われて村の村長なんてやってます。
そんなお爺ちゃんに物心ついた頃から育てられてきたメルシーは、祖父譲りのおっとりとした性格で、確りしようとしつつも天然ぽやぽやです。
故に、後日怒られたといっても「おじいちゃんずるいー!」と責められただけで、メルシー宛の土産を思い出した彼はあっさりと窮地(?)を脱していたり。
尚、次話からようやく錬金術師らしい話となります。筆が進むわー!




