087 その錬金術師は自宅を目指して旅をする⑦
自宅目指しての旅シリーズはここまで。
昨夜遅くまで、ロドルフ達一行の打ち上げに参加した俺。
だが、宿に併設された酒場から出てくる酒は苦い、不味い、温い、そしてアルコール度数が高いと、とてもじゃないが飲む気になれない物だった為に、様子を見て辞退しておいた。
そうして、一夜明けた今現在。
「み、水……。」
「はいはい。」
宿では飲みすぎて二日酔いに呻く者で溢れかえり、そこかしこで撃沈した冒険者達の姿があった。
フラフラと動き出す姿はまるでゾンビだ。水を求めて彷徨う辺り、死に損ないと言えるだろう。
それを押し留めて水と薬を出しておくと、微かに感謝の声が返ってくる。
なんとも言えない気分で、俺はため息を吐き出した。
「こうなる前に、今度からは自分達で程々に止めておけよ――水と交互に飲むだけでも、多少はマシになるから、それだけでも徹底するようにしとけ。じゃぁな。」
多分、言っても聞かないとは思うが、ぐったりとしているままの彼等にそう告げておき、一人帰宅する為に宿を出た。
早朝の貿易都市は既に人々が起き出して来ている為か、少し騒々しく、朝市を建てる為に動き回る人が一杯だ。
そんな中をすり抜けつつ、門を目指す。
遠目に見えている門は閉まったままだったが、既に数台、荷馬車が止まってるのが見える。
どうやら彼等は行商人らしく、門が開くのを待っているようだった。
「一年前に比べると、随分と賑やかだなぁ。」
そこまでの道をゆったりと歩きながらも、去年の事を思い出す。
あのときはスタンピードと勘違いされてしまい、住民が逃亡していた。その時と比べると、遥かに人の密度が濃く感じられる。
もっとも、パレードと称した見世物扱いを受けた時からすれば、今度は疎らだと言えるのだろうが。
(まぁ、それでも人口自体は増えてそうだな。)
一部の兵士が犠牲になったようだが、都市では建造物などへの被害が無い。
この為に、そのまま人が住み直して一気に復興したのだろう。早朝にも関わらず、かなり賑やかだ。
それを横目にして過ぎ去り、門の前へ。
そこで立つ兵士に声を掛けて、一枚の書類を広げて見せた。
「こんな時間だが、これで通れるか?」
「――何だ?」
書類は王から渡された物だ。基本的に、国内であればどこでも通用する品らしいが、実際の所どうかは知らない。
それでも、ここは王弟が治めている土地。多分大丈夫だろうと、兵士に手渡した。
そうして待つ事しばし、
「ど、どうぞ、お通り下さい!」
しばらく気付かない様子だった兵士だったが、素っ頓狂な声を上げて、手渡した書類を返してくれる。
手渡した書類の最後に押された印は、王家の家紋だ。それに気付いたのだろう、彼は途端にビシッと敬礼をして見せ、貴賓だけが通れる門の扉を開いてくれる。
それを潜りながらも、俺は片手を振って通り過ぎた。
「早い時間に済まないね。また来ると思うから、その時はよろしく頼むよ。」
「は、はい!」
書類は所謂通行証の類。王直々の許可が書かれている品なので、一般人とは別の扱いを受ける事になる。故の貴賓専用の門口に向かったわけだ。
一種の特権階級みたいな扱いだが、貴族とは異なる。この為、そこだけは注意が必要だろう。
主に、貴賓専用通用口を通る際に、貴族が居たら避ける等だ。
「んーっ。ようやく、家に辿り着けそうだ。」
そんな注意点を思い出しつつ、門を出てしばらく歩いたところで、伸びを一つする。
冒険者達が寝泊まりしている宿は、主にベッドが藁を詰めた代物な為、寝心地は余り良くは無い。
それによって多少残ってしまった疲労感を引きずりつつも、青空が覗く草原の上、出来た轍の道を進んでいく。
思い描くのは、家や畑の事だ。特に、畑の一角を占領している薬草がヤバイ。大繁殖起こしてそうな気がする。
(戻ったら畑の整理と、家の中の掃除、それに買ってきた種の植え付けだな。)
ついでだし、メルシーちゃんと村長にお土産でも渡して行くか。
そんな寄り道も決めつつ、歩いて行く。
王都からようやく帰還を果たせる事になった俺の足取りは、残る疲労感も感じさせずに、心同様にどこか浮足立っていた。
ようやく主人公が自宅に帰還。長かかった。
高いかに思われたお酒ですが、一部原料が安い物(芋類)は酒にも加工されていて、一般層へも普及しています。
故に、作中の主人公が飲んだのは芋焼酎でした。好みがとても分かれるお酒ですね。
しかも、ロックとは名ばかりの原液で渡されて、主人公は氷を入れてちまちまと飲んだ模様。冒険者達はといえば、豪快にそのまま飲んだようで、翌日がご覧の有様となっています。




