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073 その錬金術師は変態を見つける

「――で、その人は足が無くて歩けないんだな?」


 足が折れた青年を荒療治した後、歳を取りすぎて動けなくなったご老人や、風邪で体調を崩した者のところを回り、最後にと案内されたのは元冒険者だという女性の所だった。

 こんな場所で女性が生きるのは難しいものがあるだろうと思っていたのだが、何でもその人物は魔法が使えるらしい。そのおかげで、ゴロツキだろうと下手に近付けないのだそうだ。

 今では他の女性達を匿う立場にもあるという彼女は、スラムの中での安全に一役買っているのは間違い無い事だろう。今後、色々と使えそうな人材だった。


「前はぁ、腕の良い冒険者だったらしいんだがなぁ?魔物に足を潰されたらしくってよぅ。可哀想に、パーティーからも追い出されてぇ、復帰がぁ難しかったらしいぃ。」

「それ、良く生きてたな?」


 案内を名乗り出た元開拓民だという男性に着いて行きながら、俺はその人物について情報を得ようと疑問を口にする。

 それに、平凡そうな彼は、なまりのある喋り方でいぶかしる事も無く教えてくれた。


「何でもぉ、虎の子のポーションを飲んだってぇ話だぜぇ?それでぇ、一命だけはぁ、取り留めたってぇ聞いたなぁ。」

「へぇ。」


 現代で出回るポーションの類は、魔道文明時代の遺産がほとんどだというのは、既に情報として得ている事だ。

 一部だけ、魔女と呼ばれる人々が作っている物もあるらしい。だが、こちらは表では流通していない品で、主に王侯貴族だけが手にしているとか何とか。

 その理由は保存期間の短さと材料の高さにあるようで、せいぜいが一年保つか保たないかという程度の物だというのが大きな理由だろう。つまり、庶民では手が届き難い。

 この為、一般市民等は医者の元で処方される薬を使うのが主流となっていた。


「他に宛も無ぇからぁ、どっこにも行けなかったんだと。」

「ああ、それで、スラムに転がり込んだのか。」

「んだんだぁ。」


 身寄りも無く、職も無ければ行き着く先は大体決まっている。

 若い女性なら五体満足でさえあれば、まだ娼婦の道もあったかもしれない。だが、足が無いって話だしな。客を取るのも難しいんだろう。

 

「まぁ、そういうわけなんでぇ、今は貯金食い潰しながらぁ、暮らしてるらしいんだぁ。でも大変そうでなぁ、オイラも気にはかけてはいるんだぁ。」

「ふーん。」


 心配した様子を装ってはいるが、この男、下心満載って可能性もある。次からは、案内無しで向かうのが良さそうだ。


(しかし、魔法が使えるんなら、どっかに家庭教師としてでも転がり込めないものかねぇ?)


 触媒や魔術陣が必要な魔術とは違い、魔法はイメージで発動するのが分かっている。

 故に、呪文と呼ばれる言葉を発したり何らかの動作をしたりするのは、あくまでそのイメージを明確にしやすいようにする為の補助だ。

 そのかわりに、適正があれば発動させやすいのが魔法の利点で、先天的な才能とも言われていたが、実際の所どうかまでは不明だ。


(そういや、魔法使いも魔術師も滅多に見ないな?)


 そんな魔法だが、思い起こしてみれば、町中でも王城でもそれらしい者の格好をした人物を滅多に見なかった。

 王城の中には一応、魔法師団とかいう魔法使いの集団が若干名居たが、それだって剣士系の兵や騎士と比べると人数は極端に少ない。


 俺も含めて、魔法使いや魔術師というのは、概ねローブとかコートを着てたりする。


 何せ、運動関係はからっきし苦手というタイプが多いからな。鈍臭いのも多い為に、大抵は厚手の布製の防具で身を護る傾向にあるのだ。

 これは建物の中だろうと変わらず、主に魔力の操作に失敗した際のダメージを減らす為の工夫だ。個人的には、戦士系の者達が身につける鎧なんかが羨ましい限りで、何とか身に付けられないかと試行錯誤した事もある。

 ――まぁ、失敗したが。


(現代では、更に数が減ってるのかねぇ?)


 ただ、そんな魔法使いや魔術師を見る機会自体、めっきり減っている現状に思えるのが不思議だ。

 一体、何でだろうか?


(魔力量の測定とか技術面で逸失したものが多いのか?)


 もしそうだとすると、魔術師は元より、魔法使いすら中々増えない状況にありそうだ。

 しかも、それで教えたくとも教えを乞える人間が居ない、とか。

 この予想が当たっているなら、ここまで衰退しているのも頷けるものがある。

 かつては空を飛び交う船や人々が居たからな。王都なら上空を行き交う為の発着場とか門も専用であったし、それが無いって事は飛行魔法も失われてるのかもしれない。


「おお、あそこだ。」


 そんな事を色々と考えつつ歩き続けて、ようやく見えてきた建物。それは、石造りの一軒家だった。

 平たい石を積み上げて、間にはモルタルっぽいものが接着剤代わりに使われている。おそらくは手作りなんだろう、何ていうか、俺が作った家同様にどこか歪である。

 しかし、周囲の建物が崩れかけの廃屋同然の建築物だったり、枝と縫い合わせた布や革で作ったテントもどきが立ち並ぶ中で見るなら、まだまともな部類だと思えた。

 良く見れば補修の跡も見られる。度々手を加えているようなので、中で暮らしている人物はそれなりに余裕もありそうだ。


「おーい、サリナさんやぁ。」


 そんな建物の中へと向けて、声をかけて入っていこうとする案内役の男性。

 若干、嫌な予感がしたので、扉と男性との対角上には立たないよう、俺は敢えてその手前で足を止めた。

 これに、後ろから着いてきていた兵士達が怪訝そうな表情を浮かべたものの、すぐに彼らも納得顔になって同じ方向へと首が動く。

 何せ、


「ぐぶう!?」


 入ろうとして扉を開けた瞬間に、派手な音と共に案内人が吹っ飛んで転がって行ったからだ。

 思わずそれを追って、視線ごと首が横に動く俺と兵士達。

 ――どうやら、中の女性とは余り友好関係には無いらしい。


「うちには来るなってあれ程言っただろう、一体、何しに来た!?」


 そうして飛んできた罵声は、まさに不機嫌なのがありありと分かる程には苛立ちが籠められていた。

 どうにもこの状況は面倒な予感しかしない。だが、それ以上に面倒な人物が居たのだと、俺も兵士もこの時になって知る。そうして、揃って無言になってしまった。


「ああこれだ、これぞサリナさんだ。流石はオイラが惚れた一撃――だぶげらッ!?」

「「……。」」


 恍惚とした表情で、何やら危ない事を言いかけた案内役の男が、再び魔法を食らったようで吹っ飛んでいく。

 いきなり地面からニョキッと生えてきたそれは、見間違うはずもない土塊で出来た拳だ。それが、下から掬い上げるように綺麗に振り抜かれて、軽々と変態をぶっ飛ばして地面の上に崩れ去る。

 思わず、兵士達と顔を見合わせた。


「ったく、来るなっつってんのに、しつこいんだよ!」


 件の声の主は絶賛不機嫌な状態にあった。

 声をかけるか迷っていると、丁度女性が扉を閉めようとしてか姿を見せる。

 ――まぁ、口の悪さはともかくとして、見た目としてはかなり若い部類で、整った容姿をしているだろう。年齢は多分、十代半ばくらいじゃないだろうか。

 少女らしいあどけなさが多分に残る幼い顔立ちに、肩口で切り揃えられた黒髪と同じ色の瞳。それが、余計に彼女を若く見せている気がした。


 だが、見た目取りに子供にしか思えない年齢で居続けられる程、ここは甘くも無いだろう、きっと。

 例え魔法が使えても、魔力切れを狙って捕まえられ、奴隷商辺りに売り払われるのがオチだろうし、それもなく過ごせているあたり、頭も悪くは無さそうだ。


(でも、話にあった通りに下半身は駄目っぽいな。)


 見れば足首から先と、脹脛ふくらはぎから先の無い両の足が見えた。

 歩こうにもこれではバランスが取れないだろう。おそらく、松葉杖すら多分無意味な状態だ。これで何とかしようとするなら、義足一択しかないと思われる。


(うーん、失われたものは、流石に取り戻せないからなぁ。)


 せめて、千切れてさえいなければ、整形による手法で多少は何とかなったかもしれない。

 だが、無理なら無理で仕方無い事だ。ここは木材を加工して義足を作るしか無いと判断する。

 まぁ、それだけでも、立って松葉杖着いて動ける程度には回復するはずだからな。とりあえずの目標としておこう。


(うん、それだけでも、活動範囲を広げる事には繋がるだろうしな。)


 ただ、魔法で閉めればいいのに、足が無いせいか扉を閉めようとして四苦八苦してる。

 魔力の無駄遣いを避けているのか何なのか知らないが、丁度良かったので意を決して声をかけてみた。

 ――吹っ飛ばされませんように。


「ちょっといいかーい?」

「あ?」


 それに対して返ってきたのは、不機嫌さを隠しもしない声。更にはガンまで飛ばしてきたが気にしない。気にしないったら気にしない。この程度で引いていられるかってんだ!

 盆に乗せた料理を匙ごと片手に持って、尋ねてみる。


「国の方で炊き出しを数日前からやってるんだが、あんた取りに来てないだろ?どこに置いたらいい?」

「ああ?」


 二度目のガン飛ばし。

 ――機嫌が悪いのか元からこうなのか判断に困るな、これ。

 ただ、何でこうもきつく当たられているのかはそれとなく察せるので、俺は転がったまま時折ピクピクしてる案内役だった変態を見て、声のトーンを落として指さした。


「そこのMとは違って、こっちは仕事で来てるだけなんだ――一緒にしてるようなら止めてくれない?」

「あー……。」


 これに、若干だが女性の態度が和らいだような気がする。

 そうして、マジマジと観察されてから顎で示された。


「中にテーブルあるから、そこにでも置いといて。」

「了解。」


 とりあえずは、ご同類にされるのは避けられたようである。

 俺は兵士に目配せしてから、一人中へと入った。

 丁度良い感じに役割が果たせそうだと思いながら――。


 何の役割かは次回に持ち越し。


 2018/10/29 加筆修正を加えました。074の内容と本文を間違えていた為に訂正しました。

 2018/11/14 ご指摘いただいた脱字の修正をしました。


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