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069 閑話 その錬金術師は庭師と駄弁る

 予告通り庭師(♂)とキャッキャウフフ(植物談義)する回。

 作者的にもキャッキャウフフ(単純に書いてて楽しい)回です。


 夏は植物の成長が著しい季節じゃ。その為、雑草の引っこ抜きには何時も追われとる。

 なんたって城の中は広いからの。庭も相当な面積になるんじゃ。

 そんな広い庭の中、見習いを含む庭師全員で雑草の取り除き作業に追われていた時じゃった。


「――あんた、何やっとるんじゃ?」

「ん?」

「失礼、何をしていらっしゃるのでしょうか?」

「んー。」


 言い直したものの、相手は一向に顔を上げない。

 気が付いたら、引っこ抜いたばかりの雑草の山に頭を突っ込み、漁ってる者がおった。

 見るからに高級な服を着ていながらも、当人は汚れる事を気にした様子が無いのう。

 貴族としては流石に破天荒過ぎる。どっかの商人か何かか?

 しかし、――一体、この御仁、何がしたいのじゃろうか。

 何かを探しているようじゃが、雑草の山から顔も上げずにずっと漁り続けてる。

 城の中で汚れるのも構わぬとは、うむ、その意気や良し!


「何か落とし物ですかの?」

「いやー、そういうわけじゃないんだけどな。」

「?」


 落とし物じゃ無いのなら何じゃろうか?

 ただの雑草なんぞ欲しがる物は居らん。それよりも、お貴族様でもなければ商人でもない言動、何か引っかかるの。

 そのままジッと見ておったら、程無くして件の人物は顔を上げて奇声を上げよった。


「ふぉおおおお!やっぱりハスだったああああ!」

「――は?」

「これ!これ!」


 興奮した様子で取り出して見せられたのは、一本の葉っぱ。何の変哲も無い、緑色の円を描く、唯の葉っぱじゃ。

 城の池で増えすぎて他の水性生物の妨げとなるから間引いた若芽わかめなのじゃが、どうにもそれを探しておった様子じゃな。

 しかしのう、そんなに興奮されても、儂には何の事か全く分からんぞい?


「それが、どうかなされましたかの?」

「貰ってもいい!?」

「は、はぁ、構いませぬが――どうされるので?」

「薬になるんだ、これ。葉も花も花托かたく根茎こんけいも全部!」

「ほほう。民間療法に使われている薬の事ですな?」

「そう!」


 どうやらこの御仁は薬師の様子。儂らにとっては最早雑草でしかなくとも、宝の山に見えておるようじゃの。見るからに生き生きとしとる。

 儂も昔はよく蓮の葉で葉粥を食ったのう。春の七草粥同様にあれも身体には良いもんじゃて。

 根茎の蓮根レンコンもまた美味じゃ。煮込み料理にするとシャクシャクとした触感で実に歯触りが良い。


「蓮根?摩り下ろしてハンバーグにするのも美味いぜ。」

「おお、それは年寄りにも優しそうな食べ方ですな。」

「味付けは醤油か照り焼きがお勧め。大蒜ニンニクで香り付けするのも有りだな。」

「ほうほう。」


 喋りながらも更に雑草の山を漁りよる。

 そして選り分けては、あれこれと取り出しては「これもいい!?」と尋ねてくるもんじゃから、


「お好きな物をお好きなだけお持ち下され。そこにあるのは廃棄する物ですからな。」

「廃棄とかマジで!?勿体無い!」


 承諾したら、全部纏めて持って行く勢いで選り分けを始めよった。

 しかしなんじゃのう、雑草ばかりと思っとったが、食べられる物も多いのう。


白藜シロザか、お浸しにするとこれもまた美味いが、最近は余り食べなくなったのう。」

「なら、虎杖イタドリは?生でも食えるし悪くないだろ?」

「虎杖は余り大量には食えんじゃろ?調理するにしても面倒でなぁ。」

「あー、一々揉まないとならないのは、確かに面倒臭いかもなぁ。」


 虎杖は味噌汁の具にもなるが、その前に粗塩で揉まんと持ち味の酸味が抜けてしもうて美味くならん。

 他の野菜と同じに考えとると、良く失敗するからの。この辺りは婆さんと良く喧嘩になったもんじゃて。


犬莧イヌビユ猪子槌イノコヅチは調理しやすくて美味いんじゃがなぁ。」

「こっちも捨てられてるが、最近は食べないのか?」

「王都ではそうじゃのう。どれも食えるんじゃが、野菜が豊富に収穫出来るようになってきてからは、めっきり口にする機会が減ったもんじゃて。」

「なんつーか、それはそれで良いんだろうけど……。」

「うむ、勿体無いもんじゃなぁ。」


 食い物は粗末にしてはならん。

 そう、教えられて育ってきたはずなのに、いざ食い物が溢れる時代になったら、途端に雑草として捨てよる。


「この雑草とて、昔は貴重な食料じゃったのになぁ。」


 そう思い直してみれば、このまま捨てるのはなんとも勿体無い話じゃ。

 しかし、持ち帰ってみても、調理する婆さんは嫌がるじゃろうし、ううむ。


「俺にとっては商品の原料でもあるんだけどな。」


 ぽつりと呟かれた言葉に、儂は目を瞬く。

 どうやら最近出入りし始めた御方のようじゃの。薬師の交代でもあったか?


「ふむ。やはり、薬師殿じゃったか。」

「いや、錬金術師だぜ?」

「うん?れんきん――?」


 はて、れんきんとやらは何じゃったろうか?

 何時ぞやに聞いた気もするが、歳のせいか最近は良く思い出せない事も多くなってきた。

 まだまだ現役でいたいもんじゃが、頭の方のボケはどうしようも無いの。こっちに効く薬とか無いもんかねぇ。


「あー、えーっと、薬師みたいなもんだと思ってもらっていい。それに、ちょっとした鍛冶技術とか、彫金とか医学とかが混ざってる感じで分かるかな?」

「ほうほう。随分色んなものが詰め込まれた職業なんじゃな?」

「そうそう。」


 儂の知っとる薬師は薬は作るがそれだけじゃの。確かに、鍛冶や彫金が出来るなら薬師の範疇では留まらんか。

 世の中にはいろんな職業があるのう――おや、大葉子オオバコまであったか。きんぴらにするとこれはこれで美味いんじゃよ。


「派生元とも言える学問だからな。基礎ばかりではあるけど、いろいろな分野に首が突っ込めて幅広く仕事が出来るよ。」

「おお、それは何とも楽しそうじゃ。」

「だろ?水属性の魔法が得意なら、これ以上無いってくらいに適正な職業だぜ。」


 魔法か。使える者は少ないが、戦争でも無ければそういう仕事もあって良いのう。


「お、露草ツユクサ見っけ。」


 そういって次に出してきたのは、小さな青い花が特徴的な野草じゃった。

 あっさりとした味で食べやすいやつじゃの。そういえば、婆さんの好物じゃったなぁ、これ。


「お浸しにするのが多いのう。」

「おう!干してお茶にしてもいいぜ。何せ、解熱薬にもなるしな。」

「それは使い勝手が良さそうじゃ。後で婆さんに教えてみるかの。」


 その次に出てきたのは雪のユキノシタ。一年中食べれる野草じゃな。

 一緒に取り出されたナズナは冬の貴重な野菜じゃったはずじゃが、今じゃ雑草扱いなのがなんとも寂しい事じゃて。


片喰カタバミまであるのか。本当にこれ、捨てるのは勿体無くないか?」


 片喰は小さな黄色い花を咲かせる野草じゃな。ハート型の葉っぱが可愛らしいものじゃ。


「ううむ、確かにこうして見直してみると、食える物がこれだけ出てくるのは惜しくなるのう。」


 滑莧スベリユなんかは昔は保存食にもしておった。

 肉厚な葉が美味しいが、一応これも雑草じゃの。独特の滑りが堪らん一品じゃが、とんと口にしなくなってしもうたわい。


 ――思えば、贅沢に慣れすぎたのかもしれんなぁ。


 開拓村で生まれ育った昔では食べる物も無くて、その辺の野草を詰んでは口にしておったというのに、それが今じゃただの雑草扱い。

 随分と贅沢になってしもうたもんじゃ。


「なぁ、肥料としてき込んで混ぜないのなら、持ち帰って食べれるようにしたりしたらどうだ?これだけあれば、スラム街の奴らの健康状態の向上にもなると思うんだが。」

「それは、陛下のお許しが出なければな――。」

「ああ、成る程。勝手に持って帰ると、城の物を盗んだって事になるのか。」


 いや、それよりもスラムの者に持って行くという発想がおかしいと言いたいのじゃが。

 しかし、この御仁、儂の言いたい事が伝わらなかったようじゃ。何かを決心した様子で、ガバリと立ち上がったかと思うと、こんな事を宣いだした。


「よし!掛け合ってみよう!」

「ほ?」


 そうして走り出した御仁じゃったが、その姿はまさかの美女じゃった。

 てっきり男かと思っておったが、男装の麗人とは畏れ入る。しかも、泥まみれになっても気になさらんとは、とんだお転婆じゃのう。


「ありゃ、何じゃったんだじゃろうか。」


 しかし、最後に見たものには魂消たまげたわい。

 突然景色が割れて、中には山のように詰められた透明な瓶が並んでおったからな。

 あれの中身が全て薬だというのなら――とんだ薬師殿もいたもんじゃて。


「いや『れんきん』じゃったか。面白い職業もあったもんじゃ。ホッホッ。」


 金属の塊に、大量の薪。保存食の類なのか、魚の干物も見えたのう。いやはや凄いこって。

 あれが夢幻ゆめまぼろしでも無かったら、相当な物資を貯め込んでおるという事になるな。

 もしもこの国に何かがあったとしても、あの御婦人なら一人でも生きていけそうじゃ。


「しかし、何を掛け合うんじゃろうか?」


 最後に述べた言葉が分からなかった儂は、その後駆け戻ってきた『れんきん』の御婦人によって大いに驚かされる事となる。


 何せ、国王陛下直々にお越しになられて、スラム街での炊き出しが命じられたからじゃ。


 その後ろには兵士達が並んでおるわ、彼らに野草の調理法を教え込む事になるわ、始終転手古舞てんてこまいじゃったわい。

 終いには儂の婆さんと孫娘まで呼び出される始末じゃ。前代未聞の事態じゃぞ?


「でも、これで腹空かせた子供達が減るなら、安いもんだろ?」


 婆さんも孫娘も生まれて始めて城に入れて喜んでおったし、そういって笑った『れんきん』の御婦人には、まぁ、儂としても頷き返すしか無かったがのう。

 子供は何時の時代でも可愛いもんじゃて、なぁ?


 はすの根っこは蓮根れんこん――割りと有名な話じゃなかろうか。

 合わせて今回は一杯薬草や野草の話が出てきてます。

 田舎なら多分、見た事のある物が一つくらいはあるんじゃないかと予想。都会だと――どうなんだろう?


 ランキングに参加してみました。

 作品と好みが合う人が来てくれて、尚且つファンタジー(冒険・生産メインの)作家が増えるのを期待。

 ファンタジーと言いつつ恋愛・ハーレム系はもうお腹一杯なんです。検索かけても好みが中々見つからないのが辛いんだよ。ぐぬぬ。

 ――誰か書きませんか?割りと本気マジで。(他力本願)


 2018/10/23 加筆修正を加えました。庭師の性別勘違いに関しておかしく感じる部分があったので修正しました。

 ↑2010ってしてたけど間違えました……。


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