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060 その錬金術師は機会を伺う

 魔法であっさり全てを無効化した主人公。その弊害に気付かなかったというオチがあった。


 凍てついた秘密の通路なんだが、あっさりと事は露呈している。

 何せ、俺【凍結】使ったからね。仕方無いね。秘密のはずの扉も氷漬けだよ!何処に行ったのか、とっても分かりやすいね!やったね!

 尚、その隠し通路の扉が溶けるまでかなりの時間がかかった模様。その溶けるまでの間に、更には王女付きの兵士はモタモタして捕まったようだ。阿呆である。


(イエーイ、籠の鳥どころか行方不明だぜーイエーイ。)


 その時の様子を壁越しに感じながらも姿を眩ませた俺。只今絶賛潜伏中である。

 何でかって?

 ――ここ、情報収集に良いんだよ、割りと。


「まだか!?まだ見つからないのか!?」

「今、全力を持ってして捜索中です!」

「ええい、何時までかかっている!事は朝から起きているのだぞ!?」

「はっ、申し訳ございません!」


 怒られてるのは兵士とかだろう、多分。

 そして怒っているのは、声からして王弟サイモン殿。こうして取り乱しているところを見るに、この人は白、と。


「まぁ、そう怒るな。」


 そんなサイモン殿へゆったりと話すのは、この国の王様だろう、きっと。

 若干声が震えているのは、寒さからだろうか。カップとソーサーがぶつかる音もするし、お茶の時間とかそんな感じかね。

 いやぁ、城の秘密の通路って、大体城内のどこにでも通じてたりするんだな。俺ってば、そこを凍結したもんだから――冷気があちこちから降りて来ているっぽい。

 つまり、この城の中は何処だろうと寒くても何らおかしくはないのだ。


「これが怒らずにいられますか!」


 王様に怒鳴り返す王弟。

 この人、どうも裏表はあんまり無さそうなんだよなぁ。市井で暮らしていた時期が長かったんかね?

 そんな事を思っていると、のんびりとした声が返っていた。


「なに、彼の人なら恐らく無事だ。わざわざ入り口のみならず内部まで凍らせているようだからな。内部に犯人と繋がる者が居ようとも大丈夫であろう。」

「悠長に言っておりますが、それは根拠がお有りなのですよね?」

「いや、無い。」

「――陛下ああああああああああ!」


 王弟の絶叫が響く。

 うん、何ていうか、この王様って性格悪いよね。確実に状況を愉しんでいらっしゃるのが分かる。


 それを聞き流しつつ、俺はこっそりと移動。

 尚、既に通路の中は制圧済みだ。隠れ潜んでいた連中も、それなりの凍傷を負わせて捕縛完了してある。

 捕らえるに当たって何が面倒だったかって、殺さずに生け捕りにする事だ。殺すのは簡単だが、生かして捕らえるのって結構難しいんだよ。例え相手の動きが鈍っていようとな。


(戦闘は苦手だっつーの。なのに、なんでこうなってるかねぇ?)


 捕縛した連中は、唯一凍結を解除してやった一室へと押し込んである。全員黒尽くめの姿だったから、完全に言い逃れも出来ないだろう。つまり、見つかれば即アウト。

 その上で、全員満身創痍で凍傷が酷いもんだから、例え今後生存出来たとしてもまともに動く事も出来なくて絶望的である。

 きっと、その事について今は自分達がしようとしていた事に良く良く後悔している事だろう。もし、後悔してなかったら後で息の根止めてやるっ。


(大体、人を殺そうとしておいて許すわけが無いし!)


 元から俺には、殺そうとしに来る奴らへの情け等かけるはずも無い。

 そこに加えて、暗殺出来るだけの腕があるという事は、生かしておけば碌な事にはならないのだ。

 ゴブリンよりもえげつないのが、暗殺者である。奴らはさっさと潰すに限るってもんだ。


(犠牲を増やさない為にも、今後のケアは必須だろう――ここをあやふやにしてると、無関係な者が報復の対象にされたり人質にされたりして泥沼化するし。)


 故に、現行犯なら殺れ。

 師から教わった事であるが、やられたらやり返す。それは恩も仇も同様にだ。

 してもらった事へは同じ事を返せば良い。だが、全てにおいて因果応報ってものがある。

 魔術師も錬金術師もこの辺りは尊ぶ傾向にあるし、やられてやり返さないわけがない。

 だから、


(殺そうとしてきた奴が殺されかけるのも当然だし?)


 社会的抹殺じゃ生ぬるい事もあるのだし、今回のケースなんかはその一例だろう、きっと。

 特権階級お得意の『揉み消し』なんて絶対許さん。

 しっかりと、背後の奴まで逝ってもらうぜっ。


「――殿下のおくるみは未だですか?」

「毛布だけでも早く運び入れなさい。風邪を引いたらどうするのです。」

「この寒さ、どうにかならないのかしら。」


 移動中聞こえてきたのは侍女メイドらしき者達の声。

 どうやらここの裏は王子の部屋らしい。


(赤ん坊にこの寒さは、確かに不味いかもしれんな。)


 この辺りだけ、凍結を解除しておこう。ついでに、石壁を軽く熱して温めておく。

 多分、これだけでも楽になるはずだ。


「――?今、何か。」

「急に暖かくなった?」


 何かを感じ取ったらしい侍女達の声を聞いて退散しておく。

 流石に今回のこれは赤子にはとばっちりでしか無い。風邪を引くのは可哀想だ。それ故の【凍結】解除である。

 さてさて、元凶の方はどうしてる?


「――ちょっと!何でこんなに寒いのよ!」

「わ、私に申されましても。」

「そこのあんた、さっさと暖炉に火を入れなさい!いつまでぼーっとしてるの!?」

「も、申し訳ありません!只今!」

「そっちの馬鹿も気が利かないわねっ。冷茶でも果物でも無くてホットミルクくらい持ってきなさい!寒いのに何そんな物を用意してるのよ!?」

「かしこまりました、すぐに替えをご用意致します。」

「ああ、もう!どいつもこいつも――。」


 ヒ ス テ リ ッ ク 再 び 。

 普段からこいつってこうなのか?

 こりゃ、王女としての品格が無いだけでも、逆利用とか下手すると有り得るぞ。


(ただそれだと、やりそうなのは王子を生んだ第二妃とその周囲くらいだが――この陣営は動くのは悪手だって分かってるだろうし、違うところに居ると見たほうがいいよなぁ?)


 有り得るのは他にも居るが、そっちは多分尻尾を掴ませてはくれないだろう、多分。

 後、候補として上がるのは現状ではあの兵士くらいかね?しかし、あの兵士が一体何処と繋がってるかって話なんだよなぁ。


(うーん、勢力図も何も分かってないところからの陰謀暴きとか、無茶にも程があるぜ。)


 その後も彷徨うろついて情報集めたりしたが、どうにも犯人まで繋がる決定的なものが見つからない。

 王女を生んだ第一妃の父親が現在の大臣であるとか。

 第二妃は第一妃よりも身分が低くて苦労してるとか。

 そもそも第一妃が寵愛が頂けないから第二妃が娶られたんだとか。

 捕まった兵士は実は王女付きの近衛騎士だったとか。

 はっきり言って、噂と大した事ない情報ばかりが集まってきて困る。


(うーん、うーん、うーん。)


 隠し通路で一人、グルグルとしまくる。

 その間にどうやら、凍結で手足がヤバイ事になっていた暗殺者共が回収されていったようだ。

 探索魔法で部屋を感知しようとしたら、それらの気配がすっかり消えていた。その代わりに、五体満足で動き回る者達の様子が伝わってきたので魔法を切る。


(この後どうすっかね?)


 今現在、この通路の中は俺の支配下にある。なので、俺を探そうにも早々上手くは行かないだろう、きっと。

 ところどころに作った氷の壁が、捜索隊として組まれた兵士達の行く手を塞いでいるのだ。無色透明なのもあれば、真っ白なのまで色々とあり、見えない壁にぶち当たる感覚で氷の分厚い壁とキスする兵士が続出している。

 その事に関しては悪いなぁとは思うが、こちらとしてもこのままノコノコ出て行くつもりは全くもって無い。

 背後関係まで確りと洗い出した上で、揃って息の根を止めるか、あるいはそれに近いところまでいかせてもらうとも。


(ああ、しかし、肝心の証拠も情報も無い――さてさて、集まらないなら、集まるように仕向けるしか無いかね。)


 俺は次の行動へと移る。

 ここからは、化かし合いといこうじゃないか、なぁ黒幕さん?


 城にある隠し通路って、大体道幅が狭くて声とか拾いやすい描写が多いです。

 実際にリアルでもそういう目的で作っているようで、避難経路としての利用法と、平時の諜報活動としての利用法があるようですね。

 主人公はそんな場所に押し込められて、しかし隠されていた場所を目に見える形で暴いちゃった、と。

 このお城、この先大丈夫か?と思いますが、出入り口は大抵他にもありますし、兵が入った場所や誤って見つけてしまった出入り口以外を残して塞げば『無かった』事になるでしょう、きっと。


 2018/10/20 加筆修正しました。お茶→冷茶。騎士→近衛騎士。


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