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059 その錬金術師は連れ出される

 人によってはご褒美の美幼女の言動。

 しかし、作者にとっては胸糞展開です。


「こっちこっち。」

「おーい、まだ行くのかー?」

「うん!」


 手を引いて歩く、十にも満たないような幼い子供。

 メルシーちゃんよりも小さなその子供は、第ニ王位継承権を持つこの国の王女その人だ。ちなみに、第一王位継承権を持つのは王女の弟、王子殿下になる。

 そんな継承権を持つ彼女のドレスは、見頃に縦方向へダーツを入れる事によって身体のラインに合わせられた型だ。スカート部分はフレアになってる。腰での切り替えが無いし、これは本来の意味でのプリンセスラインだろう、きっと。

 色は薄紅色と見るからにあざとい。緩い縦ロールを頭の左右でツインテールにしてたりと、リボンまでつけていてこれまたあざとい。仕草も一々演じきっていて、どう考えても厄介なタイプだった。

 母親似なのだろうか、王とは似ても似つかないな。金色の髪はまさしく黄金と呼ぶに相応しいし目立つ。王弟の薄い金髪よりも色が濃いんだよ。瞳の色は濃い青で、どこに父親の血はいったんだろうって感じである。


「まだかーい?」

「まだよ!まだ!」

「はぁ。」


 そんな美幼女に若干不機嫌な顔をされたまま、連れ出された俺。何かあった時の為の保険として、司書さんには事前に話を通してあった。

 ここに至るまでの状況で、既に護衛のはずの兵は王族の命には逆らえず、現状ついて来ていないのだ。自分の身はもう自分で守るしか無いだろう。


「何よ、もう疲れたの?」

「そうですね、クタクタです。」

「意気地なし!」


 人によってはご褒美なんだろうが、罵られて喜ぶ趣味は俺には無い。むしろイラッとくるくらいだ。マジでウゼェ、このガキ。

 そんな幼女に手を引っ張られながら、トボトボと歩く俺。さっきから人と遭遇しないところを見るに、あえて人が少ない通路を選んでいると分かる。完全に厄介事だ。


(何を企んでるんだか――。)


 王女自身が考えて行動に移した、って線は余り無いだろう。相手はまだ十にも満たない幼い子供だ。そこまで知恵が回るとも思えない。背後に利用している大人の思惑がきっとあるはずである。

 そんな彼女に付き合ってる俺はというと、囮よろしく釣り餌の役目だった。

 既に王弟の領地で貴族による面倒事が回避されていた後。それを知っていて、何も手を講じないわけがない。

 最悪、力尽くで何とかするしかないだろうが、そうなる前に一手は打っておいた。それが間に合えば、何とかなるはずだ、多分。


「さぁ、着いたわよ!」

「はぁ。」


 何の変哲もない壁だったものが動き、隠されていた通路が現れる。

 その扉を開かせて、仁王立ちする王女様、ギガントウザイ。

 先に見えるのは、薄暗い通路を僅かに照らすカンテラの明かりだけだろうか。薄灰色の中はどう見ても奈落の底だ。

 そこへ押し込もうとしてか、後ろからグイグイと押される。王女なんて優雅さの欠片もないな、こりゃ。


「さっさと入りなさいよ!」

「何故?」

「いいから!命令よ!」

「――よろしいんですね?」


 冷ややかな視線を向けるが、後ろから押す事に意識が全部向いてしまっているのか、彼女はこちらに気付きもしない。

 唯一ここで佇んでいた兵はどうやらグルのようだ。俺の腕を掴んで、どう見ても王族専用の避難通路としか思えないような場所へと突き飛ばしやがった。


「――っ。」

「ふん、汚らわしい平民の分際で、私の城を汚した罰よ。さっさと野垂れ死ぬ事ね。」

(いやいや、それは浅はか過ぎるだろ――っ。)


 口にはしないが、溜息を一つ。

 それに苛立ったのか、王女はその場で地団駄を踏み始めた。

 どうやらヒステリー持ちらしい。更には、追い打ちをかけようとしてか、通路を照らしていた唯一の光源までも回収して宣った。


「暗い場所で一生を終えなさい!いい?これは命令よ!このまま先に進むの!留まるのも、戻って来るのも許さないわ!」

「一応忠告申し上げますと、私は王と王弟の客人。それに手を出したとなれば――。」

「うるさい!さっさと死になさい!」


 バタンッと、目の前で隠し扉であったそれが閉まる。

 木製だから少し離れた場所から魔法を打ち込めば簡単に壊せるだろうが、そうなると先程の兵士が「暴れだした」として騒ぎ立てるだろう。


「やれやれ、だな。」


 面倒臭い事この上ない。

 プライドばかりが育つのは、背景に自己を保つ手段が『それ』しかないというのがある。見合う程の何かがあれば、プライドなんて必要無いのだ。

 誇り(プライド)というのは守るべき何かしらを持つからこそ尊いというのに――あの王女様には理解したくとも出来ないのだろうな、きっと。


(しかし、王族専用と思われる隠し通路に放り込まれるとはねぇ。)


 通路は黴臭くて、長年使われていないだろう事が分かる。

 こういった通路は幾つかの問題があるんだが――まぁ、何とかなるか。


(穴だらけな計画に、選んだ人物もお粗末、と。これ、どこまで邪推したらいいんかね?)


 王女を使うって事は、王位継承に関わる何がしかがあるって事だ。

 可能性として高いのは、第一王位継承権を持つまだ赤ん坊の王子と、第二王位継承権を持つ王女とで争いがあるという点。この場合、背後に付いているのは王妃その人か、王妃と関係のある連中って事になるな。

 王子側が何か事を起こすって線は無い。てか、限りなく低いと言えるだろう。何せ、そのまま育てば玉座は転がり込んでくるんだ、当然だろう。

 なので、男児が生まれて焦る王女の親かその関係者が暴走し、何処かのタイミングで王子側へとその責を擦り付けようとしている、が流れとしては妥当だろうか。


(ああ、やっぱり面倒臭い。)


 それに巻き込まれる俺。

 だから王族とか貴族って嫌いなんだよ!クソが!


「はぁ。」


 溜息を一つ、奥に向けて手を伸ばす。

 この場に留まるって選択肢も無いわけじゃないんだが、その場合王女側と再び鉢合わせすれば口封じで殺されかねない。

 どうせ迷い込んだって事にでもして適当に暗殺する予定なんだろ?そうじゃなくとも、この中は道を間違えた場合に罠が発動する仕掛けとかなんだろ?死ねって言ったくらいだしな、そのくらい事前に準備なり考えるなりしてあるだろ。

 ――誰が手前らの思惑に嵌ってやるかってんだ。


「【凍結】!」


 探索魔法を発動して内部の入り組んだ構造を把握しつつ、手前から順に奥へ向けてどんどんと凍らせて行く。

 機械仕掛けの罠なんざ、凍ってしまえば作動させる事は不可能だ。魔石を使った魔道具の類も、分厚い氷に覆われてしまえば動くものも動かない。大半がこれで無効化された事だろう、きっと。

 勿論、潜んでいる人間なんざひとたまりもないはずだ。一応、死なない程度に緩めはしたものの、中は冷凍庫並に寒い。動きも鈍るし、今頃は慌ててんじゃないかね?どうせだし、そのまま凍死でもしててくれ。

 とは言え、俺もこれでごっそりと魔力が持って行かれた――まぁ、大丈夫そうだが。


「何が飛び出してくるかねぇ?」


 ふらつく様子もなく、俺は伸ばしていた手をダランと落とした。

 凍てついた通路。そこへ生み出した光魔法が、代わりに辺りを仄かに照らしだす。

 そこは、まるで塗り替えるかのようにして真っ白になっていて――最早、最初に見た光景とは打って変わり、氷の洞窟のような有様を見せていた。


 大人から見て『子供らしい子供』程知能が高い傾向にあるように思えます。

 本当に知識面からも守ってあげないとならない『子供』は、子供らしく見えない事が多いかも。

 無理に背伸びしようとしてたり、大人の思惑までは見抜けず反感を買うような言動を取ったりと、大人からするとそれこそ(都合の)良い子とは程遠いですし。

 そう考えてみたら、子供が媚を売ることを覚えたらおしまいな気がしますね。

 それはもう、大人を意のままに操ろうとしている未成年みたいなものですから。


 2018/10/17 ルビにあった誤字を修正しました。

 このページまでの全体の文章の誤字脱字の再確認と修正を完了。宣言通り、これによる物語の流れへの変化はありません。


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