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053 その錬金術師は王都を訪れる

 王都は概ね、華やかな場所と貧民が押し込まれるごちゃごちゃとした地区とで明確に分けられた所だと言えるだろう。

 人口が増えれば当然、貧富の差も目に見えて出てくる。その中で生まれるのがスラム――貧民街だ。

 こういった場所は物乞いをしている乞食は勿論、犯罪者等の温床ともなっている。危険なのは当たり前で、近寄らないようにか、何処に行くにも兵が着いて回ってくるし観光しようとしたら口出しも多くて大変だ。

 ただな?トイレにまで着いてくるのは流石に勘弁してほしいんだぜ。恥ずかしいとかそういう話じゃなく、大の方で待たせるのが、平民からすると物凄く申し訳無いんだよ。

 知ってるか?奴らは中にまで入ってこようとするんだ!


「――悪い、待たせた。」

「いえ、仕事ですから。」


 流石に個室の中までは来ない。だが、その一歩手前、洗面所までは入ってくるのは最早当然。

 余りプライバシーとか無い……。

 そうしてやるこのやりとりも、もう何度した事だろうか。

 王都へ辿り着くまでの間に、そうそう都合よくトイレ等あるはずもない。その辺の草むらなんかに用を足すのが普通だ。これですら女なら発狂してそうな状況である。


(男で良かった。マジで良かった。)


 そう思うのは、女ではまず、耐えられないというのもあるが――女の護衛だと護衛にならないからだ。

 野盗とかの悪党の類は、女であれば金になるからと、力量差なんて考えずに襲ってくる。つまりは、舐められるんだよ。

 初めから牽制にもならない女の護衛等、ぶっちゃけ護衛としては力不足だろう?それならもう、いっそ暗殺者にでも転向したほうがよっぽど厄介な存在になれる。多分、きっとだが。


(大体、護衛対象というカモに、金になる女が付いてても、それはもうネギを背負ってるようなもんだよな。これぞ鴨葱カモネギって話だよ。)


 そんな事を思うのは、移動の最中に襲われたからである。

 こちらの護衛として着いて来ている兵の数は、全部で50名だ。ちょっと少なくも感じるが、多くなればその分移動に時間がかかる。そして、移動するならば少数精鋭である方が良い。

 その最中に起きた、盗賊や魔物による襲撃。中には休憩時を狙ってきたものもあったんだよな。

 だからって――トイレの最中は勘弁してほしいぜ。


(あれは流石にビビった。)


 事は、王都への移動中である。

 移動中にトイレ等早々行けるはずもない。それぞれが用を足したいからと移動を止めていれば、一向に目的地には辿り着かないのだから当然だろう。

 故に、休憩中にそういった諸々は済ませるんだが――丁度、トイレの為にしゃがんだばかりだった俺。いきなり現れた盗賊にビビって【凍結】を発動したのである。

 その時には護衛として着いて来ていた兵は昏倒させられていたんだが、凍りつかせた盗賊の姿に、俺は自分でやっておきながら悲鳴上げた。

 滅茶苦茶ビビったさ。何せ、気付いたら髭面のオッサンが目の前にいたんだから当然だ。しかもトイレ中。混乱するっつーの!

 どうも女顔なのが災いしたらしいんだがな。俺を男装した女だと思い込んだ賊は、ノコノコと出てきたところで、護衛がいるから大丈夫だろうと油断していた俺の手によって凍り付くことになったのである。不幸だ。


 とまぁ、そんな経緯があったのである。

 おかげ様で、護衛は一人から二人に増えていた。そのせいで、無駄な時間を取らせる者が増えてるという、まさに良し悪しな状況である。


(何だかなぁ。)


 その人員を他に回してもいいんじゃないかとは思うが、少なくとも目的が達成出来るまでは責任の問題がついて回る為に、多少過剰にもなるのだろう。領主の命で、未だその護衛は外れていないのである。

 ――まぁ、本当は護衛と言う名の監視なんだろうけどな。


(しかし、この金魚のフンみたいな状態は、そろそろ勘弁して欲しいな。)


 どうも、この辺は師匠がなんか関係してそうなんだが、詳しくは未だに不明である。

 王との謁見が叶えば、それも判明するとか言ってはぐらかされ続けているし、そろそろ俺も不満が爆発しそうだ。


(ああもう、何故に、王が俺みたいな奴との謁見の場を設けるんだよ!?)


 突っ込みたいところだが、それを突っ込んだところで返ってくるのは「王と会えば分かる」である。おかげで突っ込む気ももう失せるわって話だ。

 尚、王都に辿り着くまでの間の話で、領主が庶子生まれの王弟である事が分かった。それを知った時、驚き過ぎて固まったとも。

 ――なんかもう、本当に色々驚くばかりだな。


(後出し情報が多過ぎる――おかげで、考える事すら放棄したくなってくるぜ。)


 尚、馬車での移動はうんざりだったが、その後謁見の日が決まるまでの数日間を屋敷に閉じ込められたままに過ごす羽目に陥るとは、この時の俺は思ってもいなかった。

 爆発したかって?流石に爆発したとも!

 屋敷の一部――主に俺が閉じ込められる事となった部屋――が、凍り付いたのは言うまでもない。ちょっとスッキリ。


 ファンタジーでよく出てくる問題『トイレ』。

 旅物でもそうですが、女キャラはこの辺りかなり重要でしょう、ええ。一番無防備になりますからね。

 特に主人公が女だと、確りと気を付けないと「どうなってんの?」となる事請け合いです。


 それとは別に、権力者は勿論、ある程度高い地位にある人と会うには、事前に日程を調整してもらって、会う為の場を整えるだけの時間が必要です。

 この為、事前連絡は必須ですね。ここをすっ飛ばすと、間違いなく門前払いをくらいますので。現代社会では常識ですとも。

 そして、その為のスケジュール調整の間、主人公は屋敷に閉じ込められたという……なんて理不尽っ。


 2019/02/06 報告いただいた誤字を修正しました。人工→人口。


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