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051 その錬金術師はパレードに参加する

 パレードって言い方悪いけど見世物と変わらないと思う。

 それをさせられて喜ぶ程、主人公は楽観的になれないでしょう。


 花びらが舞い、色とりどりの花弁に目が奪われる。頭上に広がっているのは青空だ。雲一つ無い。

 そんな快晴の下を広がるのは、華やかな空間だった。熱狂する人々の声に、向けられる羨望の眼差しが熱い。

 だがしかし、その目を向けた先にあるのは――俺の乗り込んだ馬車。


 これにはちと荷が重いと言わざるを得なかった。


 何せ、そこにあるのは期待だとか、希望だとか、どれもがとにかく分不相応な感情なのだ。

 当然、向けられる方としてはそこに何がしかの理由があると知っているのもあって、気分が重いったらない。


「救世主様、万歳!」

「ばんざい!バンザイ!」


 都市を進んでいるだけで、あちこちから救世主と呼ばれる。それに、貼り付けた笑みが引きつる。致し方無いだろう。


(なんでこうなってしまったんだろうか?)


 まさしく持ち上げられている現状。頭を抱え込みたくなる。

 俺は目立ちたく無かったし、こんな状況に引きずり込まれて、人々の視線に晒されるなんて、望んでなかったのだ。

 そっと溜息を吐き出せば、隣に座る領主から目線で心配される。それにも気が重くなる。


「――大丈夫か?」

「ええ、何とか。」


 御者席の後ろ、天鵞絨ビロード張りのソファの馬車に詰め込まれたまま、俺はそっと目を伏せた。

 何とも重みのある呼び名だ、救世主なんて……。

 少なくとも俺には、救世主なんて大それた名は重すぎて現実感すら沸いてこないものだ。まるで、夢の中にでもいるかのように、全てがどこか遠く感じる。

 しかしながらも、今のこの現状は、流石に受け止めないとならないだろう。

 何せ、この状況を敢えて作り出されているのだから。


(これが、夢だったらどんなに良い事か――。)


 向けられる笑み。

 叫ぶように言われる『救世主』の三文字。

 どれもが胸に突き刺さってくるようだよ、全く。


「何故、私なんですか?」


 そっと、隣へと問いかける。

 熱狂する人々の声は大きく、俺の耳はそのうち馬鹿になってしまいそうだ。

 聞き取れなくなりそうな程の歓声に、気分が沈んでしまって全然浮上してこない。

 俺もあちらの一般市民に混ざっていたかった。何の心配も憂いも無く、屋台でも巡って笑っていたかった。


「それも、王都で知る事となるだろう。」

「はぁ、そうですか。」


 教えてほしい事程、教えてもらえない。

 今のこの状況は、それだけでも俺を苛立たせるには十分だった。

 再び、溜息を吐き出す。


「はぁ――。」


 この怒りは、今の所どこにもぶつけられない。

 少なくとも、今こうして相手しているのは貴族。天上人となんら変わらない、雲の上の存在である。

 しがない平民で、しかも何の後ろ盾も何も無い状態で流民となってしまっている俺の今の現状では、この状況を止める術は何一つとして無かった。


(辛い。そして、何をさせられるんだろうか不安だ。)


 良く分からない現状からくる不安と、向けられる重責と、逃れられない事への苛立ち。

 それが、俺の気分をとにかく最悪な方へと引っ張っていきやがる。


 この、お飾りの人形を演じさせられているかのような、嫌ぁな感じ。

 果たして、どこの世界に命を張るような事態に巻き込まれかねない役割を押し付けられて、それを望む者が居るというのだろうか?

 少なくとも、俺にはただただ苦行でしかない。今にも逃げ出したくなる心が、現実を現実として受け止めるのを拒絶してしまいそうだった。


「今はどうか、我慢してくれ――きっと、貴殿の為となる。」

「はぁ、そうである事を祈ります。」


 気が重い。

 周囲の熱狂も、俺には遠い世界の事のように感じられた。


(対岸の火事――それなら、きっと、良かったんだ。)


 そうであれば、俺は巻き込まれなかっていなかったのだろうから。

 ノロノロと進む馬車の上で、俺は笑みを貼り付けたままで、ぼんやりとした瞳を虚空へと向け続けた。


 嬉し恥ずかしお披露目会――になるわけがない。

 一応、これで第一章が終わった感じになりますかね?

 次からは王都編になります。多分、きっと。


 2018/10/17 領主の口調を少々変えました。読み返したらなんか丁寧になってたので違和感が満載過ぎる。なので、最初に登場したところから変わらない偉そうな感じに戻しときました。

 2018/12/26 ご指摘いただいた誤字を修正しました。教えてくれた方ありがとうございます。


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