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005 その錬金術師は無事に翌朝を迎える

 森の中に朝日が差し込む。

 一夜明けた今日、下流に進むか上流に進むかで運命が分かれる。

 ただ――、


「ここは上流一択だろ?」


 かつてとはいえ港町だったところが出発地点だ。そこより下にあるのは港くらいだし、海の魔物は手に負えない奴らが多くてやってられない。遭遇する可能性は最初から排除だ。

 というわけで、進むべき道は上流のみ。幸いにも、町の周囲の地理は覚えている。川の場所にだって相違は無かった。多少変わっていたとしても、川沿いに進めば何時かは人の生活圏に辿り着けるだろう、きっと。


「全滅してなければ、だがな。」


 問題となるのは、それまでに対処しきれない魔物と遭遇しない事と、野党や山賊の類に襲われない事、そしてこの格好のままで不用意に誰かと遭遇しない事である。

 対処しきれない魔物との遭遇はそのままジ・エンドだ。野盗とか山賊は見た目で判断するにしても限界があるし、先に見つかれば餌食になりかねん。最後のは、善良な一般人と遭遇してもゾンビと間違われる可能性があるからだ。


「て事で、死ぬのは嫌だ。アンデッドに間違われるのも嫌だ。なので、先に発見する事にする。」


 前者二つはともかくとして、ホラーへの恐怖耐性が無い奴と遭遇すると、間違いなくゾンビとかと思われる今の俺の格好は非常に不味い。

 そして、そういう奴に限って、人の話は聞かずに暴走するものである。結果、そいつに攻撃手段があると、勢い余って襲いかかって来るという事もあるのだから、手に負えない。


「出会い頭にこう、ブスッとか、あるいは火魔法や魔術で焼身とか――有り得なくも無いから嫌なんだよなぁ。」


 実際、在学中に夜中に気の弱い奴と遭遇した際、何をトチ狂ったのか魔法で焼かれかけた事がある。

 その際の出来事で、寮が火事となり、そいつは責任を取らされて退学させられたが、被害にあった俺は若干、火へトラウマを植え付けられた感じだ。


「焼かれるのは嫌なんだよなぁ。」


 熱いし痛いし辛い。しばらく火傷で悶々としたくらいだ。

 大体、生きたまま焼くとかどこの魔女裁判だよ。俺は魔女じゃないし。それ以前に、男だ。勘弁してくれ。

 何よりも、錬金術師は卵であろうとも黒魔術使用者には決して成り得ない。人を癒やす職業という建前があるので、黒魔術系の呪いはご法度である。従って、アンデッドを寮内に放つとか有り得ない話だった。


「あれの一件で、師匠に攻撃魔法を仕込まれたんだよなぁ――多分、自衛の為なんだろうけど。」


 使えるのは幅広く応用できる水や氷と、火と風と土。前者は特に錬金術との相性が良かった俺は、真っ先に水魔法を習得してたんだが、攻撃に向かないと他の属性を叩き込まれた。

 そんな俺が作るのは主に回復薬の類いばっかりだ。おかげで、清水を生み出す水と、凍結粉末にする氷は良くお世話になっていたんだが、ある時から錬金術師としてではなく魔術師としてのノウハウを叩き込まれて混乱したものである。


「あの人、無茶振り酷かったんだよな。どうせなら火炎竜巻くらいやってみせろとか言われたけど――それもう錬金術師じゃないから。魔導師の中でも最高レベルの奴らだから。師匠はおかしいんだよ、ったく。」


 一体、あの人は俺を何処に向かわせようとしていたのだろうか。

 ――完全に、錬金術師としての道から足を踏み外させようとしていたのは、決して俺の気の所為ではないと思う。


「とにかく、上を目指して行こうか。」


 そんな過去を振り払いつつ、目に見える川を上流へ向けて進んでいく。上流と下流の見分け方は流れる水の方向。言われなくとも誰でも分かる話だな、うん。

 一夜を森の中で過ごしたが、若干寝不足だ。火の番は別に灰を被せておけば翌日まで持つので問題無いのだが、着の身着のままだったせいで肌寒かった。おかげで、何度も目が覚めた。

 それでも早足で歩く俺は、前日の疲れは大分癒えている。足元が河原というのもあってスピードに乗っていた。

 出来れば、この森とはさっさとおさらばしたいところだ。そうでなくても、道の一つくらいは今日中に見つけてしまいたい。


「よしっ。」


 そんな思いを胸に抱きつつ、気合と入れた俺は川沿いを延々、歩いて遡るようにして進んで行った。

 早い内に、人の生活圏に辿り着けますようにと、ただ願いながら。


 修正:感知魔法→探索魔法で統一。

 探索魔法使ってれば不意打ちも防げるのでは?と思うところですが、魔力には限りがあるのでいざという時に「MP切れた!」なんて事態を避ける為にも、温存するのがこの場合の選択肢としては最善かと思われます。

 魔法使いや魔術師といった職業は魔法が使えなかったら只の人より非力ですからね。ゲームでもその傾向がありますし、それはこの作品の主人公でも同じです。何より彼、ポーション作ったりする錬金術師という生産職ですから、魔法使いとしても微妙なラインです。

 万能に思える半面、多用すれば枯渇して身動きがとれなくなるという難点も魔法使い系統にはあります。ソード・○ールドなんかを知ってる人なら分かる話じゃないでしょうか。

 尚、主人公の師匠はこの後も度々作中に登場します。どういった人物かは、後半明らかにする予定ですので、興味を持たれた方はよろしければ今後共お付き合い下さい。


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