045 その錬金術師は貿易都市を再び訪れる
二つに場面を分けました。
意味?多分無い。
領主からの手紙だという郵便物を受け取れば、そこに記載されていたのは簡単に言えば招集、悪く言えば出頭命令だった。
ただ、犯罪を犯してって意味での出頭じゃない。領地を上げての歓待の席を設けたいから、というものだった。
その為の返事(実質拒否権は無い)を開拓村に駐在していた兵の一人へ告げて、謹んで受ける事を知らせてもらう。
その兵が戻ってきて、歓待の席が整ったところで移動だ。
そうして、今現在、その移動中の馬車にて俺は揺られているところである。
(真に受けたら喜ばしい事なんだろうが――裏で何を要求されんのかね?一体。)
俺は錬金術師だ。生産職であり、加工を主な生業とする職である。
しかし、領地で俺がやった事で呼び出しを喰らう理由になるものとして上げるなら、魔物の討伐くらいだろう、きっと。
一部の開拓村と交易を始めたとは言え、それだってつい最近の事だ。大した利益を上げたわけでもないので、領主その人の目に留まるとは考え難い。
となると、今後の展開で求められるとしたら――戦力として、だろうか。
しかし、それは俺には出来ないと言わざるを得ない話だ。
俺はあくまで生産職なのだ。もともと、戦闘に不向きだったのもあって、自分でも苦手だと理解している。
固定砲台としてなら活用法もあるかもしれないが、それは戦争くらいなものであって、早々無い事だろう、きっと。
(面倒臭いな。上手いとこ撒ければいいんだが。)
最悪、今の拠点を手放す事も視野に入れないとならない。
それはちょっと、面倒臭かった。
(あの土地には愛着もあるしなぁ。出来たら、無理難題吹っかけられない事を願う――っと。)
考え事をしていたからじゃないだろうが、馬車が何かに引っかかって大きく跳ね上がった瞬間、身体までふわりと浮かび上がった。
一瞬の浮遊感の後、すぐに叩きつけられるようにして固い椅子の上に落ちる。クッション性も何も無い。
(サスペンダーも無いみたいだもんなぁ、この馬車。揺れる揺れる。)
轍のついただけの悪路を走る為に、ただでさえ乗り心地の悪い乗り物が、居心地の悪いものとなってしまっていた。
これが襤褸馬車だったらそういうものと俺も思ったのだが、一応歓待を受けている身。使われている馬車は箱馬車と呼ばれる物で、それなりに高級な部類のはずである。
だが、見た目はともかく性能は駄目だ。駄目駄目過ぎる。これじゃぁ、都市に辿り着く前に俺の尻が耐えられないだろう。
(クッション、クッションっと。)
空間庫を開いて、時折ハンモックで昼寝する際に使っていたクッションを幾つか取り出して下に敷く。
少しはマシになったが、それでも大きくガタンッと揺れる度に跳ね上がるのは、最早どうしようもなかった。
◇
「――救世主様だ!」
「救世主様が来たぞー!」
(は?)
馬車に揺られ続けている間に、そんな声が聞こえてきたのは夕闇迫る頃の事。
どうやら都市に着いたらしい。戸惑う俺を他所にして、都市の中は――やけに熱狂していたようである。
「わー!こっち向いてー!」
「キャー!綺麗ー!」
「……。」
思わず無言になって窓を閉める。
何だあれは。何なんだ、一体。
通りを埋め尽くさん勢いで群れる人の山。誰も彼もがこちらに視線を注いでくる。
しかし『救世主』って何だよ?俺は何時そんなものになったっていうんだよ!?
「どうかされましたか?」
「いや……。」
横付けで馬を進める兵の一人がそう言って声を掛けてきたが、思わず目を逸らしておいた。
いや、なんつーか、どいつもこいつも変に持ち上げてきてキモいんだよ。
なんで俺こんな事態に晒されてんの?一体、俺、何をさせられそうになってんの!?
(戦闘じゃない事を祈りたい。切に、祈りたいっ!)
俺の預かり知らぬところで、余計な事に巻き込まれようとしている――。
そう、薄々と感じたそれは当たりで、しかし同時に外れでもあるのだと、一年の引き篭もりから脱して俺は知る事となる。
何か面倒そうな事に巻き込まれようとしている主人公。
しかし、思っているような事態は多分起きません。
現時点ではあくまで歓待でしかなく、預かり知らぬ事のままです。
ようやく貯め込んでた分が捌けた!やったね!
でも、このペースだと一日に数話くらいの投稿になりそうです(謎)。
一応誤字脱字無いか見直したりもしてますが、もし見つけたらご指摘下さいませ。




