043 閑話 その錬金術師は調査される
再び領主(王弟)の話。
農村部へと赴き、開拓村で得られた情報は、ゴブリンと呼ばれる小型の魔物が草原へと住み着き、しかし一月前には殲滅済みだという話だった。
「――一体、どういう事だ?」
当然、私はその事に疑問を持つ。
ゴブリン共の姿が確認され、このままでは危険と判断して王都へ援軍を求めに行ったくらいだ。つまり、我が領だけでは対処仕切れない状態だったのである。
だが、戻って来てみれば、既に討伐済みだという。未だ森は不気味な静寂を保っているが、そこから新たな魔物が出てくる様子も無いらしい。
これはおかしいと――兵達を問い詰めた。
「何故言わぬ!?お前達が成したのでなければ、誰が成した!?」
「申し訳ありません。私共の口からは言えないのです!」
だが、誰一人としてその立役者の名を口にしなかった。
終いには領主婦人のお触れだというではないか!
「なんて馬鹿な事を――。」
その事にも苛立ちを覚えるが、無理矢理吐かせようとしても、誰一人として口を割らない。入知恵をしたのはその立役者なのだろう、きっと。
口を割らないのは、宣誓の魔術によるものだという。だが、そんな魔術は聞いた事も見た事も無い。何だそれは?私は習ってないぞ!?
(これは、私が舐められているのか――。)
そう、最初は虚偽の報告で謀ってるのかと思った。
私が下賎な血を引く子だというのはおそらく国中で知られた事だろう。故に、舐められているのだろうと。
だが、そうではないと、誰もが頭を垂れて必死に弁明するのだ。謀るにしても何かがおかしい。
「ネメアが何か言おうとして止まっていたな――あれも宣誓の魔術とやらか?」
「はっ。おそらくはそうだと思われます。」
「伝えようとするだけで止まってしまうとは、何と厄介な――。」
そんな魔術を扱う者等、今まで聞いた事も無い。
しかも、それを領民全員へと一度に施したというのだ。一体どんな化物だ、それは!?
「申し上げます、その者はとても洗練された立ち居振る舞いで、言動もまた平民とはかけ離れておりました。」
「――どこかの貴族か王族が流れてきたとでも言うのか?」
「はっ、可能性とは有り得るかと――お一人でしたが。」
「クソっ。」
もしそうだとしたら、後でどんな無理難題を突きつけられるか分かったものではない。
未然に領地の窮地を救った等と触れ回れば、それだけでこちらは下手に出るしかないのだ。
だが、その者が一体どんな目的があって手を貸したかも分からない。この現状は、非常に厄介だとしか言えなかった。
「――失礼を承知で、申し上げさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「何だ?」
それまで控えていた兵の一人が、口を挟んでくる。
元々我が領に残っていた兵だ。こいつも宣誓の魔術に縛られているらしい。
隊長格までそうなのだから、どれだけ後先考えなかったのだろうか、我が領の兵士達は――。
「少なくとも、我が領をお救い下さった方に関しては、ご心配に及ばないものと思われます。」
「何?」
「と言いますのも――。」
告げられた内容は、耳を疑うものだった。
曰く、ゴブリンは元は妖精種であったと。
そこから堕ちて亜人種になったのだと。
かつては悪党の真似事をしており、しかし人を喰らう事は無かったと。
それが、立役者の口から語られたと。
――一体、何時の時代の話をしているのだろうか?
「そんな常識は今は通用せん。ゴブリンは魔物、それが今の常識だろう?」
「はっ。私もそう思っておりました。しかし、かの御仁は、ゴブリンはあくまで亜人種だと仰っていたのです。」
「馬鹿な――。」
ゴブリンは魔物。それが今の常識であり覆らない考え方だ。
しかし、領地を納めるに辺り、私とてそれなりの教育を受けてきた。
その中に、ゴブリンが亜人種とされていた時代があるのを知っているのだ。
だがしかし――それは、魔導王国時代での話である。
千年以上も前の話だ。今では有り得ない。
「その者の特徴を何でも良い。情報も出来る範囲で良い。ああ、安否は分かっているのか?無事なのだろうな!?」
嫌な予感がどんどんと湧いてくる。
兵をお借りしに行った時、陛下はなんと仰られていたか?確か「かの時代の提唱者達同様、災害を免れた者ならば、今まで通り丁重に扱え。」とだったか――?
「ああ!いかん!せめて存命かどうかだけでも知らねば!」
今の時代では見た事も聞いた事もない魔術。
更には易々と領地を救った立役者。
加えて、過去の常識を持ち出してくる非常識さ。
どれ一つとっても、可能性があるではないか!
「今、今その者は何処に居る!?ああ、はっきりとは言えないのだったな!?遠回しでも良い、言える範囲で述べよ!」
「は、はっ。わ、分かりません!最後に森に入ってから、火柱が見えたその日より姿を晦ましたと言う話です!」
「そ、その火柱は何処だ!?何処から見えて、どの方角からだったのだ!?」
私の絶叫が、未だ立て直し中の開拓村の中で響き渡る。
それに続いて、バタバタと駆けて行く足音が複数響いた。
「何処だ!?何処だったのだ!?言え!それだけは何としてでも吐け!吐き出すんだ!」
「い、今詳しい話を知っている者を呼んでおります!今しばらくお待ちを!」
「早くしてくれ!事は領地の事よりも重大かもしれんぞ!?早くだ!」
「ははっ!」
急かす私の元へ、詳しい話を知る斥候がやって来たのは、それから数分もしない間だった。
しかし、森に入り込むのを躊躇う私達に、その者の安否を知るのは難しく。
――長い時間がかかってしまう事になるのである。
何だか大変な事になったようですが、文中で立役者とされている主人公はこの時既にのほほんと森での暮らしを始めています。
何かと温度差が酷いよ!って話の方向でギャグ織り交ぜつつ進行してますが、本筋の方ではシリアスは後半にでもならないと顔も覗かせない事でしょう、きっと。
尚、森での暮らしについては~○○編~に記載しています。時間軸が前後していますが、次から本筋の時間軸とも一致して進みますので、違和感も少なくなると思われます。
2018/10/17 加筆修正加えました。
2018/12/14 加筆修正を加えました。誤字一個発見ー。




