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040 その錬金術師と宝石~黒曜石編~

 家が出来た直後くらいの話です。

 錬金術に使う道具で精密さ等が必要となる品は、流石にプロの物でないと不安が残る為購入してある主人公。

 しかし、それ以外はほぼ手付かずで入手してきていません。

 その為に起きたであろう問題を解決するお話で、す?


 黒曜石こくようせきの歴史はとても古い。

 何せ、人類が石器を用いるようになった原始時代にまで遡ると言われるからだ。


 ただ、黒曜石には宝石としての価値と、黒曜岩として石器に用いる場合とがあるのを知っているだろうか。


 硝子に良く似た性質を持つので、ある程度の衝撃で割れるのだ。この為、加工は容易く、槍の穂先や矢に使うやじり、そして短剣ナイフ等への加工が大昔からあった。

 その色は名前同様に黒く、偶に茶色だったり半透明だったりする事もあるが、概ね黒の透明度が低い石だ。

 しかし、マグマが固まった物とされており、様々な色の混じった美しい物なんかは、研磨されて装飾品や宝飾品として用いられる事がある。


 そんなこの黒曜石、実は土壌改良材にもなるんだよ。


 1,000℃という高熱で加熱する必要性があるが、それによって出来る真珠石パーライトは、根腐れ防止の効果が見込める優れものだ。

 黒曜石を加工した後出来る真珠石の見た目は、名前通りに白く粒状で、軽石みたいに孔がいっぱい空いてるんだが、この孔がその効果を齎すんだな。

 

「割りと加工してるとゴミが出やすいし、再利用としては有りだよなぁ。」


 解体用の予備のナイフは勿論、包丁すら無かった俺の家。刃物関連の購入は流石に不味かろうと配慮した結果、見事に困る事となったのだ。

 それでどうするか考えた結果、どうせだし黒曜石を加工しよう、となった。鉄とかインゴットはまだまだあるが、それだって何時までもつか分からない。無駄遣いは避けたかったのである。


「何より黒曜石は切れ味抜群だし。鉄は錆びるしな。」


 その為に医療用のメスや剃刀カミソリにも使われる事がある。

 解体用のナイフなんかは現状では余り使う物でもないし、利用しない手は無いだろう。


 まず、黒曜石の採取だが、流石に鉱山なんかはこの辺りには無いので、山を探して掘るというのは無しだ。仮に鉱山があっても、国が所有してたりってケースが多いからな。探すだけ無駄だろう。

 そのかわりに、川辺の石を見繕いながら地面に叩きつけて割り、その割れた断片が硝子質かどうかを確認する方法を取る。仮に割れなくてもそこはそれ、黒曜石じゃない違う物だったって事だ。

 これなら窃盗にもならないし、森の中の川沿いを行くので誰かに咎められる心配も無い。故に、安心して行える。


「これは違う。こいつも違う。こっちも違うな――。」


 そうして、ポイポイとそれっぽい黒い石を投げまくりながら下っていく事、数時間。

 そろそろ昼飯にするかと思った頃になって、ようやく目当ての物が見つかった。


「断片は硝子質、尖った所は鋭いしこれで間違い無さそうか。うん、この辺りを探索しよう。」


 しかしその前に飯だ、飯。

 昼飯用にと持ってきたのは、今朝焼いたパンもどき。まだイースト菌を得られてないからしょうがない。膨らんでもいないナンみたいなパンだ。

 窯と薪は急遽作成した。炉で流石に食い物は焼きたく無い。あれは金属とかを加工する為の場所だ。故に別々にすべきである。

 そんな窯で作ったパンは、持ち運んできた間に冷めてカチカチになっていた。割りと固すぎて顎が疲れる。


「――うん、携帯食料も微妙だが、現状で作れる食い物の質もアレだな。手を入れる必要性があるな。」


 固いパンは千切って水で飲み込むようにし、周囲に生えている食べれる物を採取して口直しにする。

 季節は春だが、色付いているイチゴ類がアチコチで見られる。普通の苺を筆頭に、ブルーベリーやブラックベリーも、一部は早くも色が付いていて食べられる状態だ。


「ジャムを作るにしても砂糖の問題も何とかしないとなぁ。」


 砂糖を作るなら甜菜テンサイの栽培を始めないとだろう。

 砂糖黍サトウキビでは植生に適していないし、この辺りで見つかるとしたら甜菜だ。

 そんな甜菜の収穫期は秋の初めになるので、早めに見つけて畑に植え替えておかないとならない。


「考えてみると、一人で暮らすにはやる事が多いな?」


 これから黒曜石を採取して、包丁と解体用のナイフを作って、でもって甜菜を探して植え替えて、更にはジャムの加工をして保存食を作って――と。

 他にも薬草の植え替えや採取、薪を集めたり木材の加工なんかも今後も出てくるだろう。

 何より夏に沸く毒虫への対策も必須だ。これから重要にもなってくる。


「わぁ、大変だ。」


 そんな事を言いつつ、口の端が釣り上がっていく俺。

 だって、面白そうじゃん?しかもそれが自分の生活の向上へ役立つんだから、手を出さないわけがない。

 錬金術師というのは、生活にも密着した職業でもあるしな。やれる事が多い現状は、同時に楽しみでもあるのだ。


「折角だし、弓矢も作っておくか。」


 尚、その狩りの相手は居ないという。

 そうして俺は当分の間、この時作ろうとした弓矢の存在を忘れる事となるのだった。


 やろうやろうと思っておいて、他の事に気を取られている内に忘れる事ってあると思うんです。

 それがしょっちゅうだと「あれ?認知症?」とか思ったりする事もありますが、決してそんな事は無いと信じたい。


 2018/10/17 解体用のナイフは24話で短刀を既に鋼で作る発言が主人公にあった為、作中では予備としました。黒曜石製では護身用に心許無いので、主に家に置いて置く用ですね。


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